アイドルとのつきあいかた│第8回│地下アイドルオタクの敷居は低い│ロマン優光

アイドルとのつきあいかた ロマン優光 ろまん ゆうこう 〈不健全な疑似恋愛関係〉から〈健全な共犯関係へ〉──これからのアイドルとオタクの関係性を考察します。

〈不健全な疑似恋愛関係〉から〈健全な共犯関係へ〉──これからのアイドルとオタクの関係性を考察します。

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第8回
地下アイドルオタクの敷居は低い

チケットは
予約のみ現地払い

 この連載はおもに地下アイドルオタクについて書かれたものであるが、地下アイドルオタクではない人、まったくそういった世界と接点をもたなかった人も当然読んでいる。自分のなかではあたりまえすぎるようなことも、そういった人からは意味不明であったり、システムが理解できないということも生じてくる。

 どうやってアイドルを知るのか? ライブに行くまでにはどのような過程があるのか? 準備しなければならないものがあるのか?

 そういった素朴な疑問について、今回はふれていこうと思う。

 「ライブに行くためにはまず、チケットぴあのようなサイトでチケットを購入しなければならない。」

 そういうふうに思っている人が一般的には多い。しかし、小さなライブハウスでおこなわれるようなライブでは、アイドル以外の演者も含めて、そういった手順でチケットを購入する人はまずいない。「そんなことはない」と反論する人もいるかもしれないが、その人が考えている小さなライブハウスというものが、実際には大きなライブハウスだということでしかない。

 そういった大手のチケット販売サービスをオタクが使用する機会というのは通常限られている。大規模会場での大がかりな対バンイベントやフェス的なイベント、あるていど以上動員があるアイドルが中規模以上のライブハウスでおこなうワンマンや生誕などの記念的イベントくらいだろう。

 では、日常的におこなわれている小さなライブハウスのイベントのチケットはどのようにして確保するのか?地下の対バンライブでは基本的に事前にチケットを購入するのではなく、予約のみで当日現地で支払うのがふつう。運営にTwitter上でリプやDMで予約するか、Tigetなどの小規模なチケット販売サービスを利用して予約するのが一般的だ。ライブで手売りチケットを販売している場合もあるが、それはワンマン、周年記念、生誕などのライブの販売促進のために、サインやチェキなどの特典をつけておこなわれている特別なものであるのがふつうだ。

 以前はTwitterで運営のアカウントに予約するのが主流だったが、Tigetのような、チケット管理を委託する手数料も安く、発券の必要性がない、いろいろと小回りの効く(事前に購入するのではなく予約のみで当日現地での支払いが可能、イベントでまとめて予約ページをつくり演者ごとに予約指名を振り分けることが可能など)チケット販売サービスが出だしてからは、それを利用する運営やイベンターが増えている。しかし、まだまだ運営に直接予約する形式をとっているところも多い。

 新型コロナ流行でキャパの半分に入場者数がおさえられるようになるまえは「行けるかどうかわからないけど、とりあえず予約だけお願いします」というような予約の仕方も運営との信頼関係があれば許されていたくらい、アバウトな部分もあった。ふらっと当日に現場に行って入場できるような総動員数であったりするライブが多かったが、予約で前売り扱いと当日券とでは500円料金が違い、週に何日もライブに行くような人間にとっては500円の差も重なれば大きな金額になるわけで、このような予約の仕方も生まれるのである。あくまで運営と信頼関係ができるくらい現場に通っていて初めて成り立つものではあるが。

 ちなみに、人数制限がある現状でも、当日にライブに行けば入れるような動員数のイベントはいまでもふつうに存在している。

 対バンライブという形式上、全体の売上を各演者の動員数ごとに振り分ける必要がある。 小規模なライブハウスでおこなわれている対バンライブに出演しているクラスのアイドルは決められたギャラを提示されて出演しているのではなく、チケットの売上の何%か、もしくはチケット一枚売れるごとに何円のバックというかたちで出演報酬が決められているのだ。そのため、各運営がおのおの予約をとる必要性が生じる。演者ごとに予約特典が独自に設定されていて、その内容によって予約を入れる演者をそのつど決めるオタクも多い。


ペンライトは
必須アイテムではない

 ライブ前に準備するもの、準備しておかなければならないものはあるのだろうか?

