保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第29回|なんで振替手数料って保護者負担なの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第29回
なんで振替手数料って保護者負担なの?

 

 

 

 5月になると「保護者負担金」の集金をはじめる学校は多いです。集金というと年配の方は「集金袋」をイメージするかもしれませんが、現代では金融機関を介した口座振替が一般的になっています。また、最近ではスマートフォンと連携したアプリによる回収方法も聞くようになりました。

 学校では、3月に決算処理がされ、4月になれば予算検討という流れから、集金自体がストップされていた2か月間──ある意味、息を潜めていた「隠れ教育費」が、今月から暴れだしますよ(笑)。

 それでは「本当の学校事務の話」をしながら、保護者の疑問に答えていきましょう。今月寄せられた疑問は、「振替手数料」です。

 入学して間もない4月の中旬、学校から届く「集金のお知らせ」という手紙。それによると毎月「補助教材費〇〇円」+「振替手数料〇〇円」が振り替えできるように残高を確認してくださいとのこと──。

「義務教育は無償といいながら、隠れ教育費は多いし、そのうえに振替手数料まで保護者が負担するの?」 と思ってしまうのもごもっとも。「集金袋」による現金持参以外は、振替手数料がかかり、それは保護者の負担になっていることが多いです。

 今月は「振替手数料」ととことん向き合っていきましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 振替手数料は、保護者に登録してもらった口座から、学校の口座へ指定額を振り替えるときに発生する手数料です。その手数料は、保護者の口座から振替作業をした金融機関が徴収します。

 本題に入る前に口座振替の流れをかんたんに説明しておきます。入学前、学校は「入学説明会」を開きます。そのときに事務職員は保護者に「〇〇銀行の口座を開設し、振替依頼書を記入し──」といった手続きのお願いをします。そして、そのあとは事務職員しか知りえない学校事務がはじまります。少しのぞいてみましょう。

 金融機関によって流れが微妙にちがうので、全国で5万超、店舗数No.1の銀行「ゆうちょ銀行」のパターンを紹介します。

 保護者が窓口で手続きをすると、その情報(口座番号や名義)が学校に郵便で届きます。それらの情報を事務職員が入力し、それぞれの口座情報と振替指定額を結びつけたデータベースを構築します。そして、そのデータベースをセキュリティ対策が施された金融機関の専用サイトへアップロードします。これでセッティング完了です。

 あとは金融機関が自動で振替処理をし(ここで振替手数料が発生。ゆうちょ銀行は10円/回)、振替日の翌日に同サイトへアクセスすると、振替結果が掲載されています。それを確認しながら事務職員は、保護者あてに「未納通知」を作成します(納付完了通知は出しません)。

 この作業を年間の振替回数分だけ事務職員がやるのです(たとえば、5月から翌年2月まで毎月やるなら10回)。10回の振替だとその手数料は100円ですね。ほかの金融機関でも、高くて100円前後/回です。そのため、金融機関の口座振替を利用すると、年間10回の振替として100~1,000円前後かかります。

 もちろん、集金袋の場合は手数料不要です。しかし、集金袋をつくる作業やお金を数える作業、口座へ入金する作業などは教職員が担うことになります

 そこで、最近では文部科学省が推進している「学校の働き方改革」を促進するために、集金業務を外部委託するような学校も現れてきました。民間の決済サービスを利用することで、教職員の負担は大幅に減少するようです。ウェブサイト上から請求金額を指定するだけで保護者のスマートフォンに情報が送られ、それを受けた保護者は好きな決済方法(クレジットカードや電子決済)で支払いを済ませることができるサービスです。

 一見すると学校も保護者もWin-Winに思えそうですが、これには振替手数料のほかにも月額の利用料などが振替手数料以上にかかります。もちろん保護者の負担になることが多いです。

振替の場合、こうしてきっちり10円引かれています

 さて、振替手数料の話に戻りましょう。そもそも手数料ってだれが負担するべきかという話をつき詰めます。たかが100~1,000円かもしれませんけど、されどですよ。

 百歩譲って、いや千歩譲れば、公費不足により公費購入が難しい──ワークやドリル、遠足の費用を保護者が負担することで、子どもはより充実した学びを体感できます。一般に受益者負担といわれるやつですね。

 しかし、振替手数料はどうでしょうか? 子どもの学びには関係ありませんし、受益者負担という論理も通りません。むしろ、集金袋による集金業務を軽減するため=学校側の受益を実現するための費用です。それを公費保障するという前提もなく、保護者に負担してもらっていることになります。

 ここまで説明すると、金額の大小ではないことがわかると思います。ましてや、文部科学省が推している「働き方改革」という公的政策を保護者負担=私的費用で実現することの是非は問い直すべきでしょう。たとえば、税金であれば支払うために手数料は不要ですし、水道料金は口座振替を利用することで〈逆に割引〉される自治体もあります。

 もちろん、「ブラック」と叫ばれている学校の業務負担を改善していく必要もあります。そのために民間決済サービスを利用することも手段のひとつです。

 ですが、自治体が集金業務を担う方法もあります。文部科学省の調査によれば、2021(令和3)年現在で3割程度の自治体が学校給食費を公会計化しています(自治体が集金業務を担い、自治体予算に組み入れること)。公会計化されることで税金の徴収と同じく振替手数料は不要となります。

 自治体がその人員を割けない場合、民間サービスを利用することも選択肢としてはありますが、その費用を保護者に負担してもらうのはお門違いです。川口市(子ども約43,000人)を例にとれば、民間サービスを利用した場合の振替手数料&利用料を仮に年間2,000円としても約8千万円(一般会計予算全体の約0.04%)程度です。

 この問題は、賛否両論あると思います。キャッシュレス化が進む現代社会で集金袋に小銭を入れるなら、多少の手数料を支払っても口座振替がいいという保護者もいるでしょう。さらに、口座を開設したり手続きをしたりするために仕事を休むくらいなら利用料も払うからオンライン決済を選択したいという考えもあるでしょう。しかし、その反面、このことによって、受益者負担とも説明できない費用徴収(深遠なる「隠れ教育費」)が今後も増えていくきっかけになる可能性も考えられます。

 公教育のありかたと利便性──、難しい選択ですね。それでもいえることは、大勢に流されることなく自分の考えを表明し、行動することです。たとえ少数派だとしても、振替手数料を支払いたくないという意見を学校は真摯に受け止めるはずです。強制できることではありませんからね。また、学校側も手数料の公費化や保護者負担金の公会計化を自治体に要求していくことが大切になります。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。