保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。|第23回|なぜPTA会費を学校が集めるの?──PTAの疑問③|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主査が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

学校にあふれるナゾの活動、お金のかかるあれこれ⋯⋯、「それ、必要なの?」に現役学校事務職員が答えます。

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第23回
なぜPTA会費を学校が集めるの?
──PTAの疑問③

 

 

 みなさん、こんにちは。今月はPTAの話、第3弾です。わたし自身のPTA経験についても書いた第1弾「第14回 うちの子だけコサージュをもらえない?」、学校備品について取り上げた第2弾「第18回 学校備品までPTAが買うの?」もあわせてお読みください。

 今回は、会費の徴収について考えます。

PTAをけっこうラクにたのしくする本』(大塚玲子)によれば、年会費は毎年同じ額を徴収する固定型の場合、学校によって600~7,200円と大きな差があります。年度ごとに事業を再構築して、それに必要な事業費を算出し、会費を決めている変動型の場合もあります。

 たとえば、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、多くの事業が中止になることを見越して予算を立てるのは当然です。しかし、会費を変えるためには規約を変更しなければならず、その手間と負担を考えたら前年度踏襲を選択してしまう⋯⋯というPTAがないわけではありません。

 本来なら会費ありきではなく、事業ありきとするべきですが、今回はそこではなく、徴収方法に焦点を絞ります。

 みなさんが経験したPTAはどちらですか? その①「うちの学校は、PTAの執行部に会計さんがいるから、そのひとが学校に行って会員から直接集金しているよ」というパターン。その②「補助教材費や修学旅行費などの学校徴収金といっしょに引き落とされるからラクだよ」というパターン。

 後者は「抱き合わせ徴収」といわれ、要注意です。何が問題なのでしょうか?


♪ いっしょにLet’s think about it. ♪


 会費の徴収方法は、大まかに区分すると金融機関からの口座振替(以下、引落)と集金袋による徴収(以下、手集金)があります。

 引落の場合は学校、手集金の場合はPTAがそれを担っている場合が多くみられます。PTAが手集金をしている場合でも学校はノータッチというわけではなく、学級担任が集めたり、支払いが遅れた家庭の分を一時的に預かっていたりすることはあります。今回は触れませんが、じつは、ここにも問題はあります。勤務時間中にもかかわらず、公務員である教職員がPTA業務にかかわれるのかという問題です(地方公務員法第35条に規定されている「職務に専念する義務」の解釈)。

 それでは、「抱き合わせ徴収」の問題について学校とPTA、そして保護者それぞれの立場から考えていきましょう。

 まず、学校が取得した個人情報=補助教材費や修学旅行費などを引き落とすための口座情報、それをPTAという学校とは別団体の会費徴収に無断使用することが問題です。

 この問題に、多くの保護者は気がつかないし、学校もそれほど問題としていない場合があります。保護者側は子どもが入学したらPTAにも自動加入するという感覚が一般的であること、学校側は引落の項目をひとつ増やせばOKというだけのことだからでしょう。しかし、このままでは個人情報の目的外利用を容認している状態です。

 ⋯⋯とはいっても、「学校徴収金を引き落とすために取得した口座情報やクラス名簿をPTA会費の徴収にも利用することを──□承諾・□不承諾──」という確認を学校がすればよいわけでもありません。この行為を経たとしても、個人情報の利用を承諾しただけでPTAという組織に加入する意思を確認したわけではありませんよね。個人情報の提供同意=加入意思の承諾にはならないとPTAは肝に銘じておく必要があります。

 しかし、この行為すらしないで保護者名簿を学校からもらい、その名簿を頼りに集金袋を配付する場合も双方アウトです。

PTAも独自に口座情報をゲットしましょう

 会費の徴収に限定するなら、重要なことは、個人情報の取り扱いよりも加入意思の確認です。そのために加入届(入会届)を整備しましょう。引落の場合は、それに口座振替の依頼書を添付することも必要です。

 そして、その業務をだれが担当するのかという問題にもどります。最近では、校長とPTA会長で「業務委託契約」をすることで会費の徴収を学校に委託できるようにしたという実践もあります。しかし個人的には、それだけで校務とみなされるのか(してよいのか)、懐疑的です。やはり、それぞれの組織としてそれぞれ必要な費用はそれぞれが徴収するべきだと考えます。

 第2弾でふれましたが、学校側もPTAの財力を頼りにしたいがために業務を引き受けたり、PTA側も個人情報の転用や徴収業務の委託をお願いしていることから財政援助をしたりするような関係ではなく(結果的にそうなってしまっただけで、それをねらっているわけではないにしても)、第1弾で紹介したPTA設立の目的「家庭と学校と社会における児童・青少年の幸福な成長をはかること」をもう一度見直し、協働のあり方を考えてみませんか?

 わたしが初めてPTAの役員(P側)を経験してから約10年が過ぎました。この10年でPTAに対する保護者の意識はだいぶ変わってきたと感じています。また、それは現代社会におけるPTAの捉えかたも同様だと思います。たとえば、学校とPTAは表裏一体という感覚や、PTAにかぎらず学校から依頼されたことには従順であるべきという感覚から、PTA会員ひとりひとりの気づきや違和感を社会が拾ってくれるような時代になったということです。

 本連載のなかの小連載「PTAシリーズ①~③」を参考にしながら、ひとりひとりの保護者が声を上げていくこと、それこそが適正なPTA運営の第一歩につながると考えます。まずは身近なママ友・パパ友、PTA役員さんたちにこの記事をLINEしてみましょう♪ そこから、PTA総会への改革提言につながると最高ですが、そこまでいかないスモールステップも考えられます。たとえば、「抱き合わせ徴収」だったら、学校に質問することで学校は答える義務が生じます。「加入の意思確認」だったら、PTAがそれを担います。気持ちや考えを学校やPTAに伝えることから始めてみませんか?

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
埼玉県の小学校(7年)と中学校(13年)に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などをライフワークとして研究している。「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。おもな著書に『学校徴収金は絶対に減らせます。』(学事出版、2019年)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、2016年、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、2019年、日本教育事務学会「研究奨励賞」)など。