きらわれ虫の真実│第9回│ワラジムシ——いわれなき不快感│谷本雄治

きらわれ虫の真実 谷本雄治 大切な家庭菜園に招かれざる客がやってきたら? 虫と対話するナチュラリストが、彼らの生態と意外な魅力を紹介し、ほどよいつきあい方を提案します。

大切な家庭菜園に招かれざる客がやってきたら? 虫と対話するナチュラリストが、彼らの生態と意外な魅力を紹介し、ほどよいつきあい方を提案します。

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第9回
ワラジムシ——いわれなき不快感


ワラジムシ。正面から向き合えば貫禄はあるし、性格も悪くない……かもね
ワラジムシ。正面から向き合えば貫禄はあるし、性格も悪くない……かもね

【虫の履歴書】カニやエビと同じ甲殻類で、等脚目(ワラジムシ目)ワラジムシ亜科ワラジムシ科に属する陸生種。世界で1500種、日本で約100種とされるが、研究の遅れもあってじっさいにはもっと多いとみられる。刺激を受けるとからだを丸めるダンゴムシもワラジムシの仲間。カラフルな種も存在する。


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 コウモリやカエルを「虫」とすることに、違和感をおぼえる人がいる。だが、ワラジムシや類似のダンゴムシは「ムシ」とつく呼称からか、意外にすんなり、虫とみてもらえる。

 もちろん、昆虫とは一線を画する。わかりやすいのが、あしの数だ。昆虫は胸から3対・6本のあしが生えるが、ワラジムシ、ダンゴムシは7対・14本。ワラジムシは、おしりにある短い角のような2本のしっぽ(尾肢びし)がよく目立つ。

ワラジムシのあし

ワラジムシのあし

ダンゴムシのあし

ダンゴムシのあし

 どちらも湿った暗い場所を好み、石の下や朽ち木・落ち葉のなかにいる。活動するのはおもに夜で、春・秋の暖かい時期に繁殖する。

 冬には見る機会が減るが、死ぬわけではない。植木鉢の下、落ち葉が集まる樹木の根元、幹のくぼみなどに何匹も集まって、からだを丸めている。身を寄せあって暖をとっているようにも見えるが、そこがたまたま、冬越しに適した場所だったとみるべきだろう。

ワラジムシの集団。こんなのを見たら、嫌いになってもしかたがない?

ワラジムシの集団。こんなのを見たら、嫌いになってもしかたがない?

 かれらは殖え方も、昆虫とは異なる。雌のからだに備わる育房(保育のう)で孵化ふかし、親そっくりの姿になってから外に出る卵胎生だ。

 幼体は脱皮をくり返して成長する。ワラジムシ、ダンゴムシともに2段階式の脱ぎ方で、最初は後ろ半分、その後しばらくして前半分の皮を脱ぐ。ズボンを脱いでから服を脱ぐような手順を踏むのは、外敵から身を守るとともに、からだを構成するのに欠かせないカルシウムを保持するためでもあるらしい。

脱皮中のダンゴムシ

脱皮中のダンゴムシ

 興味深いのは、幼い時期のあしの本数は6対・12本であることだ。数回の脱皮を経て、成体と同じになる。栄養補給のためか、抜け殻があれば自分のものでなくても食べてしまうところもあたりまえに観察される。

 えさを食べるときには、あごを左右に動かす。それは昆虫でよく見られる形態だ。

 交替性転向反応というヘンテコな行動をとるのもおもしろい。T字路に来て右に曲がったら、つぎのT字路では左、そのつぎは右、そのつぎは左……と進路を変える。

 この習性を確かめようと、かんたんな立体迷路で実験したことがある。ワラジムシ、ダンゴムシのどちらでもいいのだが、いくらかかわいげのあるダンゴムシで試したところ、なるほどそのような反応を見せてくれた。

