保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第39回|通知表も保護者負担になってるの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第39回
通知表も保護者負担になってるの?

 

 

 

 はい、3月です。今年度も終わり──ということで、卒業式がやってきます。今月はタイムリーなネタとして、卒業式と隠れ教育費について……と思ったんですが、第36回で書いたとおり「モノコトコト、モノコトコト」の順番にならうと今月は【モノ】でした。

 では、3月に【コト】がまわってきたとき、卒業式ネタを書きますね! ……と思ったんですが、なんとこのサイクルだと3月・6月・9月・12月は【モノ】固定ということに気がつきました(笑)。こうなったら来月、入学式を隠れ蓑にして、卒業式にもふれましょうか。いや、【モノ&コト】っていう回があってもいいかもしれませんね。

 まぁ、マイルールなんて……と思ったんですが、もう少し従ってみます。

 冒頭に戻って、今年度も終わり──ということで、今月は年度末の集大成「通知表」=【モノ】にしましょう。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 通知表とは、成績(国語「5」とか)や行動の記録(生活習慣「〇」とか)、出欠の記録(出席停止「1」とか)が書かれていて、最後に「修了証」という欄があり、「第〇学年を修了したことを証明します」的な文言とそれを証明する校長や担任の印が押されているアレです。そんなに説明しなくてもみんな知っているし⋯⋯じゃ、これは知っていますか? 〈通知表をつくって渡す義務は、学校にありません〉──ないの? え?! と思ったひと、正直に手をあげましょう。

 じつは、通知表の作成って法令で決まっていることじゃないんです。だから、学校独自のタイトル(「あゆみ」など)にしても問題はなく、形式や様式なども基本的に自由なんです。いってしまえば、学校が任意で子どもたちの学習評価、到達・理解度、日常生活の記録などを保護者に伝える目的で発行しているだけのモノです。

 通知表に近いものとして、法令で作成を義務づけている書類に「指導要録」というモノがあります(学校教育法施行規則第24条)。これは教育委員会が定めた様式に従って指導の記録がされている書類ですが、一般的には保護者や本人に渡されるものではないため(情報公開の対象ではある)、それに近い内容を通知表として知らせる文化があるんでしょうね。ちなみに「修了証」も各学年で証明しなくてよく、「全課程を修了したと認めた者」に対して、「卒業証書」をあげればいいんです(学校教育法施行規則第58条)。

 今回の問いは、通知表の費用まで保護者が負担するってどうなの? です。さすがに「通知表」自体と現金を引き換えることはありません。しかし、時代の流れとともに通知表にも変化が起こっています。カバーならぬファイルが登場してきたのです。お察しのとおり、その費用が保護者負担となっている場合もあります。

 ここで通知表の歴史をサラッとおさらいしておきます。

 20年くらい前は、1枚数百円の費用をかけて印刷屋さんにすべておまかせでした。データの作成(版)も印刷屋さんにお願いしていたので少々単価も張りました。その後、パソコンが普及していくにつれて校内でデータを作成し、印刷だけを発注するかたちへと変化していきます。それと同時に、厚紙だけ購入して高性能となってきた校内の印刷機で印刷するスタイルも流行ります。しかし、ここまでの変化では、担任にアナログ作業の手間が残ります。評価印という数字や記号(3、2、1、A、B、C、◎、〇、△、+、-など)のスタンプを購入し、小さい所見欄に0.3ミリ程度の細いボールペンで思いをつづる作業です。

通知表ファイル。見ばえはたしかにいいけれど……

 つぎの進化がミソなんです。通知表の作成がアナログからデジタルに変わります。専用のソフトを使用するのです。評価や所見が、押印や記入から入力になりました。そうなると担任の負担はグッと減ります。その反面、1枚1枚レーザープリンターから出力するためのトナー代がかかります(大量印刷をするときは印刷機のほうが断然お得)。そして、手間が減ったそのぶんで、ほかに手間をかけるのです。

 20年前は、二つ折りにされた通知表という紙をそのまま渡していたにもかかわらず、最近ではクリアブックに入れて渡すのが主流になっています。1学期の通知表に2学期の成績等を追記するわけではなく、また新しい紙をプリントしていくため、どんどん増えていくんですね(トナー代もどんどんかかります)。

 そこで商品化されたのが「通知表ファイル」なるものです。以前にも書きましたが、学校の学用品ご新規さまは「私費」になりやすく、多くの学校で補助教材費から購入しています。

 さらにつぎの進化として、メール配信やマイページ表示が想定されます。定期テストなどの情報が格納されていくようなアプリも一般化していますし、通知表のアプリ化も報道されています。「通知表、アプリで各家庭に 熊本県立の中高校、2学期から 教員の負担軽減、ペーパーレス化 緊急連絡も迅速に」──ただ、この導入費用が私費負担の場合は、「隠れ教育費」研究室として物申さなければなりません。「第29回:なんで振替手数料って保護者負担なの?」でも書きましたが、利便性をお金で買うことは否定しません。しかし、学校の利便性を保護者負担で実現するようなことがあってはならないと考えます。

 保護者側としても便利になった=(多少の費用はかかるけど)よかった、という等式にとどまることなく、その費用はホントに保護者が負担するべきなのか? いちど立ち止まって考えていただけると幸いです。こういったアプリを導入するとき、保護者にアンケートをとった学校もあります。その結果、「その費用はホントに保護者が負担するべきなのか?」という意見も2割くらいあったそうです。

「言う気」は勇気です。言っても変わらないかもしれませんが、言わないと変わりません。学校は、保護者の意見から変わります。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。