保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第33回|給食のエプロンは共用? 個人持ち?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第33回
給食のエプロンは共用? 個人持ち?

 

 

 

 給食の話題といえば子どものころ、好きだったメニューですね。「やっぱり揚げパンかな」「ソフト麺も好きだったよ」「わかめご飯でしょ」というような流れから、「たこ焼きもでたな」「冷やし中華だって食べたことある」というご当地的なプチ自慢で盛り上がり、「懐かしいよね~♪」というオチが一般的でしょうか。

 こんにちは、仕事柄、日々給食を食べているヤナギサワでございます。すでに子どものころより、おとなになってからのほうが多く給食を食べているため、いまだに思い出にはなっていません。はい、今月は給食のはなしパート2です。

 少し前のニュースに「小中学校の給食当番「給食エプロン」クラスでの「共用」廃止する自治体も…なぜ?」(山陰放送:2023年7月15日付)というものがありました。「なぜ」でしょう。その答えは記事にもありますが、もうちょっと現場的でディープな話題をふくめ、「隠れ教育費」ともからめた視点で〈給食当番の装備品〉と向きあっていきましょう。

 あ、ちょっとだけ宣伝失礼します。じつは、5月3日の憲法記念日に「『♯ 給食費無償』を全国へ」というネット署名を始めました(2023年9月8日現在:16,348筆)。給食のはなしパート1(第26回「学校給食費の無償化ってどうなの?」)でも無償化についてはふれましたが、詳細はリンク先をご参照のうえ、ご賛同いただけると幸いです。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、給食のエプロン系は共用が主流です。その方法として、各クラスの給食当番分=6~8着分のセットを公費で購入し、共用しています。セットと書いたのは、エプロンのほかにも帽子やそれらを入れる袋なども用意するからです。

 しかも、それらは種類が豊富なんです。一般的なエプロンタイプをはじめ、割烹着タイプやスモックタイプがあったり、帽子も丸形や八角、キャップタイプがあったりします。帽子じゃなくて三角巾の学校もありますね。袋は巾着袋、布製品の口をゴムやヒモで締められるような袋です。

 それぞれ、値段もピンキリです。エプロン系は2,200円前後で、帽子系は500円前後(三角巾はもう少し安い)、そして袋は300円前後です(以下、給食着セット)。帽子系は「給食用帽子」として100円ショップでも扱っているようです。袋も100円ショップでそれなりのものが売られていそうですね。100円ショップを利用せず、通常ルートで公費購入する場合、20クラスの学校なら×8セット=160セット(@3,000円)=最大48万円が必要です。

 お金もかかりますが、その管理として160セットを学校で洗うのもたいへんです。そのため、洗濯やアイロンの手間を家庭に負担させてしまう問題があります。

 また、週末に持ち帰るのを忘れたり、週明けに持ってくるのを忘れたりする問題もでてきます。「忘れ」には予備対応ができますが、「クリーニング」の費用を予算化する余裕は正直ありません。

 だから各家庭で洗濯してもらっているわけですが、そうすると記事にあった柔軟剤問題(=香害)が生じます。難しいですね、たしかに香害はキツイです。我が家では、無香料&純石鹸で洗濯しているから被害も重大で、頭痛がしてきます。しかも、それ単体で洗っても洗濯機に香りが残るんですよね……。「香りが残る柔軟剤の使用は避けてください」などと、香害の啓発を学校だよりや保健だよりで実践している学校もあるくらいです。

 アイロン面倒問題もあります。このような見えにくい家庭の労働負担も『隠れ教育費』では、とりあげています。ですが、最近はノーアイロン給食着セットもあるようです。まぁ、それはそれで化学薬品を使用しているわけですけどね。

 ほかにも買いかえのタイミングが難しいという問題もあります。とりあえずとことん使いつづける方針の学校も多く、ボロボロの給食着セットがベランダに干されているのを見かけることもありますね。PTA役員会である保護者が話していました。「給食当番が回ってきて、洗濯するたびにボロボロの給食着セットを家で補修しています」。その話題から「PTAで新調したらどうか」とまで飛躍していきました。

このタイプは白衣型給食着と呼ばれるヤツ

 ①公費負担もそれなりに多くかかり(48万円)、②柔軟剤の問題も生じ(香害)、③買いかえのタイミングに悩み(劣化)、④コロナ禍では衛生的な問題も指摘されていた【共用】という方法ですが、それでは、【共用】(クラスでシェア)ではなく、【占有】(全員に個人用として貸与=個人持ち)がベストなんでしょうか。すこし考えてみましょう。

 貸与を占有にした場合、全員に貸与するわけですから費用は5倍くらい必要となり、給食着セットだけで240万円の公費がぶっ飛びます(①の問題再発)。しかし、②~④は改善できるため、捨てがたい選択かもしれません。ようはカネがあればメリットたくさんの個人持ち……ですが、公費がなければ私費ですよ。

 ひとり3,000円程度ですが、されど3,000円──計算ドリルだったら10冊くらい買えます。しかも、就学援助でも個別具体的にはカバーされない費用です(第4回「就学援助を利用したいときに」)。とうぜん「隠れ教育費」化しますし、やっぱり個人持ち=個人負担は避けたい選択ですね。

 さきほどのPTA役員会ではありませんが、PTAで予算をとって購入しているところもあるようです。全員分なのか給食当番分なのか定かではありませんが、全員分だったらPTA会費を超える出費になることでしょう。ちょっとありえないですよね。PTA活動ではなく、給食着セット購入活動です。これも避けるべき選択です。

 この案件、解決させるのはなかなか困難です。文部科学省の「食に関する指導の手引き」によれば、給食当番活動は「衛生的な服装」によることが書かれているため、給食着セットは必須です。ここで、着ない選択が消えます。では、時間にしたらどれくらい着ているのか。35人学級で給食当番をかりに7人としたら5グループで回すことになり、授業日を年間35週で計算すると、1グループ7週間分担当し、35回着用することになります。給食当番の活動時間を1回15分としたら、年間着用時間は525分=8時間45分です。

 保健体育科(中学校)の単元である柔道と同じくらいなんですね。しかも給食着セットの価格も柔道着に近いです。そのため、柔道着の対応と同様に、あるていどの数を学校で用意(=公費で購入)してそれを「共用」するか、購入の「斡旋」を学校がするか、さらには自前で「衛生的な服装」を担保できるもの(エプロンなど)を用意して「持参」するか、という選択肢を与えて家庭の選択を尊重するのがベターかもしれません。

 給食にもいろいろな問題があります。給食費のことも書きましたし、まだ扱っていないアレルギーや食材の問題も「隠れ教育費」に関係してきます。またそのうち給食と向きあいましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。