保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第8回|だれでも申請できますか?──就学援助②|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第8回
だれでも申請できますか?──就学援助

 みなさん、こんにちは。第4回でご紹介した「就学援助」制度についてよくある疑問を、今後何回かにわけて解消していきたいと思います。

 今回は、「そもそも就学援助を申請できるひとって、決まっているの?」「援助=利益を受ける──その反面として子どもに不利益はない?」というような疑問にこたえながら、申請への後ろめたさ、差別や偏見などのマイナスイメージをとり払います。


♪ いっしょにLet’s study about it ♪


 やはり、法律が基本となるので再掲しますね。

 就学援助制度のアウトラインを定めた条文として、「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない」(学校教育法第19条)がありました。

 家庭の収入が少ないため、義務教育を思いどおりに受けることが難しいとされる子どもの保護者に対して、市町村は必要な援助を与えなければならない=義務があるわけです。

 これは法律が定めた義務であり、利用者に対して市町村は見返りを期待しているわけでもないですし、マイナスイメージを与える目的でリストアップされるようなこともありません。だいじょうぶです。

 SNSなどにより情報の発信がかんたんになっています。だれでも気軽に知りたい情報を検索できますし、逆に伝えることもできます。便利になった反面、その情報が正しいかどうかも含めたリテラシーが問われる時代でもあります。

 そんななか、就学援助に関する情報がひとり歩きし、申請を躊躇させたり、マイナスイメージを与えたりしていることがあるようです。たとえば、申請するためには「校長面談を経ないとダメ」、担任が手紙を渡すときに「クラスの子どもたちにバレる」というようなSNSの投稿があったと聞いています。

 わたしは、それなりに就学援助制度をくわしく知っていると思っていますが、校長面談を実施しているという話は聞いたことありません。認定の可否を判断するのは教育委員会がほとんどです。そして、基本的には客観的事実(所得証明書など)にもとづいて判断するため、校長の主観は入りません。しかし、証明書には表れない困窮状態(突然の所得減、離職など)を校長が聞きとり、意見書を作成して教育委員会の判断材料とする場合は、面談がむしろプラスに働くと思います。

 いずれにしても、いわゆる「水際作戦」のようなことが起きていたら問題であるし、法律の主旨にもそっていません。

 保護者や子どものあいだで、就学援助の利用事実が知れわたることも、あってはいけません。学校内には集団守秘義務もあり、必要な担当職で情報を共有することはありますが、それを保護者や子どもに流すことは「ゼッタイにダメ」です。プライバシーが守られていないようなこと、「バレる」という状況が本当にあった場合は、学校などの担当窓口に相談しましょう。

 SNSなどには正しくない情報が拡散されている可能性もあります。正しい情報は、自治体Webサイトや信頼できるサイトから得ましょう。

*    *    *

 もうひとつ、具体的な事例を紹介しておきます。

 「PTA役員は就学援助を申請しないほうがよい」という固定観念をもってしまったひとの話です。この話は、拙著『本当の学校事務の話をしよう』にも書きましたが、学校や地域住民、保護者などの代表が集まる会議で、「就学援助制度の利用者が多い→この学校には困窮家庭が多い=イメージダウンにつながる」という内容の発言を地域住民がし、それを聞いてからそのひとは、就学援助制度に後ろめたさを感じるようになったそうです。

 自分が申請して認定されたら、校区の困窮家庭が(名目上)増えることになり、学校にマイナスイメージを与えてしまうという懸念です。「PTAは学校に貢献するべし」という固定観念から、「保護者の代表的立場でもあるPTA役員は遠慮すべし」と思い込み、だれでも利用できるはずの就学援助を躊躇してしまったのです。

 この話は、もう十数年前のできごとです。子どもの貧困が社会問題となっている昨今、こんな話はもうどこにもない──と思いたいですし、同時に「行政サービスを利用する」という感覚を社会へ広めていく必要もあります。

 経済的に困窮している家庭であろうと、裕福な家庭であろうと、教育を受ける権利は平等に保障される必要があります。就学援助を利用している家庭が多いとか少ないとかいう基準で、学校の価値を判断することがあってはいけません。

 むしろ、困窮家庭を経済的に支えることが実現している学校であると誇る──とまでは誇示せずとも、「ひとしく教育を受ける権利」(憲法第26条)を経済面で実現している学校と考えるべきです。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。