アイドルとのつきあいかた│特別編│コロナ禍があぶりだしたオタクの業│ロマン優光

アイドルとのつきあいかた ロマン優光 ろまん ゆうこう 〈不健全な疑似恋愛関係〉から〈健全な共犯関係へ〉──これからのアイドルとオタクの関係性を考察します。

〈不健全な疑似恋愛関係〉から〈健全な共犯関係へ〉──これからのアイドルとオタクの関係性を考察します。

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特別編
コロナ禍があぶりだしたオタクの業

 2021年12月に終了した本連載は2022年9月刊行予定で書籍化します。今回は、未掲載の書き下ろしを特別掲載します。

現場から
オタクが減った

 2020年からの新型コロナの蔓延はアイドル現場の様相を大きく変えた。いや、変えたというか、第一回目の緊急事態宣言の影響で、観客を入れたライブというものが約2か月半~3か月ものあいだ、完全に失われてしまった。

 無観客でのライブ配信、リモート特典会という手段で対応をしていたとはいえ、生のライブ、生の会話とは比較にならない。やはり、たんなる視覚・聴覚情報だけでなく、身体全体で感じる空気が現場の醍醐味だったのだ。それはべつに現場で沸くオタクだけの問題ではない。声も出さず、踊ったり、沸いたりしないような、鑑賞一択のタイプの地蔵の人間にとっても、それは同じことだ。

 有観客ライブが復活しても、ライブハウスは人数制限・声出し禁止・モッシュなど沸く行為も禁止、が原則とされ、たびたび強いられる飲食店の営業時間の規制によって、本来はいちばん人がいるような時間帯に終業するような状況を何度もくり返す。酒類の提供も、禁じられたり、提供時間に規制がかけられたりする。

 また、コロナが蔓延しはじめたころにライブハウス由来とされるクラスターが数回発生したこともあり、ライブというものに対する世間の風当たりは厳しく、アイドルの有観客ライブが復活したものの、会社などではライブに行くのを禁じ、ライブ参加を自粛することをせまる空気が流れていた。また、家族に重症化リスクの高い人がいる場合、ライブ参加を自粛する人も当然出てくる。

 そういう流れのなかでオタクは確実に減っていった。以前にくらべれば世間の空気もかわり、ライブハウスの規制も緩和されていってる状況になっても、オタクの総数が減っていることを実感する。

オタクが現場を
離れたわけ

 現場が再開したのにもかかわらず、オタクがなぜ離れていったのか。原因はいくつか簡単にあげられる。

 自身や同居家族の生命の安全のためや、医療関係や介護関係といった職種の問題で現場にこれなくなってしまったような、やむをえない例がまずある。コロナ感染が大幅に下火になる、もしくは治療薬が開発されてコロナの危険性が下がる日までは解決されない問題だ。

 いままでのスタイルで現場を楽しむことができなくなったからというのもある。声も出せない。モッシュも禁止。会場によっては着座を強いられる。そういう状況にストレスを感じて現場から足が遠ざかった人間もいれば、チェキを撮りにいっても、ビニールシート越しに会話をし、マスク着用の状態でのチェキしか撮れないことに不満を感じた人間もいる。

 いままで見にいっていたアイドルグループがコロナの影響で解散してしまい、現場自体がなくなってしまった人もいる。

 コロナ禍はアイドルにも大きな影響を与えた。有観客ライブができなくなり、チェキなどによって得ていた収益が失われ、経済的に活動を維持できなくなったという運営上の理由もある。兼業アイドルのなかには、生活を支えていたアイドル以外の仕事の収入が減り、アイドル活動を続ける余裕がなくなった者もいる。同居家族の重症化リスクの問題。ライブ活動をすることでのコロナ感染のリスクを心配した家族の反対。新型コロナの蔓延がいつ収束するかわからない状況のなかで、先の展望が見えなくなりアイドルを廃業する人。コロナ禍でメンタルをやられてしまい、活動を続けられなくなった人。アイドルがいなくなってしまえば、オタ活も続けようがない。

 しかし、家族や自分の健康リスクや職場の問題といったやむをえない事情をのぞけば、これらはたいしたことがない問題だ。あくまで表層的な理由でしかないし、本当にそれでオタクを辞めた人がどれだけいるかはわからないと思っている。たとえ、本人がそのように口にしていたとしても。

コロナ禍が
可視化したもの

 けっきょく、第一回目の緊急事態宣言をきっかけにアイドルオタクを辞めた人というのは、気づいてしまったのだと思う。べつにアイドルのライブに行かなくても自分の生活に何の支障も生じないということに。

