保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第28回|学校図書館は新しい本を買えてるの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第28回
学校図書館は新しい本を買えてるの?

 

 

 4月、ご入学・ご進級おめでとうございます。心機一転、学校を見つめ直しましょう。

 子どものころを思い出してみてください。学校図書館には、カウンター越しで「貸し出しカード」を扱うカッコイイ図書委員がいました(それに憧れてわたしは図書委員に立候補したこともあります)。そこでだれしも1冊は本を借りたことがあると思います。シリーズモノにハマると、買いそろえていくのはたいへんです。

 そんなときにも学校の図書館は便利ですね。──懐かしいところで『少年探偵団』や『ズッコケ三人組』などのシリーズ、『ぼくら』シリーズもありました。ちょっと高額な『ハリーポッター』シリーズもあります。いまでも人気の『かいけつゾロリ』シリーズは70巻を超えています。きっと、どこの学校にも置いてあり、子どもたちの話題を集めていたことでしょう。利用料は、もちろん無料ですしね。学校があのころの読書活動を支えていたともいえます。

 現代でいえば、朝読書に適した『5分後』シリーズ、マンガで科学を学べる『サバイバル』シリーズなど、ほかにもノベライズやライトノベルも人気です。いまの子どもたちにもいろいろな本と出会ってほしいですね。そのためにもやはり財源は重要です。今月は、その「本」の財源について考えていきます。

 あ、申し遅れました。本連載を担当している公立中学校の事務職員(補職名は「事務主査」)ヤナギサワでございます。本年度もどうぞよろしくお願いいたします。

 さて、「学校図書館の購入費、小学校で13倍・中学校で27倍の差…いくら使うかは自治体判断」という読売新聞の記事があります。概略をまとめると、全国168自治体の学校図書館における図書購入予算を調べたら、自治体によってひとりあたりの図書購入費に、小学校で約13倍、中学校で約27倍の差があることわかったという記事です。

 それでは、この記事をベースにして「財源」を掘り下げていきましょう。 

♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、どうしてこんなに差があるのか──記事にもありますが、国は「図書購入費用として計199億円を地方交付税交付金で配分」したけど、地方交付税交付金は「使途が限定されないため」、「全額を図書費に充てた」と答えた自治体は、たったの「7%」という状況だからです。

 この地方交付税交付金っていうのがミソなんですね。使い方が限定されて配当される予算(国庫補助金など)とはちがい、名目は図書購入費として算出した予算だけど、使い方は「自治体判断」(道路を直すのに使ってもOK)という予算です。「自治体判断」としている理由は、「地方公共団体の財源は自ら徴収する地方税など自主財源をもって賄うことが理想」だからとされています(総務省)。──理想ですけどね、そうはいってもね⋯⋯

 そのため、交付された予算を「自治体判断」で図書購入費に予算づけし、学校へ配当させることが課題となります。たとえば、公益社団法人全国学校図書館協議会は、「学校図書館図書整備費の完全予算化をめざして」という声明を出しています。

 要約すると──国は1993(平成5)年に「学校図書館図書標準」を制定し、「学校図書館図書整備新5か年計画」で総額約500億円を交付することで、蔵書を現在の1.5倍まで引き上げる施策をかかげたけど、この標準に達した学校は少なかった。そして、2002(平成14)年度からも約650億円、その後5年ごとに約1,000億円ずつ交付しているけど、思うように自治体では予算化されていない。そのため、多くの団体と協力し、図書購入費の完全予算化を求めて運動を展開している──という内容です。

子どもの読書環境のために書目更新は重要です

 このように〈各自治体で予算化〉することがたいへん重要なのです。第25回「公費ってなに? 私費ってなに?」の結論として「いま『私費』とされている費用も各自治体が議会で検討し、予算を確保すれば『公費』負担にすることが可能なのです!!」と声高に叫びました。

 とはいえ、たとえば、学校給食費で考えると、必要な費用を算出してその財源を確保し、予算化のコンセンサスが必要です。しかし、図書購入費の場合は交付金として「予算化する基準」が示されています。つまり、かんたんにいえばどこからか財源を探してくるんじゃなく、国からの交付金をそのまま予算化すればいいのです。

 自治体で予算化が実現したとしても、学校に配当する方法も工夫が必要です。一般の学校配当予算とは別に「交付金分の図書購入費」としないと意味がありません。なぜなら、一般予算に含めて配当した場合、それが図書購入に使われないこともあるからです。さらに、図書購入費を確保するためにその他の公費が不足し、私費が増えてしまうという本末転倒なこともありえます。

 このように各所で〈予算の取り合い〉が起こってしまいます。学校現場の課題も想定されますが、まずは自治体間格差を生じさせないためにも、自治体まかせの地方交付税交付金ではなく、目的が明確な国庫補助金として図書購入費をしっかり確保していくことが近道であると考えます。

 とはいっても、そのためには法整備等が必要だし、すぐには図書購入費としての国庫補助金は実現されないでしょう。やはり地方交付税交付金の完全予算化に向けた取組=議会を動かすことが必要です。ググってみたところ、議会質問で図書購入費について触れているサイトがヒットしました。ある議員さんが教育長に質問した内容です。このように、ネット記事を探したり、地元の議会で話題になっているかどうかを議事録で調べたり、問題意識をもっているかどうかを議員さんのオフィシャルサイトで確認したりしてみることからはじめるといいかもしれません。

 今月は統一地方選挙があります。投票日は9日(日)と23日(日)です。教育政策に力を入れているひとも多いと思いますので、候補者の主張や演説に耳を傾けてみてください。気になる候補者には意見を届けてみましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。