保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第9回|タブレットって、壊したらだれが弁償するの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第9回
タブレットって、壊したらだれが弁償するの?

 みなさん、こんにちは。「本当の学校事務の話」をしながら、保護者の疑問に答えているヤナギサワでございます。今回は、「隠れ教育費」となりうるかもしれない「タブレットの破損による弁償問題」を扱います。

 「GIGAスクール構想」──昨年からよく聞く言葉だと思います。ひとことで説明すれば、1人1台の端末=タブレットと高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するっていう構想ですね。この構想が実行され、全国の小中学校でタブレットが配付されました。今回は、そのタブレットを壊してしまった場合、修理の費用はだれが負担するの? という話です。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 ちなみに、タブレット本体の費用はざっくり説明すると国と市区町村が折半しています。……となれば修理費用も折半してくれればよいのですが、それに関しては基本的に市区町村の方針しだいとなります。

 ある自治体では、「過失のない破損」は公費(自治体)負担で対応するとされていますが、学校敷地内での使用に限定され、登下校をふくめた自宅における破損は私費(保護者)負担となるようです。さらに、そんな内容の借用書を書かせ、保護者に弁償の同意をさせているような自治体もあります。ほかにも、保護者の費用負担を前提として、「物損保険への加入」を勧めているところも出ています。

 また、私費ではなく公費で対応してくれる場合でも、いくつかのパターンに分かれているみたいです。たとえば、①修理代の実費払い、②物損保険料の支払い、③購入時の保守契約、④修理費込みのリース契約、少しズレますが強靭なタブレットカバーを購入したというパターンもありました。

 そのなかでも多いのが保険料の公費負担ですね。

 保険料は公費・私費問わず、年間500~1500円くらいで補償額のプランなどによって差があるようです。加入の方法は、個人契約ではく学校単位の契約が原則となっているため、保険に加入する場合は、子どもの人数×掛け金を支払う必要があります。

 そのため、保険料を公費負担するという方針が定まれば、予算化はそれほど難しくありません。しかし、私費負担という自治体では、その負担額をどのように学校で徴収するかという問題が生じてくると思います。学校単位の契約であり、全員加入が条件ですから、補助教材費としてワークやドリルなどといっしょに「タブレット補償保険料」などという名目で請求されてしまったり、PTAや後援会費などで予算化されてしまったりすることが考えられます。

 この場合、また「隠れ教育費」が生まれてしまいます。安易な私費依存は避けるべきです。

防御力の高いカバー付きタブレット。重い。

 弁償問題の歴史を少しふり返ると、ガラス弁償の問題が出てきます。学校で子どもが教室などのガラスを割ってしまったとき、その修繕費はだれが払うのか? 過失の有無などを整理しながら負担者が決まっていくような状況が続いていました。

 そのため、弁償問題って新しくて古い問題なんですよね。最近では、PTAなどを通じて加入している保険に傷害だけではなく物損もふくまれ、それによりガラス破損も賠償していることも多いです。しかし、個別の保護者負担が直接的に生じないだけで、この方法も結局は私費負担なんですよね。

 タブレットの問題に話をもどしましょう。ネット上では政策の問題で(勝手に)配付されたタブレットの修理費用を個人に委ねるのは納得がいかないという保護者の声も多く聞かれます。大事に使うことは前提ですが、たとえば、子どもは帰宅したらランドセルを部屋に投げ込んで(捨てて)遊びにいくかもしれません。また、投げなくても教科書でギュウギュウになっている中学生のカバンに入ったタブレットが圧死することもあるでしょう。このように、傷つくことや破損することなどは日常茶飯事かもしれません。

 子どもの発達段階におうじた対応がたいへん重要になってくるわけです。

 ここで高校の事例も紹介しておきます。高校の場合、もっとたいへんです。タブレット本体の購入から私費負担となる状態が蔓延しています。高校入学と同時に10万円のタブレットを購入したという話もよく聞きますが、小学校入学時の算数セット(2,000円前後)とはケタが違いますよね。

 また、それを後押しするように──タブレットは〈個人文房具〉──という説明も国レベルではされています。具体的にいえば、タブレットをBYOD(Bring Your Own Device)と考え、自分自身のデバイスと認識させる考えです。極論、「タブレット=えんぴつとノート」という状態が進めば、文房具は私費負担があたりまえという状態の日本では、タブレットも私費負担があたりまえという社会認識になってしまうかもしれません。

 結論としては、安易に私費(保護者)負担とするのではなく、公費保障を前提とした「持続的に実現可能な」予算を自治体は設けるべきです。けっして「GIGAスクール構想」を批判しているわけではありませんが、政策と保障の持続性はセットで考えなくてはなりません。現実的には、予算化が実現しやすい「保険料」として予算を確保し、継続的に進めていくべきです。また、子どもたちにも安心して使える教材教具を公費で提供していくことが必要だと考えます。

 少し話はそれますが、修理費の問題以外にもカバー代や保護フィルム代、充電に関する電気代などの私費負担問題があります。このあたりも自治体間格差が大きいです。メディアの報道やネットなどにより、保護者自身も情報を広く収集しながら自治体に(学校に)声を届けていくことが求められるでしょう。

 また、保護者に経済的な影響が及ばない状態で「GIGAスクール構想」を維持できるような政策にもっていくべきだし、子どもたちにも安心して使える教材教具を公費で提供していくことが必要だと考えます。

*    *    *

 修理費用の負担方法を決めるのは自治体です。そして、その方法に同意してもらうため「利用契約」を保護者と結ぶ場合も多いようです。修理費用の保護者負担が定められている場合、保護者にできる行動はあるのでしょうか?

 …書くか悩みましたが、「ふたつ返事で同意しない」という方法があります。

 その場合、最悪タブレットを貸与しないという自治体があるかもしれません。そう考えると、これはそれなりにリスキーな方法です。しかし、「このままでは同意できない」理由を聞いてもらい、一方的に自治体が定めた利用契約にそのまま同意するのではなく、改善に向けて気になる部分を指摘してみたらどうでしょうか。子どもには不利益が生じないような対応をしてくれることでしょう。

 安心が保障されている状態を求めて公費による保険加入を訴えていくことがよいと思います。

 保険をかけている自治体なら、学校を通して修理費用の弁済に関する手続きをしてもらえると思います。その場合でも、保険料によっては全額が保障されるとはかぎりません。日本全国でタブレットを使った新しい教育方法が研究されている昨今ですが、同時にタブレット自体への保障、それに関する議論も深めていく必要がありますね。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。