きらわれ虫の真実│第15回│コガネムシ——名は体を表さず│谷本雄治

きらわれ虫の真実 谷本雄治 大切な家庭菜園に招かれざる客がやってきたら? 虫と対話するナチュラリストが、彼らの生態と意外な魅力を紹介し、ほどよいつきあい方を提案します。

大切な家庭菜園に招かれざる客がやってきたら? 虫と対話するナチュラリストが、彼らの生態と意外な魅力を紹介し、ほどよいつきあい方を提案します。

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第15回
コガネムシ——名は体を表さず


コガネムシという名前の正統派コガネムシ。キラキラして美しいが、外見にだまされてはいけない
コガネムシという名前の正統派コガネムシ。キラキラして美しいが、外見にだまされてはいけない

【虫の履歴書】コガネムシという種名の虫も存在するが、カナブン類、ハナムグリ類をふくめて「コガネムシ」とよぶことが多い。そのため、一部では混乱が生じている。体長はいずれも2センチほど。樹液を吸って生きるものがいれば、葉や茎を食べるものもいて、それぞれの習性は大きく異なる。


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 黄金は、いつの時代も人を惑わす。たいては欲がからみ、富の象徴とみて金貨や金塊に振りまわされる人間があとを絶たない。

 皮肉なことに、それは虫の世界でも同じようだ。金属光沢の虫ということで「黄金虫」と命名したのだろうが、コガネムシ科に属する虫は全世界に約3万種、国内だけで約450種もいる。ひとくくりにして論じようとすることじたい、無理なのだ。

 身近なコガネムシとカナブンの呼び方だけでも地域差がある。

「ブドウ棚にコガネムシがよく飛んできてさあ、糸で縛って遊んだものだよ」

 そう話す友人に写真を見せたら、思い出話の主はドウガネブイブイだった。ところが、その隣にいた人は「なんだ。カナブンのことか」と言いはなち、別の人は「ブイブイ」とよんでいた虫だと話す。

 ぼくが子どものころは、どちらも「カナブン」だった。「コガネムシ」が正式名で、「カナブン」は方言だと思っていた。

 呼び方だけなら、まだいい。だが、益虫とか害虫という区別をするさいには、その名前が大きな意味をもってくる。カナブンなら益虫だが、コガネムシは害虫になるからだ。くだんのブドウ棚にいたドウガネブイブイはコガネムシの一種だから、害虫として敬遠されるのがもっぱらだ。

 コガネムシやドウガネブイブイ、アオドウガネ、マメコガネといったコガネムシ類の成虫は、葉を食べる。ひどい場合には葉脈だけ残して、ぼろぼろにする。

 ブドウ以外にもカキ、クリなどが被害に遭うし、インゲンやトマトといった野菜、バラ、キクなどの花卉かきも食害される。ふんで葉を汚し、そのにおいでまた仲間を呼びよせる。そうなれば生育に影響するし、美観だって損ねる。

コガネムシの仲間はペアでいることが多い。食害だけでなく、ふんによる汚れもある

コガネムシの仲間はペアでいることが多い。食害だけでなく、ふんによる汚れもある

 成虫だけで手を焼くのに、コガネムシ類は幼虫時代から素行が悪い。言うなれば札つきのワルである。

「いやあ、まいった。また、根切り虫にやられちまった」

 農家の人や菜園家がよく口にする「根切り虫」はカブラヤガ、タマナヤガといった蛾の幼虫だ。昼間は土のなかに隠れていて、暗くなると這いだして野菜の芽を食い、植えたばかりの苗を食いちぎる。

 コガネムシ類の幼虫は、その根切り虫の仲間でもある。悪名高い「根切り虫」一派に加わり、競うようにしてサツマイモ、スイートコーン、ニンジンなどに悪さをする。

庭の土を掘ったら、コガネムシ類の幼虫がこんなに出てきた。この日はまだ少ないほうだ

庭の土を掘ったら、コガネムシ類の幼虫がこんなに出てきた。この日はまだ少ないほうだ

 昼間見かける害虫だけでもずいぶんいるのに、夜は夜で出没するのだから、たまったものではない。それどころか、ゴルフ場の芝生にまで手というか口を出すのだから、グリーンキーパーも頭が痛い。有効な農薬も多いが、経費もそれなりにかかる。

