保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第17回|部活動の全員加入って、なんで?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第17回
部活動の全員加入って、なんで?

「隠れ教育費」研究室・チーフディレクターのヤナギサワです。「隠れ教育費」に関するコンテンツを豊富に取り揃えております。ぜひ、お立ち寄りください。

 さて、5月といえば新入生の部活動が本入部となる時期でしょうか。学校によって違いますが、経験からいえばゴールデンウイーク前後の仮入部を経て、この時期に本格的な活動──本入部が開始されることが多かったです。

 そこで、今回は部活動にスポットをあてます。保護者の費用負担に関しては『隠れ教育費』の第4章「部活動のつみかさなる負担」でも書きました。そこは、また別の機会で掘り下げるとして、今回は部活動の総論的課題を知ってもらいたいので、加入のあり方について考えていきます。

 少し前に、「日本若者協議会」という一般社団法人が「部活動の強制加入の完全撤廃を求めます!」という署名(change.org)に取り組んでいました。その主張のなかで「『部活をやめたい。勉強に専念したい。』という話を顧問にしても取り合ってもらえず、そのような状況が半年も続いている。」というなげきが紹介されていました。それを読んでわたしも「教育課程に位置づけて強制にするか、教育課程から完全に排除するか、選択するべきだと思う。微妙な状態がおとなと子どもを苦しめる。──可能性もあると思う」というコメントとともに賛同しました。

 そう、部活動は制度上〈強制〉されるものではありません。「学習指導要領」(教育活動の根本となる骨組みを文部科学省大臣が定めたもの)には「生徒の自主的,自発的な参加により行われる」と書いてあります。しかし、「学校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」ともあり、あやふやな立ち位置なのです。

 そのためかどうかわかりませんが、部活動に対する費用も自治体の予算として公費が充てられることは少なく、私費(生徒会やPTA・後援会などからの助成)が中心になっています。

 それでは、部活動の謎に迫っていきます。 


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、〈部活動そのものを否定〉しているわけではありません。わたしも部活動には思い出がたくさんあります。

 結論を先に書くならば、おとなも子どもも「自主的、自発的な参加」ができるような仕組みづくりに各学校で取り組んでほしいのです。

 それではおとなの問題を最初に書きます。おとなというのは教員=顧問のことです。中学校の教員は、ほとんど部活動の顧問を担っている=「自主的、自発的な参加」ではありません。自己紹介をするとき「〇〇中学校の□□です。教科は数学、部活はバスケです」というくらい部活動もくっついてきます。勤務時間内なら給料をもらっている範疇であり、仕事の一部です。しかし、部活動といえば土日や祝日といった休日の活動もあります。この部分の給料は支給されていません。事務職員のヤナギサワがいうんだから間違いない。

 その代わりに、特殊勤務手当という「手当」が支給されます。部活動は「特殊」なんです。部活動のほかにも特殊勤務はあります。たとえば、放射線の除染作業や爆発物の処理業務です。それらと同じ「特殊」な業務なんです。ちなみに埼玉県の場合は、3時間程度で2,700円です。時給900円のバイトみたいな感じですね(失礼)。しかも、たとえ8時間やっても2,700円は変わりません。時給⋯⋯(失礼)。──ということもあり、こちらも「自主的、自発的な参加」にできるような仕組みづくりが必要です。

こうした道具も部活動費や個人負担です

 

 次に、子どもの問題です。放課後の時間を部活動に取られて好きなことをする時間が制限される、部活動が終わったあとに塾があり自由時間はそのあとになるから睡眠時間が削られる⋯⋯などというなげきの声がよくあがります。部活を選択する子、塾を選択する子、家庭で自由に過ごす子、いろいろな行動パターンを保障していくことが求められると思います。社会では、ダイバーシティ(多様な働き方など)という言葉が叫ばれて久しいです。子ども社会、学校社会でも多様な活動、時間の使い方を尊重していくことが求められると思います。

 強制加入を後押しするような費用面の問題も若干指摘しておきます。部活動費を確保するために、生徒会費を使うパターンが多くなっています。前に登場した「学習指導要領」では、「全生徒をもって組織する」のが生徒会です。特別活動という教育活動なのである意味において強制が通るからです(国語の授業が任意参加ではなく基本的に強制的に参加が求められるのと同じ)。そのため、「全生徒」の「組織」として徴収されている生徒会費から部活動の予算を捻出する=部活動も全員加入で当然、という考え方に流れてしまうこともあるでしょう。詳しくは『隠れ教育費』を参照してください。

 たとえ、費用面の課題が解決されたとしても、同時に学校の仕組みとそれを支える考え方が改善されない限り、任意加入という制度は実現されません。部活動をすることで心身が鍛えられる、部活動という学級以外の集団で培われる能力がある、という考えや、放課後をフリーにすると良からぬ行動に出る場合がある⋯⋯という校則を厳しくするのと同じような考え方もあります。いずれも、因果関係がハッキリと証明されてはいません(校則も同じ)。

 それでも学校という組織は、旧態依然で前年度踏襲が安全という神話を信じてしまうことが多いです(組織論でいえば、個々人の考えが組織に生かされにくい状態)。虚構の可能性を信じるより、冒頭で紹介した「部活をやめたい。勉強に専念したい」という願いに向き合うべきです。

 いま、働き方改革や少子化の流れから「部活動の地域移行」が検討されています。このことは、おとなも子どもも「自主的、自発的な参加」ができるような仕組みづくりの第一歩になると思います。さまざまな課題があげられ、議論も進んでいます。

 今回は、部活動の「隠れ教育費」というディープな部分に迫る序章として部活動の大きな問題を取り上げました。まずは、部活動問題の前提を知っておくことで費用面などの個別問題に迫れると考えたからです。保護者からできる課題解決の行動提案は今後の連載でふれていきたいと考えています。そのためにも引き続き、情報収集によって部活動にまつわる基礎知識を培ってみてください。文部科学省やスポーツ庁、文化庁のウェブサイトやニュースに注目してみましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。