[往復書簡]国籍のゆらぎ、たしかなわたし【第五期】|第6回|調べる、知る、広める(長谷川留理華)|長谷川留理華+木下理仁

[往復書簡]国籍のゆらぎ、たしかなわたし【第五期】 長谷川留理華+木下理仁 じぶんの国籍とどうつきあっていけばいいだろう。 「わたし」と「国籍」の関係のあり方を対話のなかから考える。

自分の国籍とどうつきあっていけばいいだろう。 「わたし」と「国籍」の関係のあり方を対話のなかから考える。

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[往復書簡/第五期]第6回
調べる、知る、広める
長谷川留理華


木下理仁 様

 こんにちは。2回目の手紙が無事届き理解していただけたようで、よかったです。

 マイナンバーカードについては、木下さんのように「なんだかうさんくさい」「どうしてそんなものがいるのだろう?」「国に管理されるのはごめんだ」と思うのが一般的ではないでしょうか?

 でも私は、帰化した外国人は在留カードを持っておらず、顔だけでは帰化していることがわかるわけでもなく、みんなが免許証や写真付の身分証を持っているわけではないので便利だと感じました。

 自分の母国では国民として認めてもらえず、国民カードも発行してもらえなかった私だから、カードがあることに安心感を抱くのだと思います。

 日本以外の他国では、見た目だけでどこの国の人? と聞かれることは少ないみたいです。日本では「外国人らしい顔」を見るだけでどこの人? とはじまります。それが白人ならあまり差別的な態度ではないのですが、アジア系や黒人だと視線や態度がまた違います。

 現状の日本ではだれもがマイナンバーカードや、在留カードや、国民カードといった「カード」を持たず安心して暮らせることは不可能に近いのではないでしょうか? 犯罪者やおたずね者なども社会にはおりますので、やはり身分証明書は大事だと感じます。

 私はオーストラリアに行ったことがないので、そちらの差別禁止法がどんなに守ってくれるのかは想像がつきません。

 でも、帰化してから仕事でクーデター以前のミャンマーに行ったときのことを思い出しました。毎晩、安心して眠ることができませんでした。自分が寝ているあいだに警察が来て、逮捕されたらどうしよう? 何もしてないけど、何かわからないものに怯える日々でした。法律に守られてるわけではないからです。

 まさに、日本ボケですね。日本が安全なので、法律がまったく守ってくれない世界は不安だとあらためて知らされた気がします。

 木下さんは日本の2016年にできた「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」(ヘイトスピーチ解消法)によってどこまで差別などを解消できると思いますか?

 私は、いまのところあまり効果を感じておりません。法律ができてもそれを活用しようとする人が増えなければいけないと感じます。私は職場で暴言を言われたり、差別されて苦労し、苦しんだりしている方の相談を受けたことや、体験談を聞かせてもらったことが何度もあります。

 日本で生まれ育った人には理解しにくい苦労もあると思います。たとえば、日本では基本的にどこの地域に産まれ育ったかによって県境や公共機関、職場や学校で差別されることはないですよね。

 差別をなくすために、木下さんのいうようにディテールを知ってもらうことは大事ですが、リアルにイメージしてもらうことはなかなか難しいですね。

 いまは世界中のニュースをネットニュースやSNS、テレビでも知れる時代なので、知らないことを知らないままにせず、知ろうとすることがとても大事だと感じます。

 私が講演会やいろんな場で言っている言葉があります。「調べる、知る、広める」この3点がとても大事だと思ってます。

調べる:なんでも簡単に知れる時代ですが、デマも山ほど出回ってる時代でもあります。だからこそデマに流されないために、調べる。

知る:何も知らないと何をすればいいかわからない。そのために知る。

広める:自分が知るだけではなく、ひとりでも多くの人に広めることによって、多くの人が知ることができる。

 そうすることでよりよい支援ができると考えております。十人十色。10人が知れば10通りに支援ができますから。

 ロヒンギャとして生まれ無国籍者としていろんなモノを失い、帰化し、日本人として生きる私ですが、いましている支援活動を縁に応援してくれる方もいれば、「小民族は国に帰れ」などの侮辱的な言葉をぶつける方もいます。

「出る杭は打たれる」という言葉があります。それでも、自分にできることはできる範囲で活動しつづけます。今後ともよろしくお願いします。

 これから冬本番ですが、木下さんやスタッフのみなさんも体に気をつけてよい年末年始をお過ごしください。



■2023年12/23(土)長谷川留理華「親子ロヒンギャ料理教室&絵本の読み聞かせ」が開催されます

長谷川留理華さんのイベントのご案内です。12月23日(土)、新宿ワープにて「親子で作ろう! みんなで楽しもう! ロヒンギャ・難民・無国籍ってなに? 親子ロヒンギャ料理教室&絵本の読み聞かせ」が開催されます。当日は長谷川さんがビリヤニ(炊き込みご飯)とラペットゥ(お茶の葉のサラダ)のレシピを伝授。料理を作りながら、ロヒンギャ・難民・無国籍についてもお話しします。無国籍をテーマに絵本の読み聞かせもあります。お申し込み、詳細はリンク先のGoogleフォームにて。

 

長谷川留理華(はせがわ・るりか)
ミャンマー北西のラカイン州(アラカン)に生まれる。1992年、首都ヤンゴンに家族とともに移る。身の安全のためロヒンギャ民族であることを公にせずに生活。2001年、たび重なる迫害や差別に限界を感じ家族とともに来日。2013年、日本人となる。現在は、在日ビルマ・ロヒンギャ協会、無国籍ネットワークの運営委員。ロヒンギャ語の翻訳等の業務を行うかたわら、早稲田大学、立教大学、上智大学、獨協大学等で講演。NHK ETV、YOUTUBEの報道チャンネル等の番組に出演して自分の体験した社会問題を広く伝える活動を行っている。