保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第22回|利用できる所得基準は?──就学援助④|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第22回
利用できる所得基準は?──就学援助

 

 

 みなさん、こんにちは。今回は「就学援助」についての4回目です。「就学援助を利用したいときに」からスタートし、「だれでも申請できますか?」、「援助額ってみんな同じじゃないの?」と続き、そろそろ終わりがみえてきました。

 今回は「利用できる基準=利用者の所得制限」について説明していきます。

 所得制限といえば、少し前に議論となった児童手当でしょうか。2022年10月分から世帯主の年収が1,200万円を超える場合、手当がもらえなくなります。いっとき、世帯主=1人分の年収ではなく「夫婦共働きの場合は2人分(合算)」になりそうだったんですよ。当然、利用できるハードルがあがるし、もらえなくなるひとも出てくるので子育て真っ只中のひとびとのあいだで大騒ぎになりました。その結果、とりあえずは「夫婦で年収が多いほう(1人分)」に落ち着いています。まぁ、今後どうなるかは不明ですけど──。現状なら教職員で基準を超えてしまうひとは、ほぼいないんですが、「2人分(合算)」だと該当する場合も多くなるので、学校でも大騒ぎになりそうです。

 同じように就学援助も保護者の所得基準があります。ここまでに所得と年収という言葉を使いました。年収は1年間で得た収入のことですが、年間所得とは違います。所得とは、「収入」から「必要経費」を引いた額なので、一般的に収入より所得のほうが低くなります(収入>所得)。詳しくは、ネットで検索してみてください。就学援助制度の利用基準、その多くは所得です。しっかり理解して、まちがえないようにしましょう。


♪ いっしょにLet’s study about it. ♪


 今回も法律の条文はおさえておきますね。

 就学援助制度のアウトラインを定めた条文として、「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」(学校教育法第19条)がありました。家庭の所得が少ないため、義務教育を思い通りに受けることが難しいとされる子どもの保護者に対して、市町村は必要な援助を与えなければならない義務があるわけです。

 経済的理由により就学困難な子どもたちを救う制度であるため、児童手当よりずっと所得基準は低くなっています。たとえば、埼玉県川口市では「20歳以上」1人「19歳以下」1人の場合──もう少しかみ砕いて説明すると、ひとり親世帯で子どもがひとりの場合、所得基準のめやすは220万円未満とされています。児童手当と比べると1,000万円近い差があります。

 この基準、じつは就学援助よりも知られている生活保護の基準を転用していることが多いです(2021年度の文部科学省調査によると、全国の75.2%の自治体が生活保護の基準を転用。ほかの自治体は、市町村民税非課税などで判断)。さらにややこしいことに、その生活保護基準も市町村によって違うんです。たとえば東京都の場合、単身で約13万円以下で利用可能(=年間156万円)──この基準額を1.1~1.5倍にした額、それを就学援助制度の所得基準としています。東京都○○区の就学援助所得基準が1.3倍だった場合、156万円×1.3=202万円未満の保護者が就学援助制度を利用できます。前に出てきた川口市の基準「ひとり親世帯で子どもがひとりの場合、所得基準のめやす」220万円に近づきました。

 このあたりについて、川口市教育委員会は「就学援助のお知らせ」という文書に以下の説明を載せています。「お子様の年齢が低ければ低いほど生活に必要な金額は少なく、高ければ高いほど生活に必要な金額は多くなります。また、生計が同一なかたの人数によっても、生活に必要な金額が変化します。生計が同一なかた全員の所得金額に対し、生活するために必要な金額を考慮したうえで審査をします」とあり、一番高い所得基準例として、両親+祖父母(20歳以上4人)&子ども4人(19歳以下)の世帯で610万円未満というケースを挙げています。

 各種援助制度は、ひとり親世帯しか利用できないというイメージをもっているひともいると思いますが、所得という客観的な基準で判定する場合、一定額以下の所得しかなければ、両親+祖父母と同居していても利用は可能です。

川口市の就学援助案内。所得のめやすは一覧で記載。

 冒頭の児童手当によく似た名称の児童扶養手当というのがあります。こちらは、支給対象が原則ひとり親に限定されています。この制度は、就学援助と併給できる可能性がありますので、ネットで検索してみてください。

 このように、就学援助制度は生活保護基準に影響を受けます。ほかにも、身近なところでは最低賃金も影響します(最低賃金法第9条第3項「生活保護に係る施策との整合性に配慮」)。そのため、生活保護基準は、ミニマムスタンダード(最低水準)といわれているんです。

 最近では、2018(平成30)年から段階的に生活保護基準が見直され、その影響で就学援助基準に「影響が生じる」と回答した自治体が13%ありました(2021年度文科省調査)。それにもかかわらず、その約半数は「影響が生じる可能性はあるが、対応していない」と回答しています。

 ここまで見てきたように、就学援助には利用可能か判断するための客観的な基準があります。必要なひとが必要な制度を利用することは住民サービスを利用することと同じです。〈生活保護や就学援助は貧しいひとが利用する制度〉だから自分には関係ないとあきらめるのではなく、子どもの教育を受ける権利を保障するためにも積極的に申請してみましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。