手づくりした立体迷路。T字路に来たら、さてどちらに進むのだろう

手づくりした立体迷路。T字路に来たら、さてどちらに進むのだろう

 何度かくり返すと、「とてもつきあっていられねえ」と思うのか、迷路の壁を登るものも出てくる。高さ1センチの壁だからさもありなんという気になるが、そうした予想外の行動をとるのは、かれらに心がある証拠だと説く学者がいる。

 そう言われれば、そうも思える。だが素人はマジメに右、左、右……と進んでくれるものに愛着がわく。教科書どおりに行動するようで、なんとも健気に思えるのだ。

 いまのぼくは、かれらを手づかみできる。ところが子どものころは、現代っ子が親しげに「マルムシ」とよんで手にとるダンゴムシでさえ、苦手だった。昆虫にはない何かを持っているようで、かかわりたくなかったのだ。

丸くなったダンゴムシ。学名には「小さなアルマジロ」の意がある

丸くなったダンゴムシ。学名には「小さなアルマジロ」の意がある

 昭和、平成、令和と時代は変わった。現代人はワラジムシ、ダンゴムシをどうみているのか。

 その答えは、「不快害虫」のひとつとしてとりあげられることで明らかだろう。駆除するための薬剤も数多く出まわり、ワラジムシ、ダンゴムシの嫌われ度は健在だ。バスルームではなく風呂場、トイレではなく便所とよばれていた時代の家屋ではよく遭遇したが、そのわりには騒がれなかった。

 現代人は、1匹でも見つかるとパニックに陥る。屋内は言うまでもなく、きれいに咲いた花を見ようとして出た庭で目にしたら、すぐさま駆除剤を持ちだそうとする人がいる。

 くつろぎの場で、その虫がいると気づいたときに不快な気持ちになるのは理解できる。そうなる理由も、あるていどはわかっている。

 野外でのもともとの生息場所を考えればわかるように、暗くてじめじめした環境を好む虫だからだ。移動中のものを除けば、屋内でもたいていは湿気のあるところに出没する。

 となれば、対応の仕方もみえてくる。庭では鉢やプランターの下にいることが多いから、それらを台の上に載せるといい。腐った花や葉を好むから、花殻や枯れ葉を見つけたら捨てる習慣を身につけるといいだろう。

 家のなかに入らないようにするなら、日ごろから除湿や乾燥に努めることだ。網戸にして侵入経路を防ぎ、浴室の換気や乾燥を心がけたい。排水口の掃除もしっかりしておこう。

 それでも現れる? だったら、頭を切りかえるのがなによりの対策になる。

 ワラジムシ、ダンゴムシともに、土壌を豊かにするのに役立っているからだ。落ち葉や虫の死骸を分解して土にかえす仕事をしていることに感謝すれば、不快感も薄らぐ(はずである)。

ワラジムシも多種多様。なかには美しいと思えるものもいる

ワラジムシも多種多様。なかには美しいと思えるものもいる


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海の親戚:ワラジムシ目には深海にすみ体長50センチを超すこともあるダイオウグソクムシがいれば、1センチほどのコツブムシもいる。ワラジムシに似るが、そのサイズは両極端。後者は浜辺にすみ、海水生物のえさとしても流通する。

ダイオウグソクムシ

ダイオウグソクムシ

コツブムシ

コツブムシ

 

谷本雄治(たにもと・ゆうじ)
プチ生物研究家・作家。1953年、名古屋市生まれ。田畑や雑木林の周辺に出没し、虫をはじめとする、てのひらサイズの身近な生きものとの対話を試みている。肩書きの「プチ」は、対象の大きさと、研究もどきをたしなむという意味から。家庭菜園ではミニトマト、ナスなどに加えて「悪魔の爪」ツノゴマの栽培に挑戦し、趣味的な〝養蚕ごっこ〟も楽しむ。おもな著書に『週末ナチュラリストのすすめ』(岩波科学ライブラリー)、『土をつくる生きものたち』(岩崎書店)、『ケンさん、イチゴの虫をこらしめる』(フレーベル館)などがある。自由研究っぽい飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。