保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第31回|タイミングのよい申請時期は?──就学援助⑤|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

初回から読む

 

第31回
タイミングのよい申請時期は?
──就学援助

 

 

 

 久しぶりに就学援助をとりあげてみましょうか。約2年前に「就学援助を利用したいときに(第4回)」からスタートし、その後「だれでも申請できますか?(第8回)」、「援助額ってみんな同じじゃないの?(第11回)」、「利用できる基準は?(第22回)」と続き、5回目の就学援助ネタになります。

「じつは、就学援助って申請のタイミングによって〈判定所得〉や〈援助額〉が変わることもあるんです」という少しディープな内容を今回は扱っていきます。とくに重要なタイミングのひとつとして、4月があります。4月はなんとなくそんな気がしますが、6月から7月にかけても重要なんです。

 それでは、その理由を解説していきます。


♪ いっしょにLet’s study about it. ♪


 今回も法律の条文はおさえておきますね。

 就学援助制度のアウトラインを定めた条文として、「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」(学校教育法第19条)がありました。家庭の収入が少ないため、義務教育を思い通りに受けることが難しいとされる子どもの保護者に対して、市町村は必要な援助を与えなければならない=義務があるわけです。

 その就学困難であるかどうか認定する基準が第22回で解説した所得基準でした。では、上であげた判定所得とはなんでしょうか。判定所得とは、就学援助の利用可能基準と比較する申請者の世帯所得です。

 ⋯⋯うーん、ちょっとややこしいですね。申請者Aさんの年間所得は200万円、Bさんのそれは300万円として、就学援助が利用できる所得基準は250万円以下だとすると、200万円のAさんは認定され、300万円のBさんは不認定です。その200万円と300万円がそれぞれの〈判定所得〉です。

 判定所得は、年に1回変わります。それが6月なんです。もう少し説明を加えると、1月1日から12月31日までに得た所得を「○○年の所得」といい、その証明=所得証明書が市役所などで発行される時期(登録所得の切り替え時期)が6月となります。住民税の徴収額が変更される時期も6月なのはそういう理由です。ようするに、前年の所得が確定する時期であるため、就学援助に対する判定所得も変更されるんです。

 6月、あらたに所得が確定し、切り替わることで、それ以前に申請して認定されなかった場合でも、所得が減少した場合には再判定を促すと認定される可能性もあります。そのため、このタイミングを覚えておき、再度学校へ申請するとよいでしょう。

 文部科学省の最新調査(2022)によれば、就学援助の利用基準に「生活保護の基準額に一定の係数を掛けたもの」としている自治体は、1,765自治体中の1,360にのぼり、77.1%は世帯の所得を基準としています。具体的には、保護者に所得証明書の添付を依頼したり、就学援助担当課が自治体に登録されている申請者の税情報を閲覧したりして、判定する方法です。そう考えると、全国で8割弱の自治体では重要なタイミングとなるわけです。

 次に、〈援助額〉です。こちらもタイミングの問題があります。いちばんわかりやすいのは、「入学」というタイミングでしょうか。第11回で掲載した援助項目の表に「新入学学用品費」という援助項目がありましたね。最近では、入学に必要なものを用意する費用として「入学前支給」がスタンダード(同調査では、小学校84.9%、中学校86.2%)になってきています(以前は、入学して数か月後に援助されていました)。

「新入学児童生徒」に対するこの援助は、入学前~4月中までに認定(申請)されていないと適用されない自治体もありますので注意してください(国の援助額基準:小学校54,060円、中学校60,000円)。もっとわかりやすいのは、修学旅行費です。これも修学旅行の前日までに認定(申請)されていないと援助対象にはなりません(同:22,690円、60,910円)。

遡及効について記載のある自治体の就学援助要綱

 そこで、自治体にもよりますが救いの手としてある運用が〈遡及効〉です。「遡って及ぶ効果」という文字通り、所得が減った時点まで遡って認定する運用のことです。たとえば、4月1日に配偶者と離婚が成立して所得がグッと下がったひとがいたとします。しかし、就学援助の申請が遅れてしまい5月31日になってしまいました。この状況で、5月10日に修学旅行があったとすると、修学旅行費の援助は適用されないことが多いです。

 そこで〈遡及効〉が適用された場合、「所得がグッと減った」事実発生日は4月1日なので、その証明さえできればそこまで遡って認定してもらえる自治体もあるんです。もし、1年生だったら「新入学学用品費等」も援助可能ですね。

 もうひとつ、タイミングといえば「申請の受付期間」を設けている自治体もあります。多いのは「12月31日までに申請」という条件です。このタイミングは改善していくべきですよね、当然。考えてもみてください──法律では、「必要な援助を与えなければならない」とされていますし、下位法令で期間を限定するような定めもありません。市町村の運用規定で、申請のタイミングを限定するような定めは「ひとしく教育を受ける権利」(日本国憲法第26条第1項)の保障に反すると考えます。

 現実問題、所得が大幅に減少するような事由が1月1日に発生することだってあります。その場合、3学期は耐え忍ぶことしかできないなんて理不尽ですよね(なかには「家計急変の場合は個別に対応」とされているところもあります)。

 いろいろなタイミングを紹介してきました。お住まいの自治体はもとより、近隣自治体の状況もググってみてください。おもしろいくらいの違い(ホントはおもしろくありません⋯⋯)が発見できるかもしれません。そして、それは「行政的な制度構築上のタイミング」という違いです。いわば、利用者ベースor運用者ベースという制度構築方法の違いともいえます。

 自治体の制度を熟知し、タイミングをねらって申請することも就学援助には必要かもしれません。家庭の状況に大きな変化がない場合、毎月申請をしても意味はありませんが、申請をすること自体は問題ありません。もしかしたら、知らず知らずのうちに判定所得ではなく、利用基準が変わっている場合もあります。

 効果的な申請のタイミングである4月と、のタイミングとして重要な6月から7月を覚えておいても損はないでしょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。