保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第41回|なんで受益者負担っていわれるの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第41回
なんで受益者負担っていわれるの?

 

 

 

 5月といえば、ゴールデンウイークです。でも今年は……土日休みのひとに恩恵が薄い【金─土─日─月】という配置でしたね。しかも、個人的には金曜と月曜に仕事のような予定が入っていたため、よりゴールデンウイーク感が薄いゴールデンウイークでした。早く来年のゴールデンウイークにならないかな~。恩恵が薄かったその分、「ゴールデンウイーク」を連発してみました。Golden-Weekと英語表記もしてみます(笑)。

 今月は前回の予告どおり受益者負担について考えましょう。なぜ「隠れ教育費」が存在しているのか、それが肯定される理由はなんなのか? このあたりの疑問にこたえていきましょう。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 まず、受益者負担論について説明するまえに、公費と私費についておさらいしておきましょう(第25回「公費ってなに? 私費ってなに?」)。公費とは公の費用=税金ですね。私費とは私的な費用=保護者や教職員が負担するお金です。保護者が負担する私費を学校徴収金や保護者負担金といったりして、今回のテーマである受益者負担論を根拠に徴収されています。(教職員の私費負担についてご関心があれば、わたしも書いている新刊『教師の自腹』(東洋館出版社)という本が発売されます! 教師の自腹は、受益者負担論で片づけられない部分もあります。よかったらご覧ください)

 それでは受益者負担論を説明していきましょう。受益者とは、利益を受ける者ですね。利益を受けるひとがその費用などを負担してくださいという論理です。そもそも、受益者負担という概念は、公共施設の使用料(公民館の会議室を借りるために払う料金など)や、公的な役務を受けるための手数料(住民票の写しを交付してもらうために払う料金など)をいいます。受益者の負担割合もありますね。おもに、イニシャルコストを公費としてランニングコストの一部を受益者に求めることが多いと思います。

 教育に置きかえてみましょう。たとえば、イニシャルコストとしての校舎建築です。校舎を建てる費用は、国1/2(義務教育諸学校等の施設費の国庫負担等に関する法律第3条)と残りは設置者(学校教育法第5条)となっていて、このことはそれぞれの法律によって決まっています。では、ランニングコストはいかがでしょうか。じつは、それにかんする法律もあり「市町村立の小学校、中学校及び義務教育学校の建物の維持及び修繕に要する経費」(地方財政法施行令第52条第2項)は、「住民に対し、直接であると間接であるとを問わず、その負担を転嫁してはならない」(地方財政法第27条の4)とされ、ランニングコストも受益者負担を禁止しています。

 ほかにも「国又は地方公共団体の設置する学校における義務教育については、授業料を徴収しない」(教育基本法第5条第4項)とされているため、ランニングコストとしての授業料も受益者負担になりません。まぁ、設置者負担の原則を根拠にすれば、「学校の設置者」である自治体は「その学校の経費を負担する」(学校教育法第5条)という条文からも税金によって経費を負担するわけですから、受益者負担を推奨していないことがわかりますよね。

これだけ払ってどれだけ受益があるのだろう……
(保護者・談)

 じゃ、なんで教育の現場でも受益者負担がもちいられているのか考えていきましょう。この論理は1960年くらいからうまれてきたといわれ──1970年代になると文部科学省の諮問機関である中央教育審議会が高等教育にかんする答申でふれてきます。かんたんに説明すれば、受益者負担の額を決定し、それ以外を公費負担とする提案です。そして、受益者の負担が厳しい場合は、所得におうじて援助をする論理です。もっとかみくだけば、受益者負担部分を固定化してそれが払えないひとは奨学金でカバーするというような感じですね。

 その論理が1972~1974年に義務教育へも流れてきました。「全国都道府県教育長協議会」が発信した、公費と私費の負担区分に関する研究報告です。具体的には「私費的性格を持った経費」の説明として「①児童・生徒個人の所有物として、学校、家庭のいずれかにおいても使用できるものにかかる経費(衛生上の見地から個人もちとするものを含む)」「②教育活動の結果として、その教材・教具そのもの、または、それから生じる直接的利益が児童・生徒個人に還元されるものにかかる経費」という説明により、受益者負担論を肯定しました。

 しかし、あくまでも教育にかかわる受益者負担は、中教審や協議会といった団体が考案した論理です。重ねれば、答申や報告書といった法的拘束力があるとはいえない文書です。逆に、設置者負担の原則は法律です。論理ではなく法的拘束力がある原則です。文書が法律より優位なわけもありません。

 そのため、前回(第40回「補助教材費も無償にできるの?」)のように必要な費用さえ予算化が実現できれば、たとえ「私費的性格を持った」といわれ、受益者負担とされていた「児童・生徒個人の所有物」や「家庭(‥)においても使用できるもの」だとしても、教育活動に必要なものは、〈受益者負担としない〉選択が可能です。

 今回も前回と同じ締めでいきましょう。──受益者負担の撤廃に向けて──「求める声が大きかった」という品川区の例もありますし、行政に声を届けましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『事務だよりの教科書』『学校事務職員の基礎知識』『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『教師の自腹』(東洋館出版社)、『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。