保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第20回|修学旅行っていくらかかるの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第20回
修学旅行っていくらかかるの?

 

「隠れ教育費」研究室・チーフディレクターのヤナギサワです。

 1学期は「隠れ教育費」にかんする報道が多かったですね~。毎年、年度はじめの数か月はメディア取材が増える時期なんです。たぶん、入学にあわせて家庭の教育費負担が増え、社会的にも注目されるときなんでしょうね。一連の記事(テレビや新聞、ウェブ配信など)は、研究室にアーカイブしてあります。お時間があったら、お立ち寄りください。

 さて、今月は修学旅行にフォーカスしようと思います。2学期に修学旅行を企画している学校も多いでしょう。修学旅行といったら、宗田理『ぼくらの修学旅行』を思い出しますね。例年2泊3日で京都へ行くという記述があります。「細かいことまで規則でがんじがらめにされて何もできない」という理由で「胸が躍らない」──そのため、自分たちの修学旅行を企画しようとするのですが⋯⋯。

 関東圏内から京都へ2泊3日で修学旅行を企画すると、経験から5、6万円の費用がかかります。毎年、すべての保護者が支払うわけではありませんが、小中学校のあいだでいちばんお金がかかる行事です。平均62,036円──言い換えれば、最大の「隠れ教育費」となるでしょう。ちなみに最高額134,193円、最低額33,458円となっています(数値は、公益財団法人「全国修学旅行研究協会」2019年)。

 また、交通費や宿泊費などの旅行代以外にも準備するものは多く、それなりに費用もかかります。たとえば、大きめのバッグや旅行用の洗面用具、服装にかんしても新調することがあるかもしれません。でも、大きめのバッグってほかでそんなに使わないですよね。わたしが子どものころは、一般的なリュックサックの4倍(言いすぎか?!)くらいあるような大容量リュックサックが推奨されていた気がします。そのころの記憶ですが、それを背負ったのはそのときの1度だけでしたね。

 それでは、費用面を中心に修学旅行について考えていきましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 まず、旅行代ですね。一般的な旅行をネット検索すると、埼玉から京都へ2泊3日の場合、3万円からプランを選べました。前出の平均価格より安いですね。しかも、修学旅行は団体旅行扱いのため、団体割引が適用されています(中学生だと交通費半額)。それも考慮したら、メチャクチャ豪華な旅行にも思えてきます(夕食は、京料理ではなく、すき焼きとか食べるんですけどね〈笑〉)。

 これには理由があります。3万円代から選べるおとなの旅行は、パッケージ旅行なんです。いわゆる行程などを旅行会社が提案し、それに乗っかる旅行です。しかし、修学旅行はオーダーメイド旅行です。行き先などの行程は、学校が提案し、旅行会社にコーディネートしてもらいます。そのため、パック割どころか企画料金が加算されます。それもあって、高額になってしまうんです。決して、卒業記念イベントとして豪華な旅行を組んでいるわけではありません。

 そう、「旅行」とはいっても、修学旅行は教育活動です。「学習指導要領」(第17回でも説明しましたが、教育活動の根本となる骨組みを文部科学省大臣が定めたもの)に定められています。部活動は教育課程の外でしたが、修学旅行は教育課程の内になります。学習指導要領では、特別活動「集団宿泊的行事」に位置付けられ、その目的は「平素と異なる生活環境にあって、見聞を広め、自然や文化などに親しむとともに、よりよい人間関係を築くなどの集団生活の在り方や公衆道徳などについての体験を積むことができるようにすること」とされています。学習の一環と捉えれば、全額公費負担による学校行事としてもよいともいえます。そのため、就学援助制度でも援助の対象となっています(第4回「就学援助を利用したいときに」参照)。もちろん、内容もそれにあったものが求められるでしょう。

豪華仕様のしおり、1冊いくらだろ?

 

 では、「隠れ教育費」の本丸、見えにくい私費負担(=家庭からの持ち物)についてはどうでしょう。たとえば、腕時計、おやつ、水筒、雨具、ハンカチ、チリ紙、パジャマ、エチケット袋、タオル類、財布、くすり、トランプなどがあります(『隠れ教育費』p.140参照)。どれも数百円から数千円のものですが、チリも積もれば山となるでしょう。また、「買い増し問題」もあります。部屋着として、ふだん着ているジャージや体操着を指定する問題です。体操着なら2着くらいあるかもしれませんが、ジャージはどうでしょう。2泊3日で1着だと心もとなく買い増しをする保護者も多いかもしれません。さらに、それを想定してその時期に学校で購入を斡旋する場合もあります。──部屋着くらいなら自由でよくありませんか? 指定ジャージは上下で1万円弱ですよ。

 修学旅行にかんしては一大イベントということもあり、説明会を開く学校は多いと思います。そのときに質問をしてみるという方法があります。しかし、その時期には旅行代金や行程などは、すでに決定していることも多いです。それでも、持ち物などを準備する保護者の声は重要ですので、調整を検討してくれることもあるでしょう。

 大幅な修正には至らないかもしれませんが、あなたの勇気(言う気)が後世のためにもなります。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。