アイドルとのつきあいかた│第7回│オタクどうしの出会いと交流│ロマン優光

アイドルとのつきあいかた ロマン優光 ろまん ゆうこう 〈不健全な疑似恋愛関係〉から〈健全な共犯関係へ〉──これからのアイドルとオタクの関係性を考察します。

〈不健全な疑似恋愛関係〉から〈健全な共犯関係へ〉──これからのアイドルとオタクの関係性を考察します。

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第7回
オタクどうしの出会いと交流

出会いが多い
地下のオタク

 多くの場合、学校を卒業して年を重ねるにつれ、新しく友人をつくるということは年々少なくなっていく。新しく人と知り合うにしろ、たいていの場合が仕事の人間関係のなかでおこなわれる行為であり、そのなかでのたがいの立場というものが関係性に大きく影響するものであり、その関係性を抜きにプライベートで親しく付き合うようになるまでの交流というものに発展するというのもなかなかないことだろう。

 あるいは、すでに友人である人物や配偶者といった人たちの交友関係にある人物と新たに直接的な交友関係が結ばれるという例もあるし、子どもの保護者という立場どうしで新しく人と親しくなることもあるが、まったく無関係のところから自分の立場に関係なく新しく人と親しくなるということは年を重ねれば重ねるほど、一般的には難しくなってくる。

 仕事上の立場や子どもの親であるといった属性に関係ないところで新しい交友関係が生まれる可能性が高いのは、趣味の領域での活動である。趣味関係のイベントやオフ会で直接知り合い親しくなることもあれば、SNS上でやりとりするようになったあとに直接会うような関係性になることもあるが、そのなかでもアイドルオタクどうしの関係性は濃いものになりがちだ。

 ほかのジャンルのオタクよりもアイドルオタク、さらに言うなら地下アイドルのオタクがたがいにやたらと遊んでいるように見えるのはなぜか? それは、ライブや接触イベントが大量におこなわれているために、オタクどうしが直接出会う機会が多いからだ。

 ふつうに考えて、同じ内容のイベントが週に何度もおこなわれたり、同じ面子を集めるようなオフ会が週に何度も開かれたりすることはない。コンサート、ライブといった現場に足を運ぶことが前提とされるものにしたって、バンドにしろ、メジャーなアイドルにしろ同じグループが週に何度も公演をおこなったりすることはあまりないだろう。48系の劇場公演にしたって、行きたいからといって抽選に当たらなければ行けるわけではない。演劇だって公演期間は毎日のようにやっていても、準備期間というものもあるわけで、365日四六時中思い立ったときに行けるわけでもない。

 地下アイドル・地底アイドルの場合はそこが違う。同じ演者のライブが週に何度もおこなわれる状況が一年中存在している。それは日常のなかにふつうに存在しているわけで、思い立ったときにとくに特別な準備をすることなく、ふらっとライブに行って観ることができる状態がつねにあるわけである。必然的にオタクどうしが直接顔を合わせる機会が多くなる。


特典会場現場が
生む人間模様

 見知らぬ他人どうしであったオタクどうしがある種の友人関係を形成していくにいたるまでの過程というのは当然ある。どういうことをきっかけにして、最初の会話を始めるのだろうか?いろいろなパターンを考えてみよう。

 まず、なんらかのグッズや特典券などを交換するために交流が生まれる場合というのはある。

 なんらかのグッズというのはオフィシャルで出されている封入されて内容が確認できない形式で売られている生写真、プロマイド、チェキといったものである。カードゲームのカードの交換、シールなどの食玩の交換と同じように考えるとわかりやすいだろう。コレクション的にコンプリートするために、あるいは推しのものを求めて、交換会めいたものがライブ会場やイベント会場に自然発生していくわけだ。生写真・プロマイドめいたものをオフィシャルで販売するのは、あるていど以上規模の大きなアイドルにかぎられていて、地下・地底ではランチェキ(ランダムチェキの略)の販売がおもである。

