保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第36回|技術家庭科のセットは私費負担でいいの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第36回
技術家庭科のセットは私費負担でいいの?

 

 

 

 今月はモノです。あ、気づいていますか? 最近のテーマ選定には規則があります。『隠れ教育費』は、「『学校の〈モノ〉と〈コト〉』にかかる費用負担」を考える本です。本連載もそのスピンオフとして、テーマにかたよりが起こらないように「モノコトコト、モノコトコト」という順で書くようにしました。前回が「合唱コンクール」=コト、前々回は「部活動と生徒会」=コトなのでモノコトコト規則により、今月はモノで行きます。

 さて、第24回「書道セットと書初めセット、両方いる?」では、国語科(書写)のセットについて書きましたが、今月は「技術家庭科」にかかわるセットを扱います。裁縫セット、木工セット、電気セット、栽培セット──どんな中身を想像しますか? このなかに、意外な私費負担のセットがふくまれています。



 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 

 なんと、木工セットと呼ばれる「ノコギリ・キリ・ペンチ・ドライバー・玄能(金づち)・サシガネ(L字の金属定規)」などの道具のセットが私費負担(≒5,000円)になっている学校もあるそうです(とある筋からの情報)。

 ──少し落ち着いて、「セット」について整理しましょう。セットには、材料セットと道具セットがあります。材料セットは、一般的に私費負担のものが多く、セットというよりキット系ですね。たとえば、本棚キット(板・釘・紙ヤスリなど≒2,500円)やエプロンキット(布・ひも・台紙など≒1,000円)です。そして、道具セットには木工セットや裁縫セット(裁ちバサミ・縫い針・メジャーなど≒3,000円)があります。

 技術家庭科のような実技教科は、材料にも道具にもお金がかかります。しかし、授業時間はほかの教科とくらべて少ないんです。小学校の家庭科で週に2時間弱、中学校の技術家庭科も同じくらいの時間です(中3になると、週1時間の枠を交互に使う感じ)。

 趣味がDIYでもないかぎり、自宅にノコギリやキリは必要ないかもしれませんし、同じく裁縫セットも自宅に必要だと考えるひとは年々減ってきていると思います。

 しかし、裁縫セットは小学校の家庭科が始まる5年生で、慣習的に斡旋購入をさせています。そのまま中学校でも使い、自宅の裁縫セットへと流れます。

 使用頻度から考えても、道具くらいは公費で保障していくべきでしょう。

 家庭科といえば、調理もありますね。裁縫セットは斡旋購入させるのに、調理セットは聞いたことがありません。もしそんな事例があったら教えてください。でもむしろ、調理セット(包丁・ピーラー・計量スプーンなど)のほうが自宅でも再利用するんじゃないかと思いますけどね。あ、私費負担を推しているわけではありませんよ、念のため。

 いっぽう、材料セットは木や電気、布系が主流です。いまのところ調理実習で食材セット(1食分の食材や調味料など≒300円)を使う話は知りませんが、なくもないですよね。いや、切ったり計ったりしないから無意味か(笑)。あとは、育成技術の分野では栽培セット(土・たね・鉢など≒500円)を使うことが増え、販売側が私費負担を想定したセットを販売しています。

こちらは、木工「材料」セット。
木工「工具」セットは身近ではありません

 そもそも、ひとり1セット必要なのか、という問いから検証していきましょう。加工技術の単元の目標は、ひとり1つの本棚を完成させることではありません(詳細は「学習指導要領」参照)。集団で木製ベンチをつくって学校に置いたっていいんです。その場合なら、材料を公費負担する流れが理解しやすいでしょう。

 さらに、道具だって、個人持ちが想定されにくいですよね。作業をローテーションさせれば、人数分は必要ありませんし、公費も節約できます。コロナ禍であれば、道具を共用しないでいい措置として、道具セットの個人持ちが選択肢としてありうるかもしれませんが。

 セットをバラして公費で購入していこうというのが、「隠れ教育費」研究室の見解です。

 公費と私費、その区分のポイントはなんでしょうか。自宅に持ち帰ることや自宅でも使えることではなく、個人持ちにする意義が説明できるかどうかだと考えます(たとえば、コロナ禍における感染拡大防止や不安の解消)。安易に予算不足という理由を容認してしまえば、第30回「机、広いほうがいいけれど──天板の拡張キット」で紹介した公費保障の代表選手である教室の机や椅子までもが私費負担になりかねません。じわじわと忍び寄る私費負担と真剣に向き合っていくことが必要です。

 今回は、技術家庭科のセットを扱いましたが、以前紹介した習字セットや絵具セットも、裁縫セットと同じくらい私費負担の代表選手になっています。その領域に新しいセットが仲間入りしないように見張っていくことも必要でしょう。

 また、これらのセットは、費用面のみならず安全面でも公費購入(学校管理)が推奨されます。

 木工セットを習字セットと同じように教室保管するのは危険です。学校では、カギのかかるところで刃物を保管し、管理することが当たり前です。ハサミやカッターも人数分を公費で用意し、所定の場所で管理しています。

 個人持ちのケース入りセット品はかさばるため、その保管スペースを安全に確保するのも至難でしょう。子ども一人ひとりが管理する個人持ちが進めば、費用面だけではなく安全面でも問題になることがあります。危険物の管理については、教育委員会等から再三にわたり通知が出ています。

 費用面はもちろんですが、安全面や管理面なども考慮した保護者の意見が届くと、公費化に近づくかもしれません。事件や事故に子どもたちを巻き込まない──加害者や被害者にさせないこともつながります。それは、逆にわが子を守ることと同じです。その思いは学校にも届くことでしょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。