保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第5回|だれのために名札が必要なの?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第5回
だれのために名札が必要なの?

 みなさん、こんにちは。今月も保護者の疑問に答えるためにヤナギサワ、馳せ参じました! 

 今回は、名札について語っていきます。

 まず、名札とは名前が書かれた札ですね。札といっても「三枚のお札」に出てくるような札ではなく、ネームプレートと表現したほうがよいかもしれません。このお札、いや名札──「三枚のお札」くらい役に立っていればいいんですが……。

 それこそ、小学校1年生がよくつけているやつだけは「お札」っぽいタテ長ですね。2年生以上はサイズが小さいモノをつけています(2年生以上は名札なしという学校もあります)。

 わたしが小学生のときは、名前が刺繍されている布きれを塩化ビニール製のカバーに入れて、安全ピンで留める形状でした。安全ピンって、そんなに安全じゃないですよね……、指に刺さることしばし(笑)。あのころ、よくウインドブレーカーを着ている友だちがいて、その子は「名札つけると穴があくから、おれは名札なんてつけねー」って言っていたことが思い出されます。

 最近では、改良されて、服をはさんで留める仕様が一般化しています。穴はあかないけど、取れやすいんですよね。そして、中学生になると、プレートに名前が彫られている形状が多くなります。

 名前を示すことが目的である名札ですが、だれに示しているのでしょうか? クラスメイトなら、すぐに名前なんて覚えますよね? わざわざ保護者のお金で買ってもらって、毎日つけて学校生活をする意味があるのでしょうか?

──名札、必要ありますか? それでは、名札と真面目に向きあってみましょう。


♪ いっしょにLet’s think about it ♪


 今回は、名札について3パターンで整理したいと思います。①名札なんていらない、②名札を公費で買ってあげよう、③やっぱり名札は私費だよね──。

 ここで、かんたんに「公費」と「私費」について説明しておきます。今後も頻出ワードになっていきますので、ふわっと覚えておいてください。そう、ふわっとでOKです。

 公費とは税金のことです。学校は教育委員会から、運営に必要なお金の一部をもらっています。これが公費。それだけでは足りないので、授業で使ったあとは家に持ち帰るようなモノについて(ひとり1冊やひとり1個などのモノ)、保護者に費用の負担をお願いしています。これが私費です。

 しかし、義務教育は無償であり、公立学校は公費で運営していくべきです。このあたりは今後の連載で書くかもしれませんが、いま詳しく知りたいひとは拙著をご覧ください(『本当の学校事務の話をしよう』『隠れ教育費』『学校徴収金は絶対に減らせます』など)。

 名札の効果と意義を考えてみましょう。授業で使うドリルやワークなどは、学校が勧めるモノを使い、その費用が保護者の負担になったとしても、保護者の全員が全員、反対することはないでしょう。しかし、名札は保護者が望んでつけてほしいと思っていますか?

 わたしも保護者の立場で述べるなら、ハッキリいって不要です。子どもどうしは、名札を確認して名前を呼びあいませんし、不審者対応や個人情報保護を目的として、登下校時には外したり、裏に返したりするような指示をしている学校も多く、名札は完全に“校内限定仕様”です。

こちらは安全ピン型。まぁ、想像どおり──こんなモノです

 では、おとな・教職員の都合で考えてみましょう。

 校内で名札の意義を話しあうと、たいていは「子どもを名前で呼んであげたい」という理由に落ち着きます。まぁ、担任は40人くらいの名前はすぐに覚えられるかもしれないけど、5クラスあったら200人だし、それが6学年になると1,200人です。さすがに覚えきれないですよね。また、授業を担当しない事務職員や校長などはもっとたいへんです。わたしも300人くらいしか覚えていません……ウソ(笑)、300人は無理。やっぱり、名札ほしいですね。

 このように考えれば、名札が必要なのは学校側なんです。──あれ、ということは名札が私費って、ちょっと変ですよね。なんとなく入学と同時に、制服や通学バッグとセット購入してしまう名札ですが、効果と意義をつきつめれば、公費でまかなわれるべきモノです。

 最後に、ある中学校の話をします。その学校では名札を導入していませんでした。人事異動により教職員が入れ替わり、生徒指導の方針が大きく変わったときのこと──。 とつぜん、「名札は必要! 生徒指導は名前を呼んでするべきだ!」と声高に主張するひとが出てきました。そして、そのことが管理職や各学年主任などで構成する企画委員会という会議の議題になりました。

 中学校では一般的な「プレート型@300円」という見本ありきの議論が展開されようとしていたとき、事務職員が待ったをかけました。その事務職員は、生徒指導委員会の要求にもこたえるかたちで名札の導入を肯定し、しかし、費用負担を公費にしました。

 もちろん、プレート型を全員に配付するには費用がかかりすぎるので、「名札型ケース@50円」を人数分購入し、名前の部分は学校で印刷して、つくりました。公費の名札、完成です。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の公立小中学校(小・7年、中・12年)で事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外に開く」をモットーに、事務室だより『でんしょ鳩』などで、教職員・保護者・子ども・地域へ情報を発信し、就学支援制度の周知や保護者負担金の撤廃に向けて取り組む。ライフワークとして、「教育の機会均等・無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。