セマダラコガネ。見た目にはかわいらしいが、ゴルフ場の芝生を荒らすため嫌われている

セマダラコガネ。見た目にはかわいらしいが、ゴルフ場の芝生を荒らすため嫌われている

 家庭菜園なら、別の手がある。土のなかに幼虫がいない、入りこまない状態にすればいいわけだから、完熟堆肥を使い、防虫ネットを張って侵入を防ぐといい。苗についていないことを確かめ、定植時にマルチフィルムを張るのも対策となる。

 幸いなことに、人間には好かれるのにコガネムシ類に嫌われる植物がある。ミントやニンニク、マリーゴールドなどがその例だ。それらを野菜類の近くに植えてもいい。市販もされる椿油搾りかすのサポニン成分が有効だという報告も増えつつある。

 まったく逆に、特定の花におびき寄せるのもいい。コガネムシ類が好むヒマワリを育て、集まったものを捕獲する作戦だ。いくつかの方法を組み合わせれば、なおいいだろう。

 コガネムシ類のおもな活動時期は、成虫が5〜9月、幼虫が4、5月と10、11月。その時期を中心に警戒が必要だ。昆虫は、からだの横にある気門で呼吸をする。残酷なようだが、捕獲したあとは水責めにし、そのあとで土に埋めてやろう。

 コガネムシとまちがえやすいカナブンは樹液の出る雑木林に集まり、菜園に押し寄せることはない。外見はそっくりだが、頭の形が四角ならカナブン、丸いならコガネムシだ。はねのつけ根の形でも見分けられ、二等辺三角形ならカナブン、半円の上弦の月タイプならコガネムシとなる。

樹液を吸うカナブン。はねの付け根あたりが二等辺三角形になっているため、コガネムシと区別できる

樹液を吸うカナブン。はねの付け根あたりが二等辺三角形になっているため、コガネムシと区別できる

 この両者は、飛び方でも判断がつく。カナブンはかたい前ばねを閉じ、ふだんは隠れている後ろばねを広げて軽快に飛ぶ。一方のコガネムシは前ばねも開いたまま。そのために、なんだか鈍くさい飛び方に見える。虫の個性は、こんなところにも現れる。


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背中がかゆい?:コガネムシとカナブンの違いは、幼虫の行動にも見られる。土の上に置いたとき、腹側を上にして背中を使って前に進むならカナブン、背中が上になる一般的な動き方ならコガネムシだ。カナブンの幼虫は落ち葉や朽ち木の分解者として働く点でもコガネムシと異なる。

あたりまえのように背中を上にして歩いたら、コガネムシの幼虫だ。害のないカナブンの幼虫は腹を上にして進む

あたりまえのように背中を上にして歩いたら、コガネムシの幼虫だ。害のないカナブンの幼虫は腹を上にして進む

 

谷本雄治(たにもと・ゆうじ)
プチ生物研究家・作家。1953年、名古屋市生まれ。田畑や雑木林の周辺に出没し、虫をはじめとする、てのひらサイズの身近な生きものとの対話を試みている。肩書きの「プチ」は、対象の大きさと、研究もどきをたしなむという意味から。家庭菜園ではミニトマト、ナスなどに加えて「悪魔の爪」ツノゴマの栽培に挑戦し、趣味的な〝養蚕ごっこ〟も楽しむ。著書に、『週末ナチュラリストのすすめ』(岩波科学ライブラリー)、『天の蚕が夢をつむぐ 大島紬ものがたり』(フレーベル館)、『ちいさな虫のおくりもの アリスの心とファーブルの目』(文研出版)など多数。自由研究っぽい飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。