[往復書簡]国籍のゆらぎ、たしかなわたし【第三期】|第2回|無関心と、無意識と(サヘル・ローズ)|サヘル・ローズ+木下理仁

[往復書簡]国籍のゆらぎ、たしかなわたし【第三期】 サヘル・ローズ+木下理仁 じぶんの国籍とどうつきあっていけばいいだろう。 「わたし」と「国籍」の関係のあり方を対話のなかから考える。

自分の国籍とどうつきあっていけばいいだろう。 「わたし」と「国籍」の関係のあり方を対話のなかから考える。

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[往復書簡/第三期]第2回
無関心と、無意識と
サヘル・ローズ


木下理仁さんへ

こんにちは、木下さん。サヘル・ローズです。
私、自分の名前をよく噛むので、
出会った方には「さっちゃん」と呼んでくださいね、といつも言っています。
木下さんもぜひ、呼んでね。

あっ、木下さんのあだ名は? なんですか?

こちらこそ、心のこもったお手紙に感謝致します。
なかなかお手紙をいただく機会が減っていく世の中ですが、
応援してくださる方々からはお手紙を時折いただいていて、
本当に個々の人生があり、いつも考えさせられています。

今回の木下さんのお手紙でも、
温もりの言葉が多く、
そして今の時代にフォーカスをされている視点に共鳴をしています。

そっか、去年の2月の「ボーダレス・カフェ from カナガワ」に呼んでくださり、
そこからこんなにも深く思いをはせてくださっていたことに感動しています。
ありがとうございます。

あのときの写真、遠足の写真を思い返しています。
本当に人間って不思議。
なぜ、こんなに誤魔化して生きられるのか?
とくに、自分自身を誤魔化して生きていくことが多い。

外に向けては器用なのに、
自分自身に向けては不器用。

木下さんは?

いまね、お手紙を書きながらふっと思いました。
「誤魔化す」、この漢字、なんだか嫌かもしれないです。
もっと違うニュアンスなはずなのに、
言葉は形が決まってて、
その漢字が読み解くのは心ではない、表面的なことが多い。

だからこそ、ひらがなかカタカナを私は紡ぐことが多いのかもしれないです。
そう、ときおり、だれかが作った「普通」や「当たり前」に抵抗してしまいたくなります。

人生や人間が生きるうえで、
規則やルールは身を守るため、安全性のために必要ではありますが、
その伝え方ひとつで、「押しつけ」になってしまうこともあります。
なぜ、こうなってしまうのか? と考えていくなかで、
流れてくる情報という回転寿司のネタを私たちはいただいていますが、
それがどこからきてて、どのように調理をされていくのか?
じつはわからないし、わからなくっても困らない。

そう、ここが重要なのかもしれない。
「困らない」という心境。

でも、無関心になっていく要素。
難民問題でもそうですが、彼らの人生は、
時代によって、国によって破壊された。

もちろん、いろんな方々がいますので一概には言えませんが。
でも、最初からレッテルを貼って相手を見てしまうと、
本質がどんどん遠ざかってしまいませんか?
木下さんも書いてくださっていましたが、
難民認定をされることで在留資格を得て、
安全に生きていく権利が平等にあってほしいと私も思っています。
「カテゴリー」があることで守られるものと、
カテゴリーがあることで「生きづらさ」を抱えて生きていく人びとがいますね、確実に。

お手紙を書きながら、私自身もカテゴリーを考えて書いてることに変な感じがしてて。
カテゴリー化されることで、意見に従ったり、
できている道を歩くことが居心地よく感じるケースと、
私のように枠にはめられてしまうことで息苦しさを感じてしまう、
そういうケースもありますよね。

私自身、中東というカテゴリーによって、
エキストラ時代に「テロリスト」の役を多く求められました。
白人とそうでない人びと。
表現の世界でも感じますし、
今のロシアとウクライナでも心が痛むことがあってね。

ロシアによるウクライナ侵攻によって、多くの罪のない人びとが祖国を破壊され、
日常を奪われてしまい、家族も思い出も壊されてしまった。

この戦いで破壊されていく街以上に、
粉々になってしまった「心」。
これはもう、修復は不可能。

そして生き延びたことを喜べるのか?
いろいろと考えてしまいます。

そんなときに友人の言葉が頭をよぎってしまって。

「このロシアとウクライナの状況を見ていて、自分達を見てるようだ。ただ大きく違うのは、私たちの事は、世界は同じように関心を持ってもらえなかった。それが辛い。だからこそ、もし停戦になっても、終わったからよかったね、ではなく。ずっと関心を持ってあげてほしい。そして今も、シリアをはじめ、世界中で戦争、紛争、侵攻が起きている。今も、現在進行形で。難民となっていく人々。そこに不平等は起きてはいけない。今、難民の中で不平等と感じる人々もいる。自分達と白人の人々との違い。みんな『祖国を奪われた一人の人間』。それを知っていてほしい。ウクライナの人々のために私たちは祈っています。いつも心は一緒です」という言葉です。

胸が詰まりました。
アフガニスタンもそうですが、いまなお、戦いは世界中で起きています。
それに対して無意識にできてしまう、「カテゴリー別」の何かがあるのかもしれない。
うまく言葉にできなくってごめんなさい。
差別とかではないですが、
何か無意識のうちに生まれてしまう「わかりやすい構造」。
それが、カテゴリーが生まれた背景にあるのかもしれない。

結局は、生きやすさを求めるうえでは必要不可欠なのかもしれないです。
私の言葉が正しいわけでもなくって、あくまでも個人の思いを紡いでみました。

こんなふうに世の中が「対話」しあえたらいいのかもしれない。
こういうコミュニケーションをとることで、
自分の中で作っていたカテゴリーにも気づけますし、違った視点を得られる。

意見が異なることを楽しめたらいいのに、
どこかで「排除」されてしまうことも多いご時世。

ね、人が「自分らしく生きる」ためには何が必要だと、木下さんは思いますか?

感謝を込めて、はぐはぐ。
穏やかな日常を世界の人々へ。

PS. 交換日記みたいで嬉しいな。
中学時代に交換日記をしている子たちを見てうらやましくって。
やっと念願の交換日記体験ができています。ありがとう、木下さん。

 

サヘル・ローズ(さへる・ろーず)
俳優。1985年イラン生まれ。8歳で来日。日本語を小学校の校長先生から学ぶ。舞台『恭しき娼婦』では主演を務め、主演映画『冷たい床』では、ミラノ国際映画祭で最優秀主演女優賞を受賞するなど、映画や舞台・俳優としても活動の幅を広げている。また、第9回若者力大賞を受賞。国際人権団体NGOの「すべての子どもに家庭(かてい)を」の活動では親善大使を務めた。個人的にも支援活動を続け、公私にわたる福祉活動が評価され、2020年にはアメリカで人権活動家賞も受賞。今後も、世界に目を向け活動していくことが目標。