 それは、その人による。あるいはその界隈による。あくまでそういうものであり、全オタク共通の何か事前に準備しなければならないことや準備するものが存在しているわけではないのだ。

 地下アイドルの世界と接点がない人のなかには、アイドルのライブといえば「メンバーごとに設定されたイメージカラーに色を合わせたペンライトや法被を装着したオタクに埋め尽くされて奇妙にペンライトを振り回している」というイメージをいまだにもっている人も多い。しかし、現実の地下アイドルの現場は違う。

 ペンライトに関していえば、演者ごとに様子が違ってくる。オタクのほぼ全員が基本的にペンライトを持っている現場もあれば、持っている人と持ってない人が混在する現場、まったくペンライトを持った人がいない現場も存在する。演者・現場によってライブの楽しみ方にもいろいろな違いがあるのだ。

 ペンライトを降る。振りコピといわれている、アイドルのダンスを客席でコピーする行為。ツーステ(正式にはツーステップ。ラウドロックのライブでよくみられる、片足で二回づつケンケンを交互に繰り返しながらその場で反復横跳びをするような下半身の動きと、腕を∞を描くように振る上半身の動きを合わせたもの)と呼ばれるダンス。ミックス(第7回記事参照)などの声を出す行為。ケチャと称される落ちサビパート(ラストのサビの前に配置されるバックの楽器の音を減らしてボーカルを際立たせるようにしたサビパート)でアイドルに向けて両手を掲げる行為。モッシュやダイブなどの激しく暴れる行為。地蔵。こういったものが混在し、現場ごとにその割合が違う。そのうちの何かがあっても、別の何かはまったく見られないこともふつうだ。

 ちなみにモッシュという言葉も、それが指す行為は現場ごとに微妙に違う。人が集まって圧縮するだけのたんなる押しくら饅頭めいたものから、ラウド系バンドで見られるような腕を激しく回すようなモッシュまで、いろいろなものが一様にモッシュと呼ばれている。これはオタクとしての世代差や、演者の音楽性によって集まるオタクの音楽的嗜好の差によって生じているのだろう。

 生誕イベント・卒業イベントなどではメンバーカラーに会わせて色が揃えられたサイリウムと総称されるケミカルライトがオタクの有志によって来場者に配布されるのが一般的だが、それはあくまで特別な日の特別仕様だ。これとペンライトを混同して、オタクは光る棒をいつも振っているというイメージをもっている人も多いかもしれないが、それはあくまで誤解である。

 ペンライトが主流の現場であるからといって、一般人の想像するような奇妙な動きでそれを振り回している人がいるとは限らない。あるていど以上現場の規模が大きいとこでは集団サイリウム芸も見られるようだが、そういったオタ芸は小規模な地下アイドル現場ではとくに主流というわけではない。そういったオタ芸を打つ人が現れると、奇異の目で周囲から見られる現場のほうが地下では多いのではないだろうか。アイドルに接点のない人が想像するような、テレビのバラエティー番組で紹介されていたようなタイプのオタ芸は少なくとも地下アイドル現場では主流ではなく、現在では声優現場のほうに多く見られるという話もあるが、筆者は声優現場については知識がないためになんともいえない。

 法被を着用しているオタクについていうならば、基本的には存在しないというのに近い。わざとアイドルオタクの古いステレオタイプのコスプレをしてふざけている人はたまにいる。運営側がふざけて公式グッズとして販売する例もある。現状で法被を着たオタクがいるとしたら、悪フザケによるものだと解釈するのがふつうだろう。ただ、いまだに古いスタイルを守っている頑なオタクが存在する可能性もあるので、ぜったいにそうであるとはいいきれない。

 自分は通っている現場の傾向もあってペンライトなども持たないし、ふだんの外出時と同じ感じで特別なものも持たず、特別な準備もせずに現場に行っているが、人によってはいろいろと持つもの、やることがある人はいるだろう。

 アイドル側から認知を得るための小道具、たとえば自分の名前を書いた名札だったり、手にはめるタイプのマペットだったり、小型のLEDプレートみたいなものを持ち込む人もいる。また、現場全体の盛り上がりを考え、コールなどの書かれたスケッチブック(詳細は次の項で)を持ち込む人もいる。その他、笛などの鳴り物、楽器(ライブ中にアイドルの楽曲とセッションがなされた)、炊飯器(ミックスのさいに頭上にかかげられた)、フライパン(鳴り物として使用)、アジフライ(ライブ中に投げられた)、戸板のようなもの(ひとりのオタクをのせたまま複数の人間で持ち上げ、ライブ中に会場を走りまわった)など、さまざまなものがライブを盛り上げるために会場に持ち込まれるわけで、人によっては準備が大変だとは思うが、べつにそういうことをする必要が全員にあるわけではないので、気にせず手ぶらでいっても問題ない。


自然と覚え、生まれる
ミックスやコール

 コール(曲間に入れられる掛け声の総称。ミックスはこれの変種)やミックスなどは演者ごとにオリジナルな文言がある場合も多く、初見のひとには何をいっているかわからない場合もある。そういった新規の客や対バンの客がいっしょに声を出せるようにという配慮から、その文言を大きな字で書いたスケッチブックなどを用意してきて、フロアー前方でそれを客側に読めるようにかかげる、現場を盛り上げることに対する使命感の強いオタクも存在する。