 特典券というのは少しわかりにくいかもしれない。一部の運営によっておこなわれているCDのリリースイベント(リリイベ)で見られるケースの話だ。CD1枚を買うごとに特典券が配られ、1枚だと握手、2枚だとチェキ、といったふうに枚数ごとに特典が変わっていくのが、アイドルのリリイベでは一般的なあり方だ。ところが、ある運営のリリイベでは、1枚買うごとにクジを引く権利が1回与えられる。そのクジのなかには指名したメンバーと写メを撮れる券から、特定メンバーとの食事オフ会参加券、特定メンバーとのディズニーランドオフ会参加券までのさまざまな券がふくまれている(ちなみにオフ会は全メンバー合同であり、運営がもちろんついてくる)。また、リリイベにはその事務所に所属するほかのグループもゲストで出演するのがつねであり、そのグループのメンバーに対する特典券もクジのなかにはふくまれている。ゆえにクジ券欲しさで他オタもCDの複数枚購入に参加することになる。

 自力で目当ての券を引き当てる人もいるが、Aグループのaというメンバーとのオフ会券が欲しいのに、まったく興味がないBグループのbというメンバーのオフ会券を引いてしまうみたいな状況は当然生まれてくる。そこで生まれてくるのが特典券のトレードである。すでに交流があるオタクどうしであれば券の所有者はすぐに判明し、すみやかにトレードがおこなわれるわけだが、ふだん付き合いのないオタクどうしの手元にたがいの求めるものがある場合、その券がすでにだれが引いたかすらはっきりしないということにもなりかねない。そういう状況を改善すべく、胴元めいた存在のオタクやブローカーめいたオタクが自然発生的に機能しだすことになる。

 現場内のさまざまなオタク集団やソロオタクと仲良くできるようなコミュニケーション能力が高く人望もあるオタクが、特定のオタクにオフ会券が集中して渡ったりしないように毎回配慮しながらいろんなオタクの仲介をはかり調停役として機能する様子もあれば、誰かが欲しがってる券を持っている人を見つけてきて斡旋することで謝礼的になんらかの自分の欲しい券(たいていの人は自力で引こうと複数枚購入しているのでクジによる特典券も複数枚、数種類所持している)をもらおうとする人間もいる。そういう人間模様がかいま見られてそこの特典会現場は面白かった。

 まあ、このようになんらかの交換の場で交流が生まれ、仲良くなる場合も多い。


物販は言葉をかわす
機会が多い

 また、物販の場で話すきっかけが生まれるという場合もある。

 アイドルの物販というものは演者によって価格設定や形式やグッズが違ってくる。それについての細かい話は別稿ですることにして、初めてのグループの物販にいこうかどうしようか悩んだ場合、そういった物販レギュレーションについて知りたいわけだが、客の対応に追われていると、運営には聞きにくい状況である場合も多いし、物販テーブルに置かれているレギュレーションのポップを見てもわかりにくいことも多い。そういう場合、常連らしき人に質問してみるということもある。見かけない顔だとみると、こちらから聞くまえから、わざわざ説明してくれる人もいる。そこで顔見知りになり、話すようになることもある。

 常連が新規の人に対して開かれている現場だとこういうこともあるが、逆パターンも当然ある。物販テーブルの回りを常連が仲間うちで囲んで、チェキ列が途絶えてひまになっているメンバーに対して無銭でがっついているような現場だと、排他的な感じが漂い、新規の人は話かける以前に物販列に並ぶことさえ躊躇する感じになってしまう。じっさいにやっているオタクも、新規が入ってきて自分たちの「おいしさ」が減るのを望んでいないのだろうが。低年齢アイドルの現場で多く見られる光景でもあるが、そこでだけあるわけでもない。

 物販でアイドルとじっさいに接している時間はあっというまに過ぎていくものだが、物販列で自分の番を待っている時間はひじょうに長く感じるものだ。まず、ひまだ。知り合いどうしで連番であれば会話すればいいのだが、つねにそういうシチュエーションで並ぶわけでもない。そういう退屈に耐えかねて前後の人に話かける人もなかには出てくる。

