保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第10回|靴下、そんなにこだわる必要ありますか?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第10回
靴下、そんなにこだわる必要ありますか?

 みなさん、こんにちは。「本当の学校事務の話」をしながら、保護者の疑問に答えているヤナギサワでございます。

 第2回で「靴」をとりあげましたが、そこから少しだけ視線を上げて、今回は「靴下」をとりあげます。なんで、靴の下に履くわけじゃないのに靴下なんでしょうか。靴の下着的な意味なのか──、まぁ今回の話とは関係ないので気にせず進めましょう。

 靴下系も、意外と奥が深いんです。その種類もたいへん豊富になっております。まずは、よく知られているハイソックスです。だいたい膝下くらいの長さですね。ちなみに、膝頭くらいまでいくとニーソックスといい、膝上のももあたりまでいくとオーバーニーソックスになります。そして、あんたが大将! スニーカーソックスの登場です。くるぶしソックスともいわれ、子どもたちに人気があり、生徒指導でもたびたび話題にのぼる靴下です。 学校推奨品の多くは、スニーカーソックス以上ハイソックス未満のショートソックスですね。

 長さの違い以外にも“靴下のいろいろ”はあります。最近まったく見かけませんが、ルーズソックスという形状のものや、5本指や足袋ソックスなんていう形もあります。ルーズソックスは、どうして学校で禁止されていたんですか? 長すぎも短すぎも違反だと聞きます。

 ──靴下、自由じゃダメですか? それでは、靴下とまじめに向きあってみましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 なぜ履きたい靴下を自由に選んではいけないのでしょうか? この問題の根源は「校則」にあります。校則とは、学校の内部規則であり、子どもたち自身に関係する定めですね(似たようなことばに学則というものがありますが、こちらは公立学校以外の場合、法令で定めることが決まっている規則です)。

 そう、学校にとって校則を定めるのは義務じゃないんです。しかし、1980年代に校内暴力の問題が叫ばれ、生徒指導が強まってきた結果、校則を定める学校が増えてきました。その名残というのもなんですが、一般的に、「?」と首をかしげるような校則も残っています。

 校則で「靴下は白(無地)、くるぶしが隠れるもので、特殊な形状は認めない」──っていう感じで定められると、ショートソックスかハイソックスになるわけで、長さが極端なものやルーズソックスはダメになってしまう。

 ある学校の職員会議でのこと。生徒指導主任は大きな靴下の絵が描かれた画用紙を広げました。「提案。新しい校則として靴下の長さを決めようと思います。『くるぶしの中心から上に7㎝以上』、いかがでしょうか」。──おいおい、『ぼくらの七日間戦争』かよって思う読者もいそうですね。事務職員であるわたしは、そんなことに画用紙を使うな! って思っちゃいますけど(笑)。

 学校で働いていると感じるんですが、生徒指導って「基準」がほしくなるんでしょうね。ひとによって対応を変えちゃいけない、という前提があるので、客観的に示せる基準をね。でも、校門で定規もって測るんですか……? とも言いたくなります。

大将こと(?)スニーカーソックス

 ここまで何度かサラッと書いている「生徒指導」ということばも説明しておきましょう。文科省の説明では「一人一人の児童生徒の人格を尊重し、個性の伸長を図りながら、社会的資質や行動力を高めることを目指して行われる教育活動のこと」なんです。靴下の長さを子どもという主体ぬきで決めることって、生徒指導なんでしょうか?

 子どもたちが靴下の長さを話し合って決めたという事例も聞きます。

 生徒会が音頭をとって意見を集約し、生徒議会で検討した結果を生徒総会に提案し、可決したという話です。この学校では、生徒たちの自主性を考慮して、その校則が語り継がれているそうです。この例は決定までいけたケースですが、このような取り組みによって子どもたち主体で指定の長さを変えられる、またはその校則を廃止にできる可能性を知らせていると思います。

 今回は、靴下の長さをとりあげましたが、「ブラック校則」ということばが生まれるくらい、いまも世の中には信じられない校則が存在しています。苦しんでいる子どもを救うために「『ブラック校則をなくそう!』プロジェクト」という取り組みがあり、事例提供ページもありますので、参考までにリンクを貼っておきます(http://black-kousoku.org/)。

 最後に、もうひとつ足元に関する生徒指導の話を紹介します。

「上履きのかかと」問題が生徒指導で話題になることは多いです。もちろん、かかとを踏んで歩くのはダメです。家庭でも注意しますし、学校でも注意してもらって問題はありません。そうしたなか、かかとを踏ませない──をあきらめて、かかとが踏めない上履きをチョイスした学校があります。

 他校同様に、生徒指導委員会で「上履きのかかと」問題が話し合われ、そこで出た結論が、「かかとを踏めない上履きに変更」でした。どうやら、その上履きは、かかとが硬い構造になっていて、踏もうとしても踏めない仕様だそうです。そのため、一般的なものより高価であるという問題も指摘できますが、それが生徒指導といえるのかという疑問も残りますね。もう一度、上に紹介した生徒指導の定義を読んでみましょう。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。