 ミックスやコールなどというものは現場でほかの人がやってるのを聞きながら自然に覚えるようなものだと個人的には考えている。そういう感じの現場にしか行ってなかったからというのもあるかもしれない。もちろん、初心者のうちはネットで基本的なミックスの文言や構造を覚えたりするのはふつうにあるが、あるていど以上オタク歴を重ねると自然に新しいアレンジに対応していくようになるのが大半だろう。

 そうやってなれていくと、新しい曲、初見のアイドルでも曲構造がオーソドックスであれば、なんとなくミックスやコールを入れられるようになる。また、構造的にそういったものを差し挟むのが難しい曲に、それを入れていくことに挑戦するようになったりもする。

 個人が現場で勝手にはじめたオリジナルのミックスやコールが、ほかの人が真似しだすことで定番のものになっていく流れもある。一人のオタクが勝手にやっていたことが、2年後くらいには最初に始めた人がまったく観にいかない現場でもおこなわれている光景も何度か見たことがある。ああいったものは、自分の行くような現場では、自然に現場で覚え、自然に現場で新しいものが生まれ、それを自然と真似するものが現れ、時として自然に他現場に広がっていくものだと個人的には思っている。

 しかし、人によっては現場だけでなく事前に練習をしている人もいる。個人で自宅でやっている人もいるだろうし、わざわざオタクどうしが集まってやる場合もある。

 以前、フジテレビの「ザ・ノンフィクション」というドキュメント番組で地下アイドルとアイドルオタクがとりあげられていたことがある。番組中、オタクがカラオケ店に集まってコールの練習をしているシーンがあり、ひじょうに衝撃を受けた。とりあげられているアイドルは秋葉原のサーキット型の出演数が多い対バンライブで自分が当時見ていたアイドルと被ることが何度かあり、そこのオタクとも何度もニアミスしていたわけだが、同じ会場にこんなに異文化のオタクがいたのかという驚きである。

 それまで自分の通っていて現場では、ミックスは個人芸の延長というか、それぞれが癖の強さを競っていたようなところがあり、ミックスをみんなで練習してきれいに揃えるという発想がなかったからである。集団芸としてのまとまりを求めるなら、たしかに集まって練習する必要はあるのだろう。集団でのサイリウム芸は揃ってたほうがきれいなので集まって練習している人たちは珍しくないのだが、それと同じようなものだ。

 また、ツーステも現場以外で練習している人は多いのだろうなと思う。あれも、ふだん身体を動かしなれてない人が急にやれと言われてもできないだろう。年配のいかにもふだん運動してないような人がツーステを決めている姿を見ると、この人はちゃんと練習しているんだろうなと感心する。


好みのアイドルを
見つける小技

 事前にネットでSNSメンバー全員の顔と名前、音源で楽曲、動画でコールを入れる位置まで完璧に予習してからライブに挑むオタクもいるが、地下に通えば通うほど、なんか現場でぜんぶ把握するようになるような気もする。現場数が増えれば増えるほど、いちいち予習している暇などなくなるのだ。

 いま行く現場がない人、新しい刺激を求めている人は動画を参考にすることは多いが、勤勉にぜんぶをおぼえようとかではなくて、アバウトに感じを掴もうという感じだ。気に入れば何度もくり返し見て、いろいろおぼえることにはなるが、それは事前に勉強しているということではない。

 余談ではあるが、未知の新しい地下・地方アイドルを探すのに筆者がよくやっていたのがYouTube の検索ボックスに「アイドル 初恋サイダー」「アイドル 福岡 nerve」というふうに入れて検索するという方法である。

 多くの地下・地方アイドルというのは当初はオリジナル楽曲が一曲ていど(あるいは皆無)しかない状態で活動をスタートし、有名アイドル楽曲、あるいはボカロ曲やアニソンなどのカヴァーをやることで15~20分ワンセットくらいのライブを成立させている。カヴァーされやすいアイドル楽曲には『初恋サイダー』『nerve』『BiSH-星が瞬く夜に-』『きみわずらい』などがあるのだが、そのアイドルのめざしている方向性によってカヴァーする楽曲の傾向に違いが見られることが多い。

 少しまえだとラウド系・サブカル系であれば『nerve』のカヴァーをやっている可能性が高いので、「アイドル 曲名」、特定の地方に限って探す場合はそれに地方名を入れて検索し、本家の動画のあいだに出てくるだれだかわからないグループの動画を片っ端からチェックしていくとまれに好みに合うアイドルが見つかることがある。

 コンセプトなく『初恋サイダー』『走れ!』『nerve』をまとめてカヴァーしているグループもあれば、サブカルを謳いながら『初恋サイダー』がレパートリーに入っているグループもあり、確実な方法だと断言できないが、それなりに成