保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第19回|プールはけっこうお金がかかる?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第19回
プールはけっこうお金がかかる?

 

「隠れ教育費」研究室・チーフディレクターのヤナギサワです。

 夏休みも間近! 夏といえば、プール!! わーい!!!⋯⋯って盛りあがるような少年期ではありませんでした。むしろ、てるてる坊主を逆さづりにして雨を祈り、プールの授業が中止されることを願っているような少年でした。高校もプールがないところを受験しようと思ったくらいです。

 最近では水泳指導への参加について保護者の許可を求める動きがありますね。「水泳学習参加同意書」のようなかたちで保護者に同意を求めるのです。昔はどうだったんでしょうか? まったく記憶にありませんが、そんな調査があったら親には渡さず「参加させません」に丸をして、合法的に入水を拒否したことでしょう(笑)。

 そんな思い出を振り返り、妄想にふけったところで、今月はプール=水泳の授業について考えていきたいと思います。水泳指導にも隠れ教育費は潜んでいます。水着や帽子などの私費負担もあるし、プール自体の維持管理も必要だし、水だって大量に必要ですね。そこまでお金をかけてプールの授業をする意味はあるのでしょうか? 


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 高校だとプールがない学校はめずらしくありません。水泳の授業は必須ではないからです(高校学習指導要領)。それはなんとなく想像ができそうですが、小中学校でもプールがない学校はあります。ちょっとビックリですよね。

 じつは、高校だけではなく小中学校でも「適切な水泳場の確保が困難な場合」やらなくてもOKとされています(学習指導要領)。学校にプールがなくて、地域にもプールがなければ水泳の授業はパスできるんです。ただし、やらない場合でも「心得」(小学校)・「水泳の事故防止に関する心得」(中学校)は、かならず取りあげること! と書かれています。それでもわたしの地元である埼玉県のプール設置率は99%を超えているらしいですけど。

 そうはいうものの学校にプールがあるというのは世界的にめずらしく、日本の水泳指導は明治前後から始まったそうです。

 それでは、まずテキスト『隠れ教育費』を開いてみます。そこには、費用負担の具体として、指定の水着や帽子という一般的装備に合わせてラッシュガード、腰に巻くタオルなども学校から斡旋され、すべてそろえれば5,000円程度の費用がかかるとあります。また、場合によってはゴーグルやサポーターも必要です。もちろんすべて私費負担、所有物が前提となります。プールで使う共有物=公費負担はビート板くらいでしょうか(1枚2,000円前後)。

 そして、プールといえば水が大量に必要です。25mプールの容積を求めればすぐにわかります。縦(25m)×横(12m)×深:高低差があるので平均(1m)とすると〈300㎥=30万ℓ=300t〉の水が必要になります。そして、気になる水道代は──さいたま市の場合、1㎥あたり約700円(口径100mm:上下水合算の場合)×300㎥=21万円です。プールを満杯にすると1回で21万円かかります。あたりまえですが、もう一度水を入れ替えれば合計で42万円です(豆知識:学校のプールって消防用の水利に指定されているため、水を抜くときは消防署に連絡が必要)。

 水の入れ替えには相当な費用がかかるため、水質を維持させる濾過器等を稼働させています。しかし、こちらもランニングコストが膨大です。シーズンごとに維持費(消耗品交換代や技術料など)で数十万円、その外にも必要な薬品等(塩素や珪藻土など)で十数万円が必要となり、水道代を超える費用がかかることもあります。

 水道を止め忘れたという流水事故で400万円程度の損失になった事例もあります。ここではくわしくふれませんが、市町村が全額負担(公費)、教職員が全額負担(私費)、両者で折半というパターンが存在しています。教職員個人が私費で賠償するパターンは少なくないため、そのための賠償保険をかけているケースもみられるようになりました。

 数少ない水泳の授業にそれなりの私費負担をかけ、さらには公費負担といえどもその財源は税金=住民負担です。残念ながら傷害や死亡事故も起きています。教職員や子どもへのリスクも回避しきれない水泳指導──ハイリスク。しかも、学習指導要領でも義務とされていない授業内容──ローリターン。

水泳指導のセット教材(?)

 

 この授業で学ぶべき必須事項は、クロールや平泳ぎをマスターすることではなく、水難事故対策です。(一社)水難学会では、「ういてまて」という着衣状態で水難事故に遭遇したとき「浮いて救助を待つ」という自己保全の取り組みを推奨しています。これは、「事故防止に関する心得」の一例です。極論、この指導だけを実施する場合は、市町村営プールが設置されていれば、そこで実体験も可能です。

 令和型水泳指導として、各学校のプール廃止や、水泳指導から護身指導へのシフトが必要だと考えます。スクール水着という名の指定品、ラッシュガードにも細かい指示があると余計な出費がかかります。まるで書道セットや絵の具セットのような水泳セット教材です。しかも、使用時期「極」限定品──。また、今夏ひさしぶりのプール指導が始まり、「男女一緒のプール授業」を疑問視する見方も出てきました。

 いろいろな課題がある学校のプール、みなさまはどう考えますか?

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。