こんな授業があったんだ|第37回|福井発 オモシロ漢字教室〈前編〉|今村公一

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

初回から読む

福井発 オモシロ漢字教室 〈前編〉
古代文字クイズで漢字の世界へ

今村公一

漢字はむずかしくてイヤ⋯⋯。
そんなイメージを一変させてくれるのが、「古代文字クイズ」です。
人や動物やものごとを絵のようにかいた三千年前の古代文字に、子どもたちの漢字への興味や関心がぐっと高まります。

まずは準備体操 ! これ、なーんだ?

古代文字を大きく見せて、いまの漢字を当てっこします。
導入にぴったりのクイズです。

横から見たところです。
長髪の人を横から見た形。
手に持つすずの形。 これを鳴らして……?
空からなにかが⋯⋯。
体の一部です。
酒樽に人が近寄って⋯⋯。

形だけではむずかしいものは、ヒントを出しながら進めます。

【答え】

漢字探偵になろう ! 推理ゲーム

推理ゲームで成り立ちを考えます。 グループどうしで謎解きを競うと盛り上がります。

【Q1】草が芽を出し、育つ形をあらわしています。いまの漢字はなんでしょう?

答えは「生」。 草が芽を出し育つことから「うまれる、うむ、そだつ、いきる、いのち」という意味となりました。

【Q2】大きな交差点。十字路です。いまの漢字は?

答えは「行」。 大きな道が交差している形で、人が行くところなので、「いく」という意味となりました。

【Q3】「水」の古代文字は、こうした字です。

   では、つぎの古代文字は、なんの字でしょう?

答えは「川」。 金文は三つの筋になって流れる水の形で、勢いよく流れる水の流れを表しています。甲骨文字は左右に岸辺が見られます。

【Q4】「足」の古代文字は、こうした字です。

   下の部分の  →  は、足あとの形。
   では、つぎの古代文字は、なんの字でしょう?

答えは「歩」。 左足の足あとと右足の足あとを組み合わせて、「あるく」という意味となりました。

〝勉強〟のイメージを一変させる古代文字の魅力

導入にぴったりの古代文字クイズ 

「漢字」「古代文字」「白川文字学」などの言葉が講座内容の紹介文に並んでいると、むずかしい勉強の話というイメージをもたれてしまいがちです。おとなの方にとっては「いまさら漢字の勉強なんて」という気持ちがあるかもしれませんし、参加者も、心なしか緊張して構えているような雰囲気があります。
 そんなとき、会場の雰囲気を一変させるのが「古代文字クイズ」です。古代文字を見せて、「いまの漢字では何?」と聞くのです。まずは簡単なところから入ります。

 第1問は「 」。すぐに「山」という答えが返ってきます。「すごい。すぐにわかりましたね。この調子でがんばってくださいね。では、第2問『 』」。山の古代文字とよく似ていることに気づきます。同じじゃないかと言う人もいます。「火」という答えが出たあとで、「違いは、底の部分の線の形です。山はまっすぐだけど、火は丸くなっています」という説明をすれば、みなさん納得。「なんとなくおもしろそう」という感じになります。
 第3問「 」(水)。第4問「 」(川)。「真ん中の点は水の流れ。それをつなげたら という字になります。ちゃんと両側に岸がありますね」「へぇー、そうなんだ」。こんなやりとりが続きます。
 また、「 」を出題すると、たいてい「虫」という答えが返ってきます。待ってましたとばかりに、「それならここにいらっしゃる半分くらいの方は虫ということになってしまいますよ。(近くの女性を見て)お母さんは虫なんですか」と、すかさず切り返します。すると、勘のよい方から「女」という答えが出てきます。「そうです。答えは『女』。虫じゃなくてよかったですね。きれいな女性です」と言うと会場が笑いに包まれ、さらに和んでくるのです。その後の展開がスムーズに進むのは言うまでもありません。
 もちろんこれは、子どもからおとなまで、どの年齢層にも通じることで、古代文字クイズを取り入れることによって、漢字への興味や関心がおおいに高まります。
「古代文字を見て、いまの漢字を想像する」──これでつかみはOKです。

想像力をかきたてるユニークな文字 

 この漢字の古代文字はどんな形をしていたのか、どんな成り立ちで、昔はどういう意味をもっていたのか、そんなことに興味をもって調べているうちに、私自身がすっかり夢中になってしまいました。
たとえば、つぎのような文字について。

 金八先生の有名なセリフに、「人という字は、人と人が支えあって」という一節がある。また、あるCMでは「長い棒に短い棒、支えあったら人になる」と歌われていた。しかし実際は、人という字は、しっかりと一人で立っている。──ひと

 人からなにかが点々と出ている。これはひょっとして⋯⋯。たしか小学生のころ、こんな感じのイラストを書いたことがある。この格好で用を足すということは、モデルは男性ということであろう。──尿にょう

 こんどは、人の形のうしろになにかが落ちている。まさか⋯⋯やっぱり。予想どおりの意味だった。「米」は胃のなかの消化物の形ということである。──(くそ)

 お尻からなにかが出ている。尿、屎のつぎだから、おならを意味しているのであろうか。それにしては迫力がありすぎる。残念、不正解。しっぽを意味する尾の字だった。人の形のようにも見えるが、獣の尾を表しているらしい。──

 歯()に、蛇のような形が加えられている。これはむし歯()を表す字である。三千年以上前の人びとも、むし歯に苦しんでいたにちがいない。口のなかに、歯を黒くして痛みを与える虫がいると考えたのだろうか。──(むしば)

 母親が赤ちゃんをしっかり抱きしめ、赤ちゃんは口を開けて一生懸命に乳を飲んでいるようすである。この字から、母と子の強い絆を感じる。この瞬間だけは、父親はどうしても孤独である。──ちち

 屋根に)のある建物(校舎)で、長老が若者を教育したことを意味する字である。ムチを手に持つ形(攵)がある。体罰は厳禁であるが、昔はまさにスパルタ教育だったのだろう。なんだか痛そうに見える字である。── きょう

 ここに紹介したほかにも、まだまだたくさん、おもしろい字があります。また、この本で紹介している古代文字は、ぜんぶで約190字あります。
「漢字の世界は不思議で楽しい。とくに古代文字はおもしろい」。それが実感です。

〈後編〉へつづく)

出典:今村公一『福井発 オモシロ漢字教室』太郎次郎社エディタス、2013年

今村公一(いまむら・こういち)
1963年、福井県生まれ。中学校教員を経て、2009年より4年間、福井県教育庁生涯学習・文化財課で「白川文字学」に関する講座の講師をつとめ、『白川静博士の漢字の世界へ』(福井県教育委員会編・発行、平凡社発売)の執筆を担当。さまざまな漢字カードゲーム等を考案・作成した。
第9回白川静漢字教育賞最優秀賞受賞。
現在、南越前町立南条小学校長。