保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第25回|公費ってなに? 私費ってなに?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第25回
公費ってなに? 私費ってなに?

 

 

 新年あけましておめでとうございます。

 連載3年目突入です! とりあえずのゴールとしている100回までは遠いですが、第1コーナーは回りましたね。今回は、連載中でも何度か話題になっている「公費」と「私費」の基本を整理しておきます(いまごろかよ⋯⋯という感じですね)。

 じつは、『隠れ教育費』の対象とされる「学校のモノやコト」は、そのほとんどが保護者の「私費」で負担しているものについてなんです。この連載でも「ランドセル」から始まり「制服」や「靴」などのモノ、「タブレットの弁償代」や「修学旅行費」などのコトを扱ってきましたが、すべて「私費」=保護者が負担している経費=家庭の教育費負担を課題にあげてきました。

 公立学校は公の機関ですから、公費による運営が基本です。それにもかからず過重な私費負担がある。解決させなくてはならない大きな課題です(なぜ、私費負担が過重になっているかという疑問は別の機会に譲ります)。「課題」というからには「解決」に向けた方針も示してきました。たとえば、私費で買っているモノ(払っているコト)を、「①安いモノ(コト)にする」「②そもそも買わない(実施しない)」「③公費で買う(支払う)」という3パターンにあてはめて再検討していく。──家庭の教育費負担を減らす(なくす)ためには、この方法しかありません。これは、『学校徴収金は絶対に減らせます。』という本に詳しく書きました。

 現代社会では、なんとなくランドセルや制服は家庭で用意するモノだし、修学旅行費も家庭が負担するコトだという固定観念が確立しています。その当たり前を見直し、再検討することがこの連載の目的です。──ということで、しっかりみっちり「公費」と「私費」について解説しておきます。


♪ いっしょにLet’s study about it. ♪


 公費と私費──オオヤケとワタクシでありまして対義語同士です。

 まず、学校現場でいう公費とは、一言で説明するなら市区町村の予算です。財源はもちろんオオヤケに徴収した税金です。そのなかから学校に配分されます。多くの自治体では、○○円まで使ってOK! という教育委員会からの連絡によって学校予算は決定します。このことを予算の令達といいます。

 たとえば、学校を管理するためのモノ(会議用テーブルや椅子など)、授業を円滑に進めるためのモノ(巨大な三角定規やコンパスなど)、保健室や給食室のモノ(傷テープや配膳ワゴンなど)、コトとしては、壊れた物や施設を直すための費用、包丁を研ぐための費用、クリーニング代、校用自転車の保険料、小動物の治療費などもあります。また、文字どおりの費用、水道光熱費も公費です。

 続いて、私費について説明すると(念のため)、保護者らが支払っているお金=個人払いということです。公費がオオヤケのお金であるのに対してそう呼びます。しかし、学校現場ではあまり私費という言葉は飛び交いません。もっと具体的に、補助教材費や制服代などという感じで呼ばれていますね。また、「学校徴収金」「保護者負担金」という呼称もあります。このあたりの詳細は『学校財務がよくわかる本』で説明していますので興味があったらご覧ください。

 では、発展的な学びに移りましょう。気になっているひともいると思いますが、公費と私費のわけ方ですね。専門用語では、「公費私費負担区分」と呼ばれ、各自治体で制定している場合があります。たとえば、約1年前に話題となった香川県高松市のそれを「隠れ教育費」研究室でも検討しました(「『公費と私費の区分を明確化 高松市教委がマニュアル』の経緯」)。さらに専門的な研究もあります(「義務教育における公費私費負担区分に関する研究」)。このようにさまざまなところで検討されていますが、法律で定められているものではないため全国統一の拘束力はありません。いってしまえば、全国の自治体によってさまざまということです。

文部科学省のみなさまも国会への要請お願いいたします。 (出展)文部科学省ウェブサイト

 そうはいっても大まかな統一性・共通性くらいはあります。水泳の授業では、水着=私費、水=公費ですね。調理実習では、食材=私費、ガス=公費が多いと思います。この区分方法を説明するなら、個人が身につける(お腹に入れる)モノと個人の使用分が特定できないモノという理由です。それでも、公費の予算がたくさんあれば水着だって、食材だって公費で用意しても問題はありません。学校給食で考えるとよくわかります。

 学校給食にかんすることだけ、法令等でその経費負担の区分が示されています(学校給食法など)。食材料費=私費、人件費+施設設備費=公費です。しかし、昨今では食材料費を公費負担としている自治体が増えてきました(「青森市、学校給食費無償へ【前編】──近年の学校給食費無償化自治体とその先に求めること」を参照)。法令には、食材料費=「保護者の負担」(私費)とされていますが、「公費負担を禁止する」とはしていません。禁止条項がないので、自治体の議会決議(予算化)により公費負担が可能です。

 学校給食には「私費」とする法令の定めがありますが、水着や調理実習の食材にかんしてはそれもありませんし、もちろん「公費」負担を禁止する定めもありません。

 それでは──大きな声で結論を叫びます! いま「私費」とされている費用も各自治体が議会で検討し、予算を確保すれば「公費」負担にすることが可能なのです!! ⋯⋯でも、叫んだだけでは公費が増えませんし、私費とされているモノやコトが公費負担へと移行しません。学校給食費は首長選挙の争点=公約になることも多いです。候補者に向けて叫びましょう♪ そもそも公費(教育費)予算不足が要因であることも多いですし、予算が審議される市町村議会に向けて叫ぶことも必要ですね。教科書の公費化は法制化による成果です。立法機関である国会に向けて叫んでもいいかもしれません。

 ──あ、議員さんに『隠れ教育費』を渡して読んでもらうっていう方法も効果的ですね(笑)。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。