保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第16回|オンライン教材って、お得なの?|栁澤靖明
第16回
オンライン教材って、お得なの?
新入生のみなさま、保護者のみなさま、ご入学おめでとうございます。かくいうわたしも7年間お世話になった学校に別れを告げ、新しい中学校へ赴任しました。心機一転、保護者の疑問にも答えていこうと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
あ、「隠れ教育費」研究室というウェブサイトもつくりました。よかったらお立ちよりください♪
さて、4月には各学校で年間指導計画という1年間の授業実施計画を策定し、事務職員もそれに伴った年間財務計画という予算執行計画を立てます。保護者のみなさまに購入をお願いする補助教材(ワークやドリル、テストや資料集など)の選定も授業担当者といっしょに話し合います。⋯⋯というのが毎年の流れですが、最近では第9回「タブレットって、壊したらだれが弁償するの?」でも説明したように「GIGAスクール構想」(1人1台のタブレット端末と高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備する構想)の本格的な運用が始まり、デジタル教材の導入が始まっています。
文部科学省も「学習支援コンテンツポータルサイト(子供の学び応援サイト)」というページをつくり、各校種・各教科別にオンライン・コンテンツを提供しています。そのほとんどは、全国の自治体が公開している資料や、教科書会社が提供しているコンテンツです(いわばリンク集)。管見したかぎりでは無料コンテンツばかりでした(まぁ、文部科学省がリンク貼っているんだから、すべて無料コンテンツは当然か)。
そこで登場してきたのが、教育サービスを提供する産業≒ドリルやワークなどを作成し販売している会社、です。最近は、そんな会社のコマーシャルが急速に増えているそうですね。90年代に流行った「まだかな、まだかなぁ~、○○の□□ちゃんまだかなぁ~♪」というテレビCMを思い出します。家庭学習用の教材も進化を重ね、いまではタブレットへの配信が主流ですね。わが子も一時契約していましたが、自主学習に向かない子どもには、ちょっと厳しかったようでした。
昨今、このような有料の「オンライン(デジタル)教材」を学校の補助教材として導入しているという話を聞くようになりました。「オンライン教材」とググってみると、多くのサイトがヒットしました。オンライン(デジタル)ドリルやワークをつかった予習や復習、さらにはテストまでできてしまうという──それだけではなく補講的な講義動画まで視聴できるオンライン学校のようなツールです。これからの時代の教材はどうなっていくのでしょうか。
♪ いっしょにLet’s think about it. ♪
最初に、学校における「教材」の定義を説明しておきます。
学校教育法の第34条に、教材のことが定められています。主たる教材とは「教科用図書」、つまり教科書のことだと書いています。しかし、それ以外の教材でも「有益適切なものは、これを使用することができる」とし、これを学校では補助教材といっています。
そのため、「有益適切」であるなら、オンライン(デジタル)教材も補助教材として使用可能です(ちなみに、地方教育行政の組織及び運営に関する法律にもとづいて、補助教材を使う場合は教育委員会へ届出または承認を受けることが必須です)。さらに文部科学省も、補助教材の適切な取り扱いについて各教育委員会へ、「補助教材の購入に関して保護者等に経済的負担が生じる場合は、その負担が過重なものとならないよう留意すること」と通知しています。
このように、①ためになり、②ふさわしく、③高すぎない、という三拍子そろった補助教材の使用を認めています。オンライン(デジタル)教材も、三拍子そろえば学校現場で使用することができるわけです。
この三拍子をオンライン(デジタル)教材にあてはめて、ひとつずつ検証していきましょう。
「ためになる」──この根底が揺らいだら、そもそもそのコンテンツは無意味ですよね。
「ふさわしい」──意見が分かれそうですね。ワークやドリル、テストなどがタブレット上で利用できるという利点があり、荷物も減るし、狭い机上を有意義に使えます。しかし、補講的とはいえ、教室での授業中、教員不在のように講義動画を使うのだとしたら、ふさわしいとはいえないのかもしれません。
「高すぎない」──オンライン教材には無料版もありますが、有料版もあります。いくらまでが妥当なのか、という線引きは決まっていません。わが家が契約していたオンライン(デジタル)教材は、年間2万円ちょっとでしたね。もちろん、個人的な契約なら価格の妥当性は各家庭の判断になりますが、この契約を学校がうながすとしたらどうでしょうか。つまり、補助教材として、従来のワークやドリルを学校が指定するような感覚で契約させるとしたら? 「ちょっとないな」って思いますよね。
違う切り口で考えてみましょう。近隣の中学校で補助教材にかかる費用(個人負担)は、ひとりあたり年間2~3万円です(おもに紙媒体のワークやドリル、テストや資料集など)。この費用がオンライン(デジタル)教材にそのまま置き換われば妥当なのか……?
これは聞いた話ですが、学校契約や市町村単位の契約だと、定価(25,000円)の98%OFF=500円程度の個人負担で数年間は契約できるというキャンペーンがあるといいます。いま、さまざまなモノが、ペーパーからオンライン(デジタル)へ移行する過渡期なのかもしれません。そのため、お得なキャンペーンが各地で催されているのかもしれませんが、学校から完全に紙媒体が消えていくのか、またそうするべきなのかも疑わしいです。
それに、キャンペーン終了後もそのまま惰性で契約を続けてしまうようなことも想像できます。従来通り、紙媒体の補助教材費と、新しく採用したオンライン(デジタル)補助教材費が、どちらも徴収されるという現実が押し寄せてこないか、心配でなりません。そのため、このキャンペーンが学校にとって、また保護者にとって真にお得なのかは疑わしいです。
保護者のみなさまも、学校からの手紙や市町村教育委員会の動きをよく確認してみてください。また、すでにオンライン(デジタル)教材を導入されている場合は、子どものタブレットをときどきのぞいてみてください。保護者の目で、①ためになり、②ふさわしく、③高すぎない、という三拍子を確認していくことが望まれます。
栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。