きらわれ虫の真実│第13回│テントウムシ——ベジタリアンは嫌われる│谷本雄治

きらわれ虫の真実 谷本雄治 大切な家庭菜園に招かれざる客がやってきたら? 虫と対話するナチュラリストが、彼らの生態と意外な魅力を紹介し、ほどよいつきあい方を提案します。

大切な家庭菜園に招かれざる客がやってきたら? 虫と対話するナチュラリストが、彼らの生態と意外な魅力を紹介し、ほどよいつきあい方を提案します。

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第13回
テントウムシ——ベジタリアンは嫌われる


草食系のテントウムシ、ニジュウヤホシテントウ
草食系のテントウムシ、ニジュウヤホシテントウ

【虫の履歴書】国内だけで約180種が知られるが、単独でテントウムシという種名を持つものはいない。大別すれば、アブラムシなどを捕食する肉食系、うどんこ病菌をえさにする菌食系、植物の葉を食べる草食系に分かれる。これら3系統のなかで敬遠されるのは草食系で、その一部が野菜の害虫になっている。


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 虫が嫌いでも、テントウムシは例外だという人は多い。丸いからだでトコトコ歩く姿を見ていると、愛らしいと感じるようである。娘さんを意味する「あねこ虫」とよぶ地域があるのは、テントウムシにはどことなくやさしいイメージがあるからか。

 それらはたいてい、ナミテントウかナナホシテントウのような肉食系だ。現実をよく見れば、猛獣さながらの猛々しい虫だとわかるはずだが、にっくきアブラムシを食べているのだと知れば、感謝の念もわく。

肉食系のナミテントウ

肉食系のナミテントウ

 だからといって、テントウムシ全体に気を許すと、たいへんなことになる。草食系には、にらみをきかせねばならぬ。食植性テントウムシともよばれる一群だ。

 植物の葉に依存するわけだから、昆虫世界のベジタリアンということになる。同じ草食系でもトホシテントウのように野山にいればいいのだが、ニジュウヤホシテントウやオオニジュウヤホシテントウの場合は、野菜畑にいることが多い。そうなると、菜食主義があだになる。人間のように、「あ、そ。あなた、肉は食べないのね」ではすまされない。

 なにしろ、食欲がすごい。しかも何匹も集まって、これぞと決めた野菜の葉を占領してかじりとる。野菜にとって重要な光合成をさまたげる、とんでもない行為だ。

 育ちは当然、悪くなる。わが菜園では、ジャガイモの葉をぼろぼろにし、そのあとすぐ近くのナスに引っ越した。好物とされるナス科の野菜どうしをくっつけて植えるほうが悪いのだが、せまい場所なのでしかたがない。

トホシテントウ。野菜畑では見かけない

トホシテントウ。野菜畑では見かけない

ジャガイモの葉を食べつくしたニジュウヤホシテントウ軍団は、すぐ左側のナスへと移動した

ジャガイモの葉を食べつくしたニジュウヤホシテントウ軍団は、すぐ左側のナスへと移動した

 ニジュウヤホシの名は背中に星が28個あることに由来し、年に2回発生する。オオニジュウヤホシテントウも28星でとてもよく似ているが、ほんの少しだけ大柄だ。発生は年1回。ナスやジャガイモを栽培していると、この2種がよく目につく。

 そんな畑のベジタリアンをわかりやすくよぶための俗称が「テントウムシダマシ」だ。だまされるのは人間だからネーミングの誤りのような気もするが、その名はすっかり定着している。

 まぎらわしいことにテントウムシダマシ科というのがあって、そのグループが50種ほど知られる。きのこなどの菌類をえさにするから、野菜畑で出会う確率は低い。

 とはいえ、虫に興味がない、あるいは虫嫌いの人たちにとって、そんなことはどうでもいい。問題は、自分の畑で目にするテントウムシが「テントウムシダマシ」なのか、アブラムシをやっつけてくれる「益虫」なのかということだろう。

 なんとかして、両者を見分ける手立てはないものか。

 確実ではないが、そのすべはある。

 ひとつは、からだのつやを見ることだ。半球体がテントウムシの特徴であり、野菜畑で益虫とみなされる肉食系・菌食系は、つるつるした背中を持つ。正しくは「鞘翅しょうし」という部分で、平たく言えば硬めの前ばねである。

 ところが、ベジタリアンの「テントウムシダマシ」の背中は、そうなっていない。お世辞にもつやがよいとは言いがたく、ざらざらした質感だ。表面には、「被毛」すなわち細かい毛がびっしりと生えている。

からだが毛に覆われたニジュウヤホシテントウ

からだが毛に覆われたニジュウヤホシテントウ

 それだけでもなじみのテントウムシとは違うと感じるが、幼虫はもっと、けばけばしい。イラガの幼虫にひどい目に遭わされた人はその毛を思い浮かべるだろうし、そうでない人には、ゴジラの背びれを鋭くしたものとでも言えばわかってもらえよう。

ニジュウヤホシテントウの幼虫。背中のトゲトゲを見ると、手が引っこむ

ニジュウヤホシテントウの幼虫。背中のトゲトゲを見ると、手が引っこむ

 いくらか救われるのは、イラガと違って、手で触れても痛くないことだ。腫れることもない。毒は持たないとみていいだろう。

 それならいいかと放置すれば、被害をこうむること必至である。幼虫が生まれるまえに卵を駆除できればいいのだが、葉の裏側に産みつけるから、気づきにくい。農薬も、かかりにくい。

 一度の産卵数は30〜50個。だからすぐに増えるし、行動力抜群の肉食系と違って定住するタチだ。その場に居座られては、困ることこのうえない。葉を裏側から削りとるようにして食べすすむ。

ニジュウヤホシテントウの卵

ニジュウヤホシテントウの卵

 農薬の使用を控える菜園では、成虫の「テントウムシダマシ」を1匹でも見かけたら、葉の裏側をチェックしよう。幼虫や卵がついていたら、葉ごととりのぞく。できるならそれ以前に株全体を目の細かい網で覆い、進入禁止であることを教えこみたいものである。


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被毛援軍:背中に毛があればすべて悪者というかというと、そうでもない。専門家も注目する体長1、2ミリのヒメテントウ類は、アブラムシやハダニを食べる。外来種ながら、3ミリほどのモンクチビルテントウもアブラムシを捕食する。とはいえ、いずれも小兵。数で勝負といったところだろうか。

ヨツモンヒメテントウ(中央)とモンクチビルテントウ(右)

ヨツモンヒメテントウ(中央)とモンクチビルテントウ(右)

 

谷本雄治(たにもと・ゆうじ)
プチ生物研究家・作家。1953年、名古屋市生まれ。田畑や雑木林の周辺に出没し、虫をはじめとする、てのひらサイズの身近な生きものとの対話を試みている。肩書きの「プチ」は、対象の大きさと、研究もどきをたしなむという意味から。家庭菜園ではミニトマト、ナスなどに加えて「悪魔の爪」ツノゴマの栽培に挑戦し、趣味的な〝養蚕ごっこ〟も楽しむ。おもな著書に『週末ナチュラリストのすすめ』(岩波科学ライブラリー)、『土をつくる生きものたち』(岩崎書店)、『ちいさな虫のおくりもの アリスの心とファーブルの目』(文研出版)などがある。自由研究っぽい飼育・観察をもとにした、児童向け作品も多い。