こんな授業があったんだ|第30回|ことば遊びセレクション〈前編〉|向井吉人

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

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ことば遊びセレクション 〈前編〉
ことばが見つかる「ひらがな遊び」 (小学1年生)
向井吉人

 ことば遊びは、ことばを遊ばせる技法であり、表現活動のひとつです。さまざまな技法に動機づけられて、楽しく・おもしろく表現できちゃう、遊べちゃう。ふつうの文章表現は、見聞したものや心情・気持ちなどが動機づけになる自己表現です。だけど、ことば遊びは、単語やフレーズ、詩作品などをもとに、意味ではなく、音と文字を技法・ルールにのせて遊ばせるものです。

 しりとり、くつかむり(沓冠)、アクロスティック、だんだんことば……などなど、たくさんの技法があって、さながら遊園地のアトラクションのよう。学校作文などによって紡がれることばは、見聞や感情に寄り添った表現になる。だけどことば遊びは、見つかったり引きだされたりしたことばのイメージによって表現される。こうしたことばさがしと文づくりの思考過程って、学校作文とはあきらかに異質なものではないでしょうか。

 そうです。ことば遊びは、初めにことばありき。パズルにも似たさまざまな技法によって動機づけられ、組み合わせたり並べ替えたり、つないだりしながら、想像的なイメージへと広げ、ふくらませる。自己表現しなくちゃ、という縛りから解放されて、頭も心もリフレッシュすることうけあいです。(『できる! つかえる! ことば遊びセレクション』「はじめに」より抜粋)

15文字でことばさがし

この15文字を使って、できることばを見つけましょう。
(濁音をつけてもいいことにすると、使える文字は25文字になります)

ほかにも、こし、うく、さす、さか、くそ、きす、
くうき、あかい、ずこう、こくご、えいご、
おおさか、いいあい、おおぜき……など、たくさんできます。

◾️教室ではこんな工夫で

*小学校1年生の教室で、ことばさがし。まず、思いつくまま、いろいろ発表しあいます。友だちの苗字や名前もいっぱい出てきます。子どもたちは考えついたら口に出しますので、それがどんどん広がって、たいていの子が同じことばになりがちです。でも、このじゅわーっと広がっていく感じが、ことば遊びのおもしろいところです。

*ワイワイ言いあったあとで、見つけたことばを書いて、そこにイラストをつけてもらいました(上の絵)。これが楽しい! それぞれの「ことば」をどのようにイメージしているかがわかります。ちょっと抽象的な「あい」「あき」「くうき」「うえ」や「さす」「うく」などの動詞が見どころです。

*1年生の文字指導は、50音順とはかぎらないようです。学習した順に、10文字、15文字と決めて、ことばさがしをしましょう。

10文字でことばさがし──あ段づくし

この10文字を使って、できることばを見つけましょう。
(こんどは文字の数を少なくして、濁音を使わずにやってみます)

濁音もオーケーにすると、さらにたくさんできます。
下に紹介している「名前の文字」遊びも同様です。

◾️教室ではこんな工夫で

*さがしているうちに、「濁音にしてもいい?」と聞かれることでしょう。たいていの場合、一例をたずねて、「いいじゃない。やってごらん」とすすめます。「が・ざ・だ・ば・ぱ」の5文字が入りますから、違うことばが見つかるうでしょう。また、同じ音を2回使えるかどうかを聞かれることもあります。思いついたことは試してみてください。

*名前の文字からことばさがしをすることもできます。文字数が少ない名前の子や、同じ文字が多い名前の子もいますので、教室ではちょっと配慮が必要です。ここでは、わたしの名前「むかいよしひと」の7文字を使って遊んでおきます。

2文字ことば──いか、かい、むし、しか、いし、よむ、かし

3文字ことば──むかし、しかい、かいひ、かよい、かいむ、とかい

4文字ことば──よむひと、ひとしい、ひとよし(人吉)、よむかい(読む会/読むかい?)

*       *       *

 わたしたちは幼少期からたくさんのことばを聞き、読み、記憶しています。そのことばは頭のなかにストックされていて、認識や表現に応じて引きだされます。表現力とは語彙力だといえるでしょう。ひらがな遊びは、それらの語彙をいくつかの文字から、また語形から連想的に引きだす・見つけだす技法です。

 たとえば、しりとりで、似ている音で、文字の数や単語の型で。「だんだんことば」や「綴りかえ」で。文字や語形にうながされ、無意識の領域におかれて忘れかけていた、思わぬことばが見つかります。こんなことば知っていたのか! という驚きが、子どもにも大人にもうまれます。いわば「ことばの虫干し」です。ことばの虫干しをしておくと、いつでも表現に活かせるのではないでしょうか。

後編につづく

出典:向井吉人『できる! つかえる! ことば遊びセレクション』太郎次郎社エディタス、2016年

向井吉人(むかい・よしひと)
1948年、三重県生まれ。1972年〜2009年、東京都小学校教員。定年までの37年間を学級担任として勤務。現在、東京都および立川市の非常勤教員・時間講師。長年にわたり、ことば遊びの教育実践と理論的研究、ことば遊びについてのコレクションとその批評を続けてきた。
1983年、ことば遊びの教育実践により久留島武彦文化賞を受賞。
ことばあそびの会には発足の1977年に会員となり、1985年からは全面教育学研究会に参加。
ことば遊びに関する著書に『素敵にことば遊び』(學藝書林)、『ことば遊びの授業づくり』(明治図書)、共著書に『作文わくわく教室』(さ・え・ら書房)などがある。