保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第3回|制服じゃなきゃダメですか?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

初回から読む

 

第3回
制服じゃなきゃダメですか?

 みなさん、こんにちは。ヤナギサワでございます。今回も『本当の学校事務の話』をしながら、『隠れ教育費』について考えていきましょう。

 今回は、第1回で特集したランドセルと同レベルに有名な学校指定品、「制服」をとりあげます。

 「制服」とのおつきあいは、ひとそれぞれだと思います。わたしは、幼稚園は園服、小学校は私服、中学校と高校は詰め襟──いわゆる「学ラン」でした。当時、学ランの「ラン」ってランラン気分で学校へ行けるように、どこかのだれかが願っているからだと思っていました⋯⋯(ウソ)。詰め襟の制服が登場したころ、和服じゃない洋服のことを「ランフク(蘭服)」と呼んでいたそうです。「洋」といったら「オランダ」だったんですね。それで「学生用のラン服=学ラン」と呼ばれているみたいです。(もっとくわしく制服の歴史を知りたいひとには『隠れ教育費』をオススメします。)

 さて、制服、制服といっていますが、文部科学省は「学校における通学用服等の⋯⋯」という通知を、公正取引委員会は「公立中学校における制服の取引実態に関する⋯⋯」という通知を出していて、地方議会や国会では「標準服」ということばも飛び交っています。わたしの周辺では、「制服」や「学生服」という呼びかたが多いですね。『隠れ教育費』では、「標準服(制服)」という表記を選びました。

 一般的に、制服(従業員などの制服)とは「決まった服装」という意味であり、着用義務が発生します。でも、学校の場合はどうでしょうか。自宅と学校を往復する服を定め、着用を義務づけることは、日本において可能なのでしょうか? 可能だとしても、だれが、どんな方法で制服を決められるのでしょうか? さらに、その費用はだれが負担するべきなのでしょうか?

 ここではあえて「制服」と表現し、その意義を考えていきましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it ♪


 制服着脱のきまりや型などは、校則(中学校では「生活のきまり」など)により定められていることが多いです。そうなると、校則の拘束力が気になりますね。ダジャレはサラッと流して学者さんの見解を紹介すると、「生活指導上の措置は原則的に子ども・親の原則的な同意の下に行われるべきであり、学校側の価値判断による一方的な規律にはなじまない」とされ、一方的に決めるのではなく、同意が必要だといっています。また、裁判所の見解もあります。校則により制服を指定し着用させることについて、「校則は校長の裁量」だけど、制服の指定などは「社会通念上合理的」であることが求められると述べています。

 このへんをまとめると、校則の制定は校長裁量でもいいけれど、ちゃんと子どもや保護者の同意を得て決めること、そして、一般的に考えて合理的な内容に限定される、という感じになります。⋯⋯難しいですね。

 ここでは、費用負担の面から考えていきたいと思います。

 制服って、全国津々浦々さまざまであり、高額なものから比較的安価なものまであります。比較的安価といっても、公立中学校の制服まわり(冬服・夏服、ワイシャツやセーターなど)をセットでそろえたら、5万円は余裕で超えます。しかも、学齢期は成長期でもあり、3年間だとしても買いかえるひとはめずらしくないし、夏服には洗いかえも必要です。

 多くの学校で、制服を着ること=正しいことという固定観念があります。そこには、着用を強制されている子どもたちがいて、そのためにその費用を負担しなければならない保護者もいますが、「社会通念上合理的」かどうかを判断した痕跡はみえてきません。換言すれば、その学校の慣習だけで、着る/着ないという選択の自由は奪われ、買う/買わないという自由もありません。

 制服のほうが経済的だからいいじゃん! という意見もよく聞きます。そう思うなら、それでOKです。わたしは制服を廃止したいんじゃなく、制服を着ない(買わない)自由があってしかるべきだという主張です。ひとことでいえば、制服か私服かを選択できる自由が認められてもいいのでは? ということです。

 考えてみてください。万札を数枚消費してまで、着たくない(ほしくない)服を買っている現状を──。子どもも保護者も望まない服に高額なお金をかける必要も、(本当は)義務もないでしょう。

 いま、斉藤ひでみさん(公立高校教員)が“呼びかけ人”として立ち上がり、「♯制服と私服の選択制に賛成します」を合言葉に、「多様性を尊重する『令和の学校教育』に合った校則」の実現に向けて署名活動を展開しています。わたしも“呼びかけ賛同人”として名前を並べていただきました。ぜひ、署名サイトをご覧ください。

【change.org】画像をクリックすると署名ページヘ飛べます

 じゃあ、保護者はどうすればよいのか考えましょう。校則を定めるとしても同意が必要だと書きました。校則自体に「第○条 この校則に対する意見や要望は職員室前の目安箱に寄せることができる」と明記されていれば、子どもや保護者の意見表明は容易にできそうですね。しかし、知るかぎり見たことのない規定です。

 そのため、今回も「保護者アンケート(学校評価)」をつかいましょう。「制服を廃止してください」という要望は強すぎるかもしれないので、「制服と私服の選択制を検討してほしい」という意見や(その理由として、費用面以外にも衛生面やジェンダー面もある)、「夏服は、ワイシャツじゃなくてポロシャツにしませんか」という意見(理由として、通気性や体感温度、洗濯のしやすさ)を届けてもよいと思います。

 この連載ではこれからも、保護者の声を届けるスタンダードな方策として「保護者アンケート」をあげていきます。そのためにも「保護者アンケート」のじょうずな書き方(学校側にとっては、じょうずな聞き方)を特集しなければ──と、いま思いつきました。近くこの連載でとりあげることもできますが、多くの学校で秋以降から検討をはじめ、保護者の手元にアンケート用紙が届くのは年明け前後です。そのため、時期が迫ってきたら書こうと思います。それまでは「スマホのメモアプリ」にアイディアを貯めておいてください(第2回参照)

 ⋯⋯あと、だいじなことを伝えておきます。その時期になったら(いや、いつでもですが)、子どもに学校からの手紙をカバンから出させる習慣をつけておきましょう。自戒の念をこめて──(昨年度、中学生の息子が手紙を見せなくて、アンケート回答できなかったのは、わが家だ)。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。