保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第24回|書道セットと書初めセット、両方いる?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第24回
書道セット書初めセット、両方いる?

 

 

 みなさん、「おはこんばんちわ」⋯⋯年齢がバレますね、その世代です。そして、来月はその年齢に「+1」される日を迎えるヤナギサワでございます。

 さて、この連載も早2年目が終わり、来月からは3年目に突入! 小学校でいったら3年生です。3年生といえば、書写の単元で毛筆が入ってくる時期ですね。そろそろ、書道セットの準備が必要⋯⋯ってなかば強引に今月のネタへ導いてみました(笑)。

 小学校のセット教材といえば、絵の具セットや裁縫セットとならび、高額3大セットに数えられるのが「書道セット」です。そして、来月は正月、正月といえば「書き初め」ですね。「書道セット」と「書き初め」には切っても切れない縁があるのです──。

 はい、今月は「書道セット」と「書初めセット」の疑問に答えていきます。

 じつはこのネタ、以前、ABEMA Primeに出演したときに話したことがあります。その番組「制服や体操服、リコーダー⋯書道用と書初め用も別? 義務教育=無償のはずなのに多額の負担『隠れ教育費』の著者『児童手当の活用を』」のなかで、ある保護者が発した言葉──「最近びっくりしたのが、書道セットと書初めセットが別だった。書道セットは(一番安いものでも)1人4500円、書初めセットが1人3000円、2人いるので合計15000円になった」という声をピックアップしてみました。ヤナギサワが出演しているYouTubeもありますのでよかったらご覧ください。

 それでは、「書道セット」と「書初めセット」のダブル購入について考えていきましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、書写という授業を整理しておきます。じつは、書写という教科はないんです。でも教科書はあります。授業計画は国語といっしょに立てられます。つまり、国語の授業時間内で書写の教科書を使った授業をするわけです。

 小学校の学習指導要領には、国語の時間内に年間30時間程度「書写」の指導をすると書かれています。そのため、小学校では時間割に書写が登場することもあります(年間35時間≒授業週1回分だから)。

 つづいて書初めについてですが、そもそも学習指導要領に「書き初め」という文言はありません。

 学習指導要領を解説した文部科学省の著作「【国語編】学習指導要領(平成29年告示)解説」には、小中ともわずか1か所「我が国の伝統文化である書き初めに取り組むことなどを通して,書写の能力が生活の中の様々な行事に生きていることを実感することも大切」という記述があるのみです。その記述から、競書会という行事(学級単位を越えた集団的書き初め会)を実施している学校もありますが、そうでもないかぎり、書写の時間で書き初めをじっくりやる学校は稀かもしれません。そもそも書き初めは、1月2日にやる行事ですしね(あ、「書き初めの日」がわたしの誕生日です(笑))。

 ここでたいへんローカルな話題になりますが、埼玉県には「硬筆展覧会・書きぞめ展覧会」(埼玉県教育委員会と埼玉県書写書道教育連盟の共催)という事業があり、書写の指導に関して盛んなほうだと思います。そのため、小中学校ともに展覧会指定の手本や練習帳、画仙紙(書き初め用の半紙)などを購入することが必須となり、他都道府県と比較すると補助教材が多くなります。このような方針があると、「ダブル購入」が起こります。書道セットにいろいろと追加して書初めセットにグレードアップさせるか、別に書初めセットを用意するかという選択を迫られるのです。

これは書道セット? 書初めセット? どっちでしょう。

 それではまず、ベースとなる書道セットから紹介していきましょう。その値段は3,000~5,000円程度が主流です。中身は、筆や筆巻き、すずりや墨、下敷きや文鎮が基本セットです。高いものは筆が良質であったり、セット品を入れるバックに人気キャラクターがデザインされていたりします。筆はともかくとしても、授業で使う意図とは関係ないデザイン性で金額が左右する場合もあります。子どもは、無地よりキャラクター付きがほしくなりますよね。また、オプションによる差もあります(たとえば、墨汁や作品ホルダー、雑巾など。さらに、洗って落ちる書道液や応急シミヌキ剤という便利品まである)。

 書道セットは、斡旋購入という方法が多いです。学校がチラシを配付し、希望者のみ斡旋品を購入する方法です。ただ、あくまでも推奨品であり、国語ワークや漢字ドリルのような縛り付きの指定品ではありません。

 しかも、たとえ斡旋品を購入しても数種類からセットを選んだり、ひとつひとつ単品で組み合わせ購入したりすることが可能です。そのため、学校あるあるの「みんなと違うという不安」を気にすることはありません。

 また、最低限のものがそろっていればなんでもOKです。身近なショッピングモールでもセットが安価で販売されていますし、バラ売りもされています。良し悪しは別として、100円ショップでもそろえることができます。思い切って安くそろえる方法を選択してもいいと思います。

 斡旋購入でセットで買うにしろ、いろいろ検討して購入するにしろ、書道セットを正月に向けてさらに費用をかけてグレードアップする、または追加でセット購入すること、それが冒頭のエピソード「ダブル購入」です。仮に安くすませるためにグレードアップするばあい、まず、半紙(画仙紙)のサイズが違うために下敷きも長いものが必要です(1,000円程度)。そして、筆もより太い筆(1,500円程度)を用意することになります。墨汁はさすがに同じですが、墨地と呼ばれる墨の入れ物が違うこともあります(まぁ、墨が入ればなんでもいい気もしますが専門家的にはどうなんでしょう⋯⋯)。グレードアップだけでも数千円が必要になります。

 こちらも筆は安価なものを選ぶことはできそうです。学校で用意できないのか? という疑問も生じそうです。検討したこともありますが、どうしても使用後の洗浄がネックになります。子どもたちにやらせる(キレイにならない、流しが広くない)、担任がやる(40本も洗う時間がない、負担が増える)──両方とも課題が満載でした。その結果、個人持ちが主流となり、洗浄は自宅でする流れが一般的になっているんじゃないかと考えています。しかし、筆はともかく下敷きなら使いまわしも可能ですし、そのつどの洗浄も不要ですしね。少しずつでもセットという概念から抜け出す学校側の意識改革も必要かもしれません。

 耳にタコかもしれませんが、こうしたこともアンケートに書いてみてください(「第12回:保護者アンケートにどう答えたらいいの?」参照)。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。