保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第7回|令和時代、氏名印まだ使うの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第7回
令和時代、氏名印まだ使うの?

 みなさん、こんにちは。「本当の学校事務の話」をしながら、保護者の疑問に答えているヤナギサワでございます。

 今回は、「氏名印」と呼ばれるモノについて語っていきます。これも『隠れ教育費』になることがあるんです。

 氏名印とは、名前が彫られているスタンプのこと、いわゆる印章です。たとえば写真のようなもので、スタンパーがあれば叩けば叩くほど【 栁 澤 靖 明 】が量産できるすぐれもの。

 ちなみに、学校で使っている氏名印の多くはゴム印です。一般的には朱色のゴムで字面をつくり、それを台木(持つところ)に貼り付けたら完成です。文房具屋のおっちゃんに聞きましたが、ゴムをプレスして型を抜くより、レーザーでゴムを焼くほうがキレイにできあがるそうです。

 学校の事務室には、氏名印のほか、いろいろなゴム印があります。学校名や住所などの基本的な情報のゴム印は、どこの学校でも使い古されていますね。

 数か所なら手書きしたほうが早いので、わたしはゴム印不使用派です。でも、字がキレイとはいえないし、仕上がりはゴム印のほうがキレイですけどね。──まぁ、教育委員会などへ報告するような書類に仕上がりのよさなんて求めませんけど。

 学級担任の場合は、出席簿や健康観察カード、通知表などの氏名欄に押すことが多いです。たしかに40人分を手書きするのはたいへんですし、順番に並べておけば迷いなく押せます。小学校低学年だと漢字とひらがなの2パターンの氏名印をつくったり、男女分けしたいという理由から、木の台木ではなく色違いのプラスチック台(ブルーとピンク)にしたりしている学校もあります。

 じゃあ、だれのお金で買っているんだという話をしましょう。事務室のゴム印は公費(=教育委員会から配当されるお金)ですが、氏名印は子どもの名前が書いてあるから“所有物的な感覚”で私費(=保護者から集金)となっていませんか? 今回も前回と同様に、だれがなんのために使っているか? という問いをベースに、あるべき氏名印の姿を考えていきましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it ♪


 先にオチを言っちゃいます。氏名印を必要としている(使っている)のは学校側なんだから、前回の名札と同じように考えれば、保護者側が購入するのってヘンですよね。

 保護者からすれば、小学校入学と同時に用意されていて、「氏名印代」と集金袋に書かれていたら、払うしかありません。しかし、今回は名札と違うところがあります。その氏名印の購入者(=保護者)にモノが届けられる時期、それは中学校卒業後なんです。

 このことを小学校では、「氏名印は学校で使用しますので、小学校を卒業し、中学校を卒業するまでの9年間は学校がたいせつにお預かりします」と説明されます。──が、そうじゃなくて、「氏名印は学校『が』使用しますので、公費で購入します」が正しい説明です。名前を書かなくても名前がついているから所有物と考えるのではなく“いつ、どこで、だれが、どのように”使うかというポイントで確認することが大切です。

 ……しかし、しかしです。もう、お気づきと思いますが、世の中は令和時代です。氏名印を押すより、コピー&ペーストのほうがだんぜん早いです(これは平成時代からか)。

 以前は、出席簿や報告書などという印刷された紙が学校に届き、そこへ必要事項を記入(押印)していましたが、平成時代に少しずつメール環境が発達し、紙ではなくデータで情報を扱うようになりました。さらに、学校の働き方改革政策により「校務支援ソフト」などの導入が進んでいます。文字どおり、校務を支援する=半自動的に各種名簿の作成や管理などができるアプリです。

 じつはもう、氏名印を押す必要がないんです。たとえ、このようなソフトが導入されていない「平成時代」然とした学校でも、文書作成や表計算ソフトが入ったパソコンは確実にあります。氏名印は、昭和時代の産物と位置づけてもよいと思います。

子どもだけじゃなく、教職員用もあります。もちろん公費。

 そうです、氏名印は公費で購入するべき──と落とすように見せかけて、じつは、氏名印不要論というところに落ちました。「二段階右折」ならぬ「二段階オチ」です。

 事務室にもゴム印はたくさんあるけど、わたしは不使用派と書きました。おそらく、不使用派陣営は広がってきていると思います。昭和時代は、机上の手が届くところにおいてあったと想像できますが、いまでは部屋の隅っこです。しかし、職員室では、印箱と呼ばれる箱に入れられた氏名印がズラリと並んでいます。ほとんど使っていなくても、中学校の場合は、小学校で購入をやめないかぎり、管理が続くわけです。

 お願いがあります。「まだ氏名印って必要ですか?」という保護者のひとことを学校は待っています。もしかしたら、「氏名印? 現役(使用中)ですが、何か」といわれるかもしれませんが、そんなときは前半に書いた“公費であるべき論”を使ってください。今回は、「二段階対応」でよろしくお願いいたします。

 ひとつ150円前後の氏名印、たかが150円、されど150円です。この問題が解決したら、9年後のゴム印との感動的な出会いはなくなるかもしれませんけどね(笑)。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。