保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第26回|学校給食費の無償化ってどうなの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

初回から読む

 

第26回
学校給食費の無償化ってどうなの?

 

 

 最近、「学校給食費の無償化!」という報道をよく耳にしますね。耳タコ──というほどではありませんが、いいニュースならタコができるくらい聞きたいですね。

 前回の「公費ってなに? 私費ってなに?」で公費と私費について説明しました。給食費無償化とは、保護者が給食について負担している費用(私費)=一般にいう給食(食材料)費の保護者負担がなくなることをいいます。じゃ、その費用はだれが負担するのか──前回の復習ですね。そう、私費の対義概念である公費をあてる(公費化)=税金で支払うということです。市町村立学校の設置者は市町村であり、学校給食の実施者も同じです(学校教育法・学校給食法)。そのため、税金の使いかたを審議する市町村議会で選挙により選ばれた住民の代表が多数決で決定したというわけです。

 戦後まもなくから無償化を実施している山口県和木町を始め、人口の少ない市町村に波及し、現在では中核市や政令指定都市でも実現し、いまでは東京23区内にも広がっています。しかし、逆に保護者負担の値上げを決めた自治体もあります。

 今月は、学校給食費について考えていきます。

 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 それでは学校給食についての整理から始めましょう。

 まず、根拠法(学校給食法)です。第4条「義務教育諸学校の設置者は、(‥)学校給食が実施されるように努めなければならない」とあります。いわゆる努力義務規定というやつです。努力してほしい規定なので、全国の実施率は100%ではありません。ちょっとビックリですよね。最新の文部科学省調査(2023年)では、2021(令和3)年度の完全給食実施率は94.3%です。「完全給食」という言葉は、文部科学省令(学校給食法施行規則)に書かれていて、主食+おかず+ミルクのコラボレーション給食です(「不完全給食」という表記はありませんが、主食が欠けたり、おかずが欠けたりするタイプの給食もあります)。

 次に、指導法(学習指導要領)です。第6章「特別活動」のなかに学級活動という領域があり、そのひとつとして「食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成」(給食の時間を中心としながら,健康によい食事のとり方など,望ましい食習慣の形成を図るとともに,食事を通して人間関係をよりよくする)という指導のねらいがあります(小学校学習指導要領)。学校給食は昼食ですが、昼食だけに留まらないのです。

 以上のことから、学校給食は食育と望ましい食習慣を形成する学習指導の一環であることがわかります。しかし、設置者の判断により実施しないという選択も可能なのが現状です。学習指導=授業の一環であるならば、日本国憲法が保障をする「教育を受ける権利」の範疇に収まり、「無償性」が実現され、公費化=無償化という選択は正しいという論理が導き出せますね。しかし、学校給食を実施していない自治体はどう転んでも無償化には至りません。

 そして、首題にもあげた費用(学校給食費)です。先の文部科学省調査によれば、1人分の年間費用は約52,789円(同小学校:49,247円、中学校56,331円)となっています(学校給食法第11条第2項により、原則は「保護者負担」)。無償化には単純計算で、この額×人数分の費用が必要です。川口市の児童生徒数は約43,000人なので、約22億円が必要になります。川口市の一般会計予算は約2,200億円であり、それと比較すると約1%を学校給食費が占めることになる計算です。これを「多い」と捉えるか、「少ない」と捉えるか──このあたりについて「給食費完全無償化 東京23区『する?』『しない?』考え方は」(NHK)を参考に考えていきたいと思います。

 記事がリリースされた2022(令和04)年9月13日現在、23区で唯一無償化の方針を示したのが葛飾区でした。その理由を「教育環境の充実を図り、食材費の高騰で打撃を受ける子育て世代を支援するため」としています。葛飾区では、これまでも「中学生以下の子どもが3人以上いる場合、第3子以降の給食費を無償化」する事業を実施しています。また、「検討中」と回答しているのは世田谷区のみでした(年間約20億の財源確保が可能かどうか検討中)。そして、「考えなし」が14区、「未定」が7区です。それらのおもな理由は、「ほかの事業に比べて優先順位が低い」、「学校給食法(保護者負担)の規定を順守している」などとなっています。しかし、そのなかでも第3子以降の無償化政策を実施しているのが4区あり、消極的なところでもその約2割は条件付きで無償化をしていることがわかりました。

 ──あれから約半年が過ぎ、葛飾区に続き、検討中としていた世田谷区、そして北区や品川区、足立区、荒川区、中央区でも無償化の方針が示されています。

有償? 無償? とりあえず美味しそうです。

 さて、みなさんは学校給食費の無償化に賛成ですか? それとも反対でしょうか? 23区内の方針も細かく確認するとグラデーションがあります。無償化を実現しようとしている葛飾区が「◎」で、検討中は「〇」、その他は「△」か「×」という単純な評価とするのは違います。それぞれがかぎられた予算の優先順位を検討し、学校給食費に税金を回しているかどうかという価値判断の違いがあるからです。

 住民全員が市町村議員になることは不可能です。そのため、住民としてひとりひとりが納めている税金を、間接的ではあってもその使い道を考え、選挙権を行使していくことが重要になってくると考えます。スケールの大きな話になりましたが、学校単位でも保護者ひとりひとりが当たり前に流されず、費用負担の根本的意義を再確認していくことが大切です。

 まずは、学校給食の実施状況や費用負担について、近隣自治体の状況を調べてみませんか? そして、それをSNSでもいいので呟いてみると話題が広がっていくことでしょう。最近では首長自身が政策や考えを発信しているアカウントもありますね。そこから自治体の重点政策に乗っかっていくこともありえます。それも現代的なオーディエンスのあり方かもしれません。

 しかし、今月のテーマ「学校給食」に限定し、私見を述べるならば、学校給食の完全実施それと同時に無償を実現すること──さらには首長の選挙公約や議会の多数決によらない「教育を受ける権利」保障の理念から恒久的な無償性を実現していくことが必要だと考えます。意見の不一致を恐れずにひとりひとりの意見を発信していきましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。