保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第34回|部活動費がなんで生徒会費から出ているの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第34回
部活動費がなんで生徒会費から出ているの?

 

 

 

 さて、34回目は部活動と生徒会の深い関係を探ります。前にもいちど「部活動の全員加入って、なんで?」という疑問に答えました。それが、第17回なんですね──そう、それから17回後に「部活動」を〈ねらって〉再登場させたというわけです。こういった細かい(どうでもいい)ネタを仕込みながら、本日も執筆に励んでいるヤナギサワです。

 その第17回では、総論として部活動の課題をいくつかあげました。そのときにも少しふれましたが、今回は〈強制加入から任意加入へ〉という流れから生まれた費用負担の疑問に答えていこうと思います。部活動に入っていないのに、またはやめたのにお金とられるっておかしくない? という疑問です。

 さっそく、中学校の現状から部活動と生徒会の関係を整理し、生徒会費のありかたから部活動費を再検討していきましょう(小学校にも児童会はありますが、費用を徴収している事例がほとんどなく、部活動も全国的には少数なので今回の記事は中学校限定)。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 まず、部活動と生徒会の関係を整理する理由から答えていきましょう。

 多くの学校では生徒会活動のなかに部活動が組み込まれていて、生徒会費のなかから部活動費を配当しているんです。もう少し説明すると、生徒会の執行部をトップ組織として、下部組織に図書委員会や保健委員会などの専門委員会があり、それらと同列にテニス部や野球部などの部活動が組織されています。

 そのため、予算の配当も生徒会執行部からなされます。生徒会の下部組織である専門委員会と同じように配分されているんです。しかし、予算の多くは部活動費に流れているため、生徒会費=部活動費のようにみえるんです(8割程度も部活動費に流れている場合あり)。

 中学校学習指導要領によれば、生徒会活動は第5章の特別活動に分類され、その学習目標は「異年齢の生徒同士で協力」「役割を分担し、協力して運営」「自主的、実践的に取り組む」などの達成をめざし、「全生徒をもって組織する」会と説明されている教育課程(教育計画)の一環です。

 いっぽう、「自主的、自発的な参加」とされている部活動は教育課程の外(課外活動)に位置づけられていますが、完全に無関係とはされておらず「関連が図れるよう留意すること」という記述もあるんです。

 いまから50年くらい前は、現代の部活動的な位置に「クラブ活動」という〈必修の授業〉があったんですけど、20年前に完全消滅しました。そんな流れもあり、部活動の位置づけはどっちつかずの問題とされているように思います。

 部活動と生徒会、双方の概念に共通する文言として「自主的」ということばがあります。また直接的ではありませんが、生徒会活動の「異年齢」や「役割の分担」「協力した運営」という目標も部活動にかかわりが深そうです。部活動も異年齢集団ですし、部長や副部長といった役割もあるし、子どもどうしで運営していく部分も多いですしね。

 なぜ、共通しているかというと──勘が鋭いひとはひらめきましたね。そう、部活動とかかわりが深いと説明した「クラブ活動」の立ち位置が関係すると思われます。50年前の学習指導要領では、生徒会活動と並んで特別活動に分類されていたから、概念が似ているんでしょう。

 つぎに、費用面です。生徒会の研究は多くありますが、生徒会費の研究って歴史が浅いんです。そのため、確かなことはいえませんが、1951年の学習指導要領で生徒会ということばが出てきて、そのころの文献をあさっていたら〈生徒会の費用負担〉という記述を見つけました。少なくとも、それくらいから生徒会活動における費用負担は私費だったようです。

 このような流れから部活動と生徒会とのつながり、そして費用負担の歴史がわかったと思います。生徒会という組織はPTAや後援会のような任意団体ではなく、生徒による校内組織のひとつです。「自主的」とはいえ、自主財源まで持つ必要はありません。学校運営費の一部として必要経費は公費をあてるべきです。

 しかし、多くの学校で歴史的な流れから1,200~2,400円程度(年間)の私費を生徒会費として集めています。500人の学校で最大1,200,000円にもなります。生徒会費のありかたとしては、全額公費が正しいと考えますが、さすがにすべてを公費化するのはたいへんそうです。

『隠れ教育費』p.144より「部活動費の流れ」

 そこで検討すべきなのが部活動費です。部活動費との関係を同時に整理することで、生徒会費を公費化し、部活動費をあるべき姿にもっていくことができます。その大きな後押しとなるのが〈部活動の任意加入〉という社会現象です。

 すでに確認したとおり、生徒会は全員で組織し、部活動は自主的な参加と定められています。しかし、実質は強制加入という学校も多くありました。その場合、百歩譲って受益者負担の説明は通りますが、任意加入が徹底され〈生徒会会員 ≠ 部活動加入者〉となった場合、生徒会費から部活動へお金が流れるのは納得いきませんよね。益者負担ならぬ益者負担を強いられることになってしまいます。

 だからこそ〈部活動の任意加入〉が叫ばれている〈いま〉がチャンス。『隠れ教育費』で提案した生徒会費と部活動費をわけるべきという根拠が明白になりました。今回の補足として読んでいただけると幸いです。

 たとえば、生徒会費1,200円のうち1,000円が部活動、200円が生徒会にあてられていたとすると、単純に生徒会費を200円まで減額し、部活動に対してのみ1,000円を徴収する方法です。しかし、それでも問題は残ります。

 そもそも部活動費ってその部活動によって必要な費用が違いますね。吹奏楽部と将棋部が同じだとはなかなか想像できません(じっさいに雲泥の差があります)。だからこそ、部活動費は必要な費用を必要なだけ加入者(部員)から徴収する方法に改めるべきです。学校から地域へという部活動移行の流れを汲めば、部活動費の徴収や管理も地域移行する方法もありますね。

 そして、残った生徒会費はというと、予算ベースでひとり200円(年間)程度です。決算ベースならそこまで使われないことが多く、経験から公費化も難しくないといえます。

 たまに部活動費という名称ではなく、部活動奨励費、あるいは部活動会費のような組織加入における会費として私費を徴収している学校があります。その場合、部活動自体への加入未加入は問わずに全員から徴収する行為に矛盾が生じません。

 ⋯⋯というように思えますが、それもそもそも組織への加入は自由ですし、法令が存在しないかぎり強制されることはありません(日本国憲法;結社の自由)。

 生徒会費でも部活動費でも奨励費だとしても、やはり部活動にかかる費用はその部活動に加入している者のみから徴収するべきです。

 この当然の理論が否定されているような場合は、とくに勇気も必要ありませんので「未加入者からの徴収はやめてください」と学校(担任など)に連絡しましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。