保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第35回|合唱コンクールの会場費はだれの負担?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第35回
合唱コンクールの会場費はだれの負担?

 

 

 

 学校行事が満載といわれている2学期真っ只中──教職員も保護者も地域のみなさまもお疲れさまです。運動会(体育祭)から始まって、文化祭や合唱(奏)コンクール、そしてマラソン(持久走)大会なんかもありますよね。あ、すでにその行事は過去形だよ! っていう地域があるかもしれません。暑すぎる9月の運動会を春に移動したり、授業時間の確保や働き方改革の流れで行事が精選されたりしている地域も増えてきたように思います。

 そんななかでも根強く生き残っているのは、運動会&合唱コンクールでしょうか。運動会も「隠れ教育費」満載ですが、今回は後者の「合唱コンクール」(以下、合唱コン)にコミットしていきましょう。

 合唱コンは、費用の問題とあわせて、著作権に関する課題も隠れています。楽譜のコピー、DVDの販売、ゲストの招待、保護者へのオンライン配信などといったことは著作権に注意が必要ですし、それにかかる費用が〈隠れ教育費化〉している場合もなくはありません。このあたりも、そのうち取り上げていきたいと思いますが、今回は〈会場費〉にフィーチャーしていきます。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 学校行事(以下、行事)といえば、会場は学校の体育館や校庭──そんなあたりまえだったことが最近では、そうともいえなくなっています。学校外の施設を会場にした行事も増えてきているのです。

 とくに合唱コンでは、客席が用意されている会館を使用したり、音楽ホールなどの専用会場を借りたりして〈本場の体験〉をしてもらおうという学校が増えてきました。保護者側も「最高の環境で最高の合唱を聞くことができてうれしい」──と、こちらも〈本場の体験〉に満足されている声を多く聞きます。

 また、〈本場の体験〉以外にも物理的な理由(体育館が狭い、ステージがない、椅子が少ないなど)から学校外の施設を選ばざるをえないという状況もあるようです。とくに保護者の参観が前提とされるような行事では、その収容人数の確保も必要ですしね。

 えっと⋯⋯、学校も保護者もWin-Winだと思うけど⋯⋯、学校外施設の使用にどんな問題があるの? という声が聞こえてきそうですね。お答えすると、この問題は、施設の使用料が〈保護者負担〉になっている場合が多いということです。〈本場の体験〉という意義、そしてそれを私費により実現させていることについて見直しが必要です。

 保護者の代表的意見を前で紹介しましたが、そのほかにも若干ですが「会場費を保護者から集金するのってどうなんでしょうか」という疑問の声もあがっているのです。

 ちなみに費用はどれくらいかかるのか計算してみましょう。学校規模にもよりますし、施設のグレードにもよりますが、3,000人規模(子ども1,000人+保護者2,000人を想定)の音楽用ホールだと300,000円くらい必要です。それを3,000人で割れば、ひとり100円となります。学校の行事に参加するため、保護者は参加費100円を払う──こうした費用は子どもで割るのが一般的なので、そうなるとひとり300円です。それを「合唱コン会場使用料」という名目で補助教材費に計上し、ドリルやワーク代などといっしょに徴収します。まぁ、それも保護者が支払うわけだから、ある意味で参加費といえなくもありませんけどね。

 しかし、インフルエンザなどが蔓延し、当日に学級閉鎖や学年閉鎖が実施されたらどうでしょうか。直前のキャンセルになり、「キャンセル料」=会場費100%という可能性は高いです。それを保護者の負担にするのはいかがなものでしょうか? 学校側は、「きっと理解してくれる」と考えるでしょうが、「納得できない」と思う保護者もいるでしょう。【2023年12月8日/本段落を追記】

 もちろん自治体が管理運営している市民会館などは安価で借りられたり、学校には無料で貸し出したりする場合もあります。そこまでの交通費などは別途必要ですが、それ以外の費用負担はクリアされます。学校外の施設を会場とするなら、これが最低条件だと考えます。

大きな舞台に立つ経験もできたほうがいいけれど⋯⋯

 さて、会場の校内外という以前に、そもそも「学校行事」とはなにかを考えておきましょう。なぜ、行事をするのかという話です。この連載でもよく出てくる「学習指導要領」をめくってみましょう。

 教科とされている「音楽」などとは別立てで「特別活動」という章が用意され、そのなかに「学校行事」という項目があります。その学習目標は、体験的な活動をとおして集団性や連帯感を高めることです。合唱コンを分類すれば「文化的行事」となり、「平素の学習活動の成果を発表し、自己の向上の意欲を一層高めたり、文化や芸術に親しんだりする」ことがねらいとされます。

 いってしまえば〈本場の体験〉や〈保護者の参観〉は求められていません。あくまでもよりよい教育環境を求めた結果と学校的な慣習なのです。少々ドライに聞こえるかもしれませんが、基本を押さえておくことは大切です。

「よりよい教育環境」とされることが私費による実現だとしても、その教育環境を否定するのはむずかしいです。だれだって子どもに「よりよい教育環境」を整備したい──そっちに感情が流れていきます。そうなると、「隠れ教育費」を問題視する人間だけが孤立してしまいます。先にも書いたとおり、〈本場〉を体験させたい&〈本場〉で聞きたいというWin-Winが成立してしまっているからです。

 学校外の施設を利用するとしても、無料の会場を探す提案(費用面)や、子どもたちや保護者の入れ替え制(収容面)などを検討するという解決策もありますが、一度〈本場の体験〉をしてしまうと、なかなかもどり(し)づらくなるのが現実でしょう。

 そうかといって、会場費を公費負担できるほど学校に予算はありません。教育委員会への要求から始まるため、一筋縄ではいかないでしょう。よりよい教育環境と隠れ教育費の問題は、切っても切れない関係なんです。今回のように「よりよい教育環境」の実現──その裏には私費負担が隠れている場合も多んです。『隠れ教育費』では、合唱コン以外の事例に触れています。よかったら読んでみてください。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。