 コロナ以前に習慣のように週に何回もアイドルライブを訪れていた人間が、ライブというものから強制的に切り離されることになる。それが2020年に起きたことだ。

 切り離されたことで、自分が惰性で現場に通っていただけで現場に行かなければ行かないで何も困らないということに気づいてしまう。また、現場に精神的に依存していたが、切り離されたことで自分がたんに依存していただけであることに気づいてしまった人もいる。そういうふうに気づいてしまった人はもうもどれないものだ。

 10年代のアイドルブームのなか、アイドル戦国時代から始まった何度かの局所的な小ブームを経てアイドル現場に行くようになった人たち。ブームにのせられてアイドル現場に行くようになったもののアイドルというものに対して本当に執着していないような人たちもそのなかにはいたということだと思う。現場で生まれた人間関係が楽しくて現場には通いつづけてはいたが、アイドル自体には本当は飽きているという人は大勢いただろう。そういう人たちは気づいたはずだ、アイドル周辺の環境が好きなだけで、それを成立させるためにアイドルを利用しているだけであり、アイドル自体を自分は必要としていないことに。

 ブーム以前からアイドルオタクだった人や、もとからアイドルオタクの資質をもっていた人以外で、ブームにのせられてアイドル現場に通ってはいたが、現場で形成されるコミュニティに属する楽しさがメインだった人たちは、この状況で確実に振り落とされていった。オタクとしての業を背負ってなかったということだろう。

 リアルな現場がない、リアルな現場に行くことが難しい状況のなかで、ひたすらアイドルに執着していた人間だけが現在もアイドルオタクを続けているのだと思う。

業を背負ってしまったら
続けるしかない

 いろいろなやり方はある。SNSやツイキャスなどで認知のあるアイドルと絡んでいくのはみんなやっていただろうと思う。それだけでは足りずにいろいろとやっていく人もいる。リモート特典会に参加し、会話を延々とすることで、会ったことのないアイドルからリモート認知を獲得しつづけるもの。配信ライブを見まくっては、新しいアイドルを見つけ、細かく活動の動向を調べたり、メンバーの人となりを調べつづけたりするもの。アイドルの数年にわたる過去のラジオのアーカイブを探してきては黙々と聴きつづけるもの。いろいろなやり方でアイドルについて考えつづける。

それが積極的にできたもの、意図的にできたものがコロナ他界をすることなく、現場にもどってきたのだと思う。ちなみに自分は一回目の緊急事態宣言があけたときに推し増しをしてしまっていて、現場復帰後にライブ選択がひじょうに大変になってしまった。

 しかし、このように意図的に努力してアイドルオタクであろうとするのは小賢しいことなのかもしれない。配信を多く見るわけでもなく、ふだんよりSNSでの活動が活発になることもなく、とくにアイドルオタクとして新しい動きを見せずに過ごし、有観客ライブ復活と同時にコロナ以前と同じ頻度で普通にライブに通いだす人の持つ凄みにはかなわないのではないかと感じる。こういう人がアイドルオタクとしての業がいちばん深いのだろう。

 コロナ禍のなか、アイドルを続けたり、アイドルを始めたり、アイドルを引退していたのにもかかわらず復活してくるような地下アイドルは、普通の感覚とは違うところで生きていると思う。コロナ蔓延以前からブームの終焉が叫ばれ、オタクの総数も減ってきていた。芸能的な活動をしたり、人前で表現をしたいなら、べつに地下アイドルの活動形態でなくてもいいし、もっといいものがあるはずである。そのうえ、このようなことになってしまい、先行きはますます見えなくなっている。それでも地下アイドルとして活動する人はよくも悪くもそう生きるしかない人なのだろう。 

 オタクも同じだ。べつにアイドルオタクでなくてもいいのにコロナ禍のなかでアイドルオタクを続ける人は、業が尽きるまではやりつづけるしかないのだろう。




■書籍版刊行延期のお知らせ(2022年9月刊予定、予価1800円+税)

 昨年12月の最終回において、6月刊と予告していた本連載の書籍化につきまして、諸般の事情により延期させていただくこととなりました。現在、9月の刊行を予定して進めております。早くからご予約いただいた方、楽しみにお待ちいただいていたみなさまにお詫び申し上げます。

 刊行時期を訂正したうえで、引き続き一部書店で予約を承っております。くわしくは以下のリンクをご覧ください。

 

ロマン優光(ろまん・ゆうこう)
1972年高知県生まれ。ソロパンクユニット「プンクボイ」で音楽デビューしたのち、友人であった掟ポルシェとともに、ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」を結成。ディレイ担当。WEBサイト「ブッチNEWS」でコラム「ロマン優光のさよなら、くまさん」を隔週連載中。
著書に『90年代サブカルの呪い』『SNSは権力に忠実なバカだらけ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』『日本人の99.9%はバカ』(いずれもコア新書)、『音楽家残酷物語』(ひよこ書房)。