 社交的な人だけがそういう振るまいに及ぶとはかぎらない。ずっと同じ現場にいて顔や行動パターンを認識していている人に、ふだんは知り合いとしか話をしないような非社交的なタイプの人が、顔を見慣れているせいで知り合いであるかのようにうっかりと話かけてしまうこともある。それで会話がスムーズにいけばいいのだが、気まずい感じに終わることもあるので要注意だ。

 余談ではあるが、自分の前後のオタクが知り合いどうしで自分を挟んで会話しだすという経験をした人も多いだろう。あれをやられるとひじょうに辛いものがあり、うしろの人と順番をかわってあげてもいいから解放されたい気分になる。


ライブの興奮が
オタクをつなげる

 オタクの社交場として以前は多かったのは、ライブハウスの喫煙所である。都内では新しい条例により喫煙所じたいがなくなってしまったライブハウスも多くなってしまったが、以前はどこにでも存在したものである。

 ライブがおこなわれているのに喫煙所にいるということは、ライブを観ていないということである。日常的にライブハウスでおこなわれているアイドルの対バンライブというものは、新型コロナ禍以前は間を開けずに連続しておこなうのがつねであった。バンドなどの対バンライブであれば、演者ごとに楽器・機材のセッティング時間が必要とされる。アイドルの場合、多くは持参した音源はPA卓から流してもらうだけなのでステージ上でセッティングに費やす時間が存在しない。バンドの対バンライブであれば、セッティング時間が自然と休憩時間になっていて、そこで喫煙所に行ったりするのだが、アイドル対バンのライブの場合は基本的にそういう時間が存在しない。だから、とくに観たくはない演者のライブ中に喫煙所におもむくことになる。

 そういうときに喫煙所にいる面子というのは直前の出番の演者のライブを観たあとに出てきて喫煙している人が多く、同じ演者のオタクである場合が多い。なんとなく顔見知りではあるわけで、社交性があるコミュニケーション能力が高い人がそのなかにいると、流れでみんなで会話を始めることもあり、そこから仲良くなる人も出てきたりする。また、ライブハウスによっては喫煙できる場所がそこしかない場合もあり、喫煙しにきた運営(所属事務所やプロデューサー、ディレクター、マネージャーなどの業務としてアイドルとかかわっている人間を指す)やイベンター(ライブイベントを企画しブッキングすることを専門にしている人間)と会話する場所として機能する場合もある。

 いくつかのシチュエーションを書いてきたが、なんだかんだで交流のなかったオタクどうしが会話を始めるのは、ライブでの高揚感で盛り上がっているときにその場のノリでついつい話してしまうというのがいちばんあることなのではないかと思う。

 SNS上で興味をもった同現場のオタクや、現場で目立つオタクに興味をもってわざわざ話しかけるということもあるかもしれない。それはわりとレアケースで、そういうふうに興味をもっていたとしても、じっさいにコミュニケーションをとりだすのは、そのときの現場のノリでたまたま話す機会が生まれたときなのではないだろうか。軍団的なものに入りたいような動機や、有力なオタクに近づきたいというような欲望があれば、能動的にわざわざ近づこうとするだろうが、ふつうに考えて、そんな人ばかりではないのである。

 物販が始まるのを待っているなんでもない時間。自分の物販は終わったけど物販終わりの挨拶までは観ていこうと会場で溜まっている時間。そういうときにちょっとしたイレギュラーなことが起こったり、何か珍しいものを持っている人がいたり、珍しいトピックを話している人がいると、それきっかけでいままで話したことがなかった人と会話しだしたりすることは多い。

 しかし、あとになって思い返してみると、そのきっかけとなる出来事の多くははとくに盛り上がるようなことでもなく、やはりライブの高揚感で興奮状態にあることがいちばんの条件なのだろう。いくらしょっちゅう顔を合わせるといっても、日常生活のなかで用事もないのに話かけて親しくなるということはふつうないし、あったとしてもひじょうに長い時間がかかることだと思う。それが短時間で一足飛びにおこなわれるのはライブという場が及ぼす興奮状態があってのことである。

 そうやって知り合ったオタクどうしが、ライブ後の飲み会にいっしょにいくようになったり、べつにライブがなくても集まったりするようになったりする。アイドル現場に行くことがなくなったあとも交流が続いていく例もあれば、一方で同じ現場にいるときはライブがなくても集団で集まっていたのに、現場がなくなるとまったく接点がなくなる例もある。


