保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第30回|机、広いほうがいいけれど──天板の拡張キット|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第30回
机、広いほうがいいけれど
──天板の拡張キット

 

 

 

 憲法第26条が掲げる──義務教育は、これを無償とする──その身近な具体物として、教室の机がありますね。「隠れ教育費」多しといえども、あの机が私費負担になっているケースは聞いたことがありません。公費保障の代表選手といえるんじゃないでしょうか。

 しかし⋯⋯です。GIGAスクール構想が進み、教科書やノートに加えてタブレット端末までもが机に置かれるような授業スタイルになり(たとえば、「第16回:オンライン教材って、お得なの?」)、机の天板(モノが置ける部分)を広げるための拡張キットを導入する学校も増えました。

 それでなくともせまい机に5万円前後のタブレット端末を置き、落として壊したら弁償かもしれません⋯⋯(「第9回:タブレットって、壊したらだれが弁償するの?」)。

 その弁償代は公費か私費か(「第25回:公費ってなに? 私費ってなに?」)、公費負担してくれるのなら安心ですが、私費での負担を強いられたらたいへんな出費です。

 それなら拡張キットを「たとえ」私費負担としても安い買い物かもしれません。

 本連載も30回目。ちょっとしたキリ番ということもあり、過去を振り返りながら問いを立ててみました。

 さて今回は、教室の机と、その天板の拡張キットについて考えていきます。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、教室の机を思い出してみましょう。茶色っぽいイメージでしょうか? メープル色のような淡い天板、もっと濃い色もあります。⋯⋯「思い出」と称して卒業前、天板に彫刻作品を残したひとはいませんか? あれをやられると、天板じたいを交換(作業賃込1台5,000円弱)するか、表面にシール状の薄い天板を張りつけるか(作業は職員がおこない、天板台1枚2,000円弱)しないと使えなくなります。お子さまに注意喚起、よろしくお願いいたします。

 とはいえ、たいていの保護者なら机の記憶はおぼろげでしょう。卒業して見る機会がなければ、机のことなんてピンときませんよね。

 じつは、教室の机って、20数年前にサイズが変わっているんです。教科書がB5判からA4判へと成長したこともあり、少しだけ教室の机も大きく成長しました。「日本産業規格」いわゆるJIS規格が変わったんですね。1999年に机の天板サイズは、幅60cm×奥行40cmからそれぞれ5cm広がり、幅65cm×奥45cmへと大きく進化しました(これを新JIS規格=略して「シンジス」といいます)。

 机を並べる教室の大きさについても考えておきましょう。机が大きくなったとはいえ、かんたんに広げられないのが教室の大きさです。これは、昭和の中頃からずっと変わらない学校がほとんどであり、1950年につくられた「鉄筋コンクリート造り校舎の標準設計」という基準により、各教室は700cm×900cmという大きさでつくられています。

 ちょっと計算してみましょう。教室の大きさ(700cm×900cm=630,000㎠)÷机の大きさ(65cm×45cm≒3,000㎠)=210台は置ける計算──とすると、広く感じますよね。でもそれは、机をすきまなく敷きつめた場合の計算です。机にはセットで椅子があり、椅子に座るには椅子を引くスペースも必要です。そのため、教室空間にひとりぶんのスペースとしては、前後左右に机1台分の余裕は必須ですね。

 それだけのスペースを確保するとなると40台は置けず、35台がやっとです(2021年に改善された「学級編制の標準」と同等)。

 また、教室には教卓や黒板消しクリーナー、水道やロッカー、コロナ禍の影響で空気清浄機や加湿器といった電化製品も増えています。そして、冒頭GIGAスクール構想によりタブレット端末の充電保管庫を置くスペースも必要になりました。

「シンジス」に移行し、天板が広がったことは歓迎できるかもしれませんが、そのぶんで教室がせまくなったということもあります。さらに先述の拡張キットを付け加えると〈10cm×学級人数分〉の個人的作業スペースは広がりますが、教室の空間はせまくなります。

教科書やノート、タブレット端末が乗ってもだいじょーぶー

 拡張キットは公費負担か私費負担かという「隠れ教育費」の論点に絞ってみましょう。冒頭でも述べたように、机じたいは私費負担になるようなことはありません(たぶん)。ある意味で伝統的に公費負担の立場を保っていると思います。

 しかし、新規で参入してきた拡張キットは怪しいです。学校現場では、新製品などで伝統的に立場が確立されていないモノはかんたんに私費負担の仲間入りすることも多いです。

 ここで「拡張キット」について掘り下げておきます。なぜ、大きくなった「シンジス」規格の机をさらに拡張させるのか(奥行を10cm拡張)、せまい教室に追い打ち&費用をかけてとりつけたいのか(1台1,000~2,000円)説明します。

 ひとつは、冒頭で紹介したように〈落下防止〉です。その機能として、縁がつきます。教科書やノートに押されて、タブレット端末が落下しないように留める縁です。いわゆる事故防止機能ですね。

 もうひとつは〈授業スタイルの変化〉です。教科書を開きながらノートをとるというスタイルから、それと同時に〈タブレット端末〉を操作するスタイルがスタンダードになってきました。

 このように一見すると有用性が高いと思われますが、安易な私費負担を受け入れるのはちがうでしょう。拡張キットが私費とされている学校は、その保護者に対して理由を明らかにしていくことが必要です。

 細かいことかもしれませんし、GIGAスクールを考えれば現代的には納得できなくもない私費負担かもしれませんが、GIGAスクールは公費により実現した政策です。それに影響するもろもろ(拡張キットや教室の拡張、少人数学級など)も公費で保障していくべきでしょう。

 さらにそもそも論からいえば、机は伝統的に公費負担の立場が保障されている代表選手です。代表選手を拡張させるモノ、そう考えれば公費とされるべきモノといえます。

 細かくても、このような考え方がわかってくると、公費で負担すべきほかの「隠れ教育費」も見つけやすくなってきます。学校と「隠れ教育費」について話すきっかけになったり、見直しのきっかけになったりするかもしれません。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。