保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第11回|援助額ってみんな同じじゃないの?──就学援助③|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

初回から読む

 

第11回
援助額ってみんな同じじゃないの?──就学援助

 みなさん、こんにちは。第4回「就学援助を利用したいときに」第8回「だれでも申請できますか?」にひき続き、就学援助制度(以下、制度)についての第3回目です。今回は、利用できる「援助の項目」について説明していきます。

 他市へ引っ越し、子どもが転校したある利用者を例にみてみましょう。転校先の学校でも制度を利用しようとしたところ、引っ越し前の自治体にはなかった部活動の費用(数万円)や生徒会費(数千円)、モバイルルーター(現物)まで援助されたといいます。何度も言いますが、就学援助は市区町村が運用している制度なので、自治体により援助してくれる項目=費目までもが違うんです。

 ちなみに、就学援助は「学校」がある自治体ではなく、「自宅(住民登録)」がある自治体の制度を利用することになります。「区域外就学」を申請し、隣町の学校に通ったとしても「自宅」がある自治体の制度を利用することになりますので、援助項目が充実しているからといって隣町の学校へ転校しても意味はありません。希望の制度を利用したい場合には引っ越しが必要となってしまいます。まぁ、聞いたことない事例ですけど。

 そのため、条件がよい自治体を紹介して引っ越しを促すのではなく、自治体の条件を比較しながら「自宅」がある自治体の制度条件を高めていくためのとりくみを提案したいと思います。


♪ いっしょにLet’s study about it. ♪


 今回も法律の条文を掲載しておきます。

就学援助制度のアウトラインを定めた条文は、「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」(学校教育法第19条)です。家庭の収入が少ないため、義務教育を思いどおりに受けることが難しいとされる子どもの保護者に対して、市町村は必要な援助を与えなければならない=義務があります。

「援助を与えなければならない」とは決まっているけど、どのていどの援助をどのように与えるかという具体が書かれていませんね。そのため、各自治体は「○○市『就学援助』実施要綱」などという規程をつくり、それらを定めているのです。多くの自治体では「学用品費」や「学校給食費」といった援助項目を設定しています。そして、現物支給ではなく実費額や実費相当額といったように費用を援助していることが多いです。一方、むし歯などの治療に対して「医療券」という現物を支給し、医療機関への窓口支払いをなくす援助もあります。このあたりは、ほとんどの自治体が共通です。

 それはなぜか──市町村の事業ではあるんですけど、国が実施する〈ごく一部〉の就学援助もあります。そのために国も援助項目の基準を定めています。ここは、ややこしくなりすぎるので説明しませんが、それを参考にすることができるため、似通っている項目が設定されているのです。

 文部科学省が運営する「就学援助ポータルサイト」を参考に、2021(令和03)年度の援助項目を表にしてみました(以下、国基準)。

 コロナ禍において最近追加された新しい項目として、「オンライン学習通信費」があります。そのまえは、「卒業アルバム代等」、さらにそのまえは「クラブ活動費」や「生徒・PTA会費」が追加されました。このように、国基準は時代の移り変わりにおうじて見直されています。各自治体ではどうでしょうか。比較的新しい項目は、自治体によって差が生じていますが、「学用品費」や「給食費」、「医療券」などは昔からある項目なので、ほとんどの自治体が援助の対象としています。

 この表と自分が住んでいる自治体の援助項目や援助額を比較してみると、差が理解できると思います。「(自宅がある自治体名)_就学援助_項目」でググってみましょう。


♪ いっしょにLet’s research about it. ♪


 上で紹介した比較的新しい項目が入っている場合は、先進的な自治体だと思います。つぎは、近隣自治体と比較してみてください。国基準をコンプリートしている自治体を探すのはたいへんですが、どれくらいの項目をカバーしているか、援助額はいくらか、などを調べることは価値があります。ぜひ、お試しください。

ちなみに国基準にはない珍しい項目の例としては、防犯ブザーやヘルメット、体操服、水着、メガネの購入費用などがあります。さらに、学用品費とは別に補助教材費、新入生学用品費とは別に制服準備費を援助しているような自治体もあります。

 援助項目や援助額の比較をしていくと、どうして差があるのか気になってくると思います。もっと調べてみたいひとは、議会議事録や教育委員会議事録をリサーチしてみると、制度に対する考え方や議論の過程がわかるかもしれません。

 たとえば、神奈川県横浜市の会議録で「就学援助」と検索してみました。なんと382件もヒットしました。新しい話題では、本年度から横浜市でも中学生に対する学校給食がスタートしたことに合わせ、就学援助の項目に追加する議論がありました(横浜市の中学校は給食がないことで有名でした)。読んでいくと、いろいろなことがわかります。たとえば、給食に対しては費用の援助ではなく、現物の援助とされているようです。この場合は、保護者が給食費を立替払いする必要がありません。このように、議事録を検索すると援助のしくみについてもみえてくることがあります。

 さて、知識がついたところでどうするか、という話に移りましょう。

 まず、今回のような自治体の制度自体を改善していく要望は学校にいただいても、それにこたえていくことはなかなか難しいです。それよりも、学校を飛び越して自治体に言ってしまったほうが効果的だと思います。しかし、教育委員会に電話するのは──ハードルが高いですよね。

 そこで提案したいのが、メールによる要望の提出です。市町村長への「提案」や「手紙」、「ご意見」といったようなとりくみを実施し、市町村民から要望などを受け付けている自治体は多いと思います。国基準や近隣自治体の状況などをまとめて、改善の提案を自治体に届けてみませんか? その声は秘書担当課をとおして、就学援助の担当課へ届きます。すべての願いが叶うわけではありませんが、そもそも届けない声は伝わりませんしね。

 とりあえず「就学援助ネットサーフィン」から始めましょう~♪

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。