親しくはないが
心地よい関係

 ただ言えるのは、日常での社会的な立場と関係ないところで他人と交流をもつことができるのがオタクの付き合いであり、そこに居心地のよさを感じている人も多いだろうということだ。学生でなくなってしまえば、そういう場をもつことはなかなか難しいのだから。オタクにとって同じ現場で過ごすオタクというのは、アイドルと同じくらい、あるいはアイドル以上に時間を共有しているものであり、そこで生まれる関係性は濃厚なものにならざるを得ない。

 アイドル現場に通っていると、とくに親しくはならなかったけど、忘れがたいオタクというのが一人や二人はいるものだと思う。強烈な個性があった人だからそうなるというわけでもない。

 10年近くまえ、自分が通っていたグループと対バンすることが多い、どちらかというと不人気なグループに熱心に通っている一人の地味な容姿のオタクがいた。そこの専オタ(そのアイドルのみ、少なくともメインに現場の通っているオタク)は有り体にいうと一桁。なかでも、その人がいちばん熱心で実質TOだったのだと思う。最前中央で、か細いきれいな声で毎回一生懸命ミックス(アイドルライブにおいて曲の前奏や間奏などで叫ぶ特定の掛け声、文言、構成、発声など現場ごとにさまざまなヴァリエーションが存在する。地下ほど発声が汚いという定説もある)を打っていた。

 よく対バンになるグループたちには個性的で目立つオタクや激しいノリのオタクがついていることが多く、そういうオタクの動きや汚い声の騒々しいミックスに比べると、その人の動きも声もひじょうに地味だった。ライブにいくたびに会うのでなんとなく挨拶するようになったのだが、それ以上親しくなることはなかったし、よく考えるとたがいに名前すら名乗ったこともないはずだ。ただ、その佇まいに何かよいものを感じていた。

 そうこうしてるうちに彼の推しが不祥事でグループから脱退し、彼と顔を合わせることもなくなった。そんなある日、電車から降りてホームを移動しているときにある車両を見たら彼がたまたま乗っていた。向こうも「あっ」という顔をして話かけようとしていたようなのだけど、そのままドアが閉まり電車は走りだした。なんとなく嬉しい気持ちになった。 

 数年後、別のグループの解散ライブに居合わせたときに彼がいた。始まるまえに軽く話をしたら、彼は不祥事で辞めた推しの活動(グループはクビになったけれど、レースクイーンみたいなものとかグラビアというより着エロみたいな活動は続けていた)をいまだに追いかけていて、いまは現場のアイドルオタクとしては解散するグループを追いかけていたという話だった。彼の現場は今回も一年ほどで終わるようだ。いや、何回かこのグループを観たけど彼に会わなかったので、本当に最近追いかけだしたのかもしれない。「いまどこの現場にいっている」みたいな話をして、とくにそれ以上話すこともなく会話は終わった。彼は最前中央で、か細いきれいな声で一生懸命ミックスを打っていた。昔と変わらない様子で。なんとなく嬉しかった。

 現場で何人ものオタクと知り合い、いろいろなかたちで付き合ってきた。そんななかでも、べつに親しくはならなかったけれど名前すら知らない彼のことは忘れないような気がする。会ったところで話すこともあまりないけれど、彼の存在はなんとなくよいものとして自分のなかに残っていて、彼が実直にミックスを打っている姿や声をいまだに思い出し、何か暖かい気持ちになるのだ。

 

ロマン優光(ろまん・ゆうこう)
1972年高知県生まれ。ソロパンクユニット「プンクボイ」で音楽デビューしたのち、友人であった掟ポルシェとともに、ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」を結成。ディレイ担当。WEBサイト「ブッチNEWS」でコラム「ロマン優光のさよなら、くまさん」を隔週連載中。
著書に『90年代サブカルの呪い』『SNSは権力に忠実なバカだらけ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』『日本人の99.9%はバカ』(いずれもコア新書)、『音楽家残酷物語』(ひよこ書房)。