保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第6回|コロナ対策費ってどうなっているの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第6回
コロナ対策費ってどうなっているの?

 みなさん、こんにちは。「本当の学校事務の話」をしながら、保護者の疑問に答えているヤナギサワでございます。

 今回は、本の紹介から始めたいと思います。『コロナ禍が変える日本の教育──教職員と市民が語る現場の苦悩と未来』(明石書店)という本です。絶賛発売中! 

 っていう宣伝だけじゃなくて、この本では「コロナ禍によって突然、現場にもちこまれた小・中・高校の一斉休校。現場からあがった声がコロナ後の教育の展望」が語られています。文部科学省担当課長を始め、教育長や校長、さまざまな職種の教職員、そして保護者などもあわせて、なんと22名のひとがそれぞれの立場から「コロナ禍の教育」について書いています。

 わたしも事務職員として「教育財政と子どもの就学保障」を中心に書きました。よかったらご覧ください。

 そう、今回のお題は「コロナ禍の財政」です。長めの前置きになってしまいましたが、「昨年、ニュースで騒がれていたコロナ対策費って実際どうだったの?」について答えます。

 まず、「コロナ対策費」──文科省で予算化した部分の正式名称「学校再開に伴う感染症対策・学習保障等に係る支援経費」をターゲットにします。その名の通り、一斉休業から分散登校を経て、学校の完全再開に向けた「感染症対策」と「学習保障」などに使える経費です。2020年の春頃、「学校に200万円から400万円配当するよ! 安心して!!」という情報がニュース等を盛り上げていたアレです。

 まぁ、当時こんなふうに報道ばかりが先行した結果、現場はたいへんだったんですけどね。いちばん必要な時期(=再開に伴う準備期間)には……、残念ながら予算の配当がなかったんです。

 こういった国から補助される特別な予算って、もちろん学校の口座に即日振込されるわけではありません。市区町村の予算に組み込む(=予算を補正する)必要があります。そのためには、議会に提案しなければならないし、そのための資料も作らなくてはなりません。だから、秋が始まろうとしたころに議会承認を経て、配当された学校は多かったようです。

 配当を待っている状態にしびれを切らした(実際には、子どもたちの安心安全を目的に)PTAや後援会などが動き始め、消毒ボランティアという人的援助と合わせて感染症対策物品の物的援助、さらにはそれらを購入するための財的援助が始まりました。──緊急事態ではありますが、このように保護者や地域に負担が転嫁されてしまう状況は本来の対応ではありません。なぜ、こうなってしまうのでしょうか。


♪ いっしょにLet’s think about it ♪


 最近、「緊急事態」という言葉が都合よくつかわれているような気がします。緊急事態に慣れてしまっている反面、緊急事態だから──といってイレギュラーな対応に積極的な場面も見受けられます。助け合いは必要だけど、慣れ合いはよくないです。

 ずっと書いてきたとおり、お金がないから保護者に頼ろうという構図は、慣れ合いと私費負担の定着を生んでしまいます。学校でつかうモノは公費負担が原則です。

 でも、その公費がなかったんでしょ? といわれそうですね。たしかに「コロナ対策費」の配当は遅れましたが、普段の教育活動につかえる予算はあります。お金がなかったわけではありません。しかし、先行き不透明のなかで感染症対策用品を優先的に購入していき、「再開支援に必要なもの >>> 普段の教育活動に必要なもの」となり、予算がひっ迫していくのに耐える〈鋼の心臓〉は必須です。

 ──まとめると、予算(お金)がないわけではなかったけど、現場的にはうまく回らなかったことが浮き彫りになりました。

 もっといえば、校内消毒等のコロナ特別業務は保護者のボランティアのみならず、通常業務に加えて教職員の仕事となっている学校は多いです。

 地域によって、特殊なケースの消毒作業は、日額手当を出せるそうですが、ほとんどの場合は仕事が増えて給与はそのままという状況でしょう。国からの財的援助、「学校に200万円から400万円配当するよ! 安心して!!」くらいでは、安心して仕事ができません。

 ひとも足りないのです。スクールサポートスタッフという人的援助、正確には財的援助だけをし、やってくれるひとはそっちで探してというムチャぶりも……。学校だよりが求人広告になっていた時期もありました。

 もう少し状況を知りたいひとは、冒頭の書籍とあわせて、『コロナと闘う学校』(学事出版)、「COVID-19に関する学校事務職員 緊急アンケート 調査結果」(現代学校事務研究会ほか)を読んでみてください。

消毒液はもちろん学校にも必要です

 このような状況から、安易に保護者等へ負担をお願いしたり、保護者等からのアプローチに甘えてしまったりするんだと思います。

 支援的アプローチはたいへんありがたいことですが、その結果として諸刃の剣にもなりかねません。私費負担への依存が高まると受益者負担が援用され、私費負担概念も広く定着してしまう恐れがあります。

 たとえば、フェイスシールドやアクリルボードなどを個人持ちとして、保護者から費用を徴収している学校も考えられます。その根拠として、「再開支援費の配当遅延」「学校配当予算の不足」だけではなく、飛散防止対策が自分を守ることに置き換えられ、利益を受けるのは子どもたち自身という論理から受益者負担論が正当化されていく恐れがあります。

 ほかにも、密を避けるためにバスの台数を増やした結果、例年より校外活動費が増えたという話や、休業中や分散登校時に家庭学習として取り組む課題(ワークやドリル)を私費負担で追加購入したという話もあります。子どもたちの安全を守ることは絶対ですし、学習の機会を確保することも大切です。しかし、その対策に私費をあてなければならない状況は、ちがうと思いませんか? 

 アプローチはアプローチでも市民目線で得ている知識「学校に200万円から400万円配当するよ! 安心して!!」を盾にとって、学校や行政にも要求的アプローチをいただけると幸いです。でも教育長に直接電話! なんてなかなかできませんよね。

 学校の管理職や教育委員会に対して、まずは穏当に、「保護者もやれることはやっていますが、本来は公費をつかって対策をする必要があると思います」「学校現場には、コロナ対策費の柔軟な使用を認めてほしい」などと伝える感じでしょうか。もちろん、担任や事務職員、保護者アンケートなどを経由してもいいと思います。

 どうにもならないこともありますが、保護者の声って学校にとっては〈天の声〉になることも多いのです。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。