保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第37回|転校すると、どんなお金がかかる?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第37回
転校すると、どんなお金がかかる?

 

 

 

 新年あけましておめでとうございます。

 連載4年目突入です! [Edit-us]開始の当初からいっしょに担当していた執筆陣は、昨年までに単行本をまとめ、卒業していかれましたね。ほぼ同期の「こんな授業があったんだ」とともに「保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。」は、今後も[Edit-us]の重鎮として、いつもここにある「安心」をお届けしてまいります。引き続き、応援よろしくお願いいたします。

 いまさらですが、学校の内部事情を暴露している! って心配されているひともいるかもしれません。でもだいじょうぶ──話題になりづらいだけで、公開されている情報を整理し、問題提起をしているだけです。守秘義務に抵触することはしていません。しかし、いつもここにある「不安」をお届けするわけにはいきませんので、これからも法令順守、かつ刺激的な「疑問」を扱っていこうと思います。

 今回は「転校」です。おっと、ヤナギサワ連載が他社に転籍か!? って心配されたひと⋯⋯いないか。読者のみなさまは転校したことありますか? 職場の移転や転籍、異動とは違うアレコレがそこにはあります。


 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 

 

 まず、転校の流れを説明しておきますね。義務教育期間中は、どこかの学校に籍を置く必要があるため、転校してもそれが途切れることはありません。そのため、かならずしも引っ越しと転校が同日になるわけでもありません。

 引っ越し=住民異動の手続き(転出届)を役所で済ますと、行政内部の処理が始まります。転出する世帯に学齢期の子どもがふくまれているとき、在籍校(便宜上、転校前の学校を「A校」とし、転校後を「B校」とする)から籍を抜くための根拠書類が発行されます(保護者が担任等に「転校します」と伝えただけでは転校できないのです)。

 それを受けたA校は、「〇〇月〇〇日まで本校に在籍していました」という在学証明書と、「国語の教科書は、〇〇社を使っています」という教科書メーカーを記した教科用図書給与証明書を発行し、B校へ通知します。B校は、A校の在学最終日を確認し、その翌日を転入日として受け入れ、その証拠に入学通知書をA校に送付します。それと同時に、教科用図書給与証明書を確認し、メーカーが違う教科書を新たに給与します(義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行規則第1条)。

 入学通知書を受けとったA校は、指導要録(「学籍」に関するものと「指導」に関するものがある)と呼ばれる書類をコピーしてB校へ送付します(学校教育法施行規則第24条第3項)。それを受けて、B校が新たに指導要録を作成することで、学籍がつながります。めでたしめでたし──。

 しかし! つながるのは基本的に学籍と教科書だけなんです。では、つながらないモノやコトを考えましょう。

 まず、モノです。教科書以外の補助教材(ワークやドリル)はつながることもありますが、つながらないことのほうが多いです。教科書会社は各教科で2~10社以下ですが、補助教材を扱っている会社はそれ以上に多く、しかも種類が豊富です。また、制服がある場合はそれも異なりますし、体操着やシューズも違うでしょう。また指定された文房具(道具箱や引き出しなど)も買いかえが必要になることもあるようです(筆者出演、ABEMA Prime「書道用と書初め用で別料金? “義務教育は無償”のはずが… 家計襲うキビシイ現実」参照)。

「わたし、転校するんだ⋯⋯

 コトでいうと、授業の進捗が異なります。A校よりB校のほうが遅い場合は復習になりますが、早い場合はその授業が受けられません。そのため、補習が必要になります。

 また、自治体によって行政サービスも違います。教育扶助(生活保護)は、法定受託事務といって、本来は国がやる事務だけど、その事務を法令によって自治体任せとしているだけなので、どの自治体でも制度は同じです。しかし、就学援助は法定受託事務ではないので(それ以外を自治事務という)自治体によって違いが生じます。

 たとえば、A校のときは年間所得250万円以下で利用できたのに、B校になると200万円以下までハードルが上がる(所得基準)、卒業アルバム代の援助があったのになくなる(援助項目)、入学準備金が6万円だったのに4万円に下がる(援助額)という可能性があります。もちろん、逆の場合もあります。

 もうひとつ、最近話題になっている給食費の無償化も影響します(「第26回:学校給食費の無償化ってどうなの?」)。たとえば東京23区では給食費の無償化が進んできており、東京23区からの転校生を受け入れる自治体によっては、「うちの自治体では給食費『有償』です」という説明が必要になってきました。転校によって無償→有償となってしまうのは残念な気持ちになりますよね。

 このように転校は、隠れ教育費にも影響を与えます。保護者から「転校前の学校で使っていたワークやドリルを使ってください」「体操着やシューズなどは転校前の学校で使っていたいモノをそのまま使わせてください」などというのは難しいと思います。しかし、多くの場合で転入前に管理職や事務職員と顔を合わせる機会があります(転入に対する手続きなどを説明する)。そのとき、転校により生じた(る)経済的な負担も話していいと思います。転校の経験って意外と希少ですからね。

 また、同じモノじゃなくてもだいじょうぶという対応を学校は積極的にしていくべきだと考えますが、本人しだいということもあります。そのため、そもそも論として指定品を減らしていく取り組み、普遍的なデザインへの変更も求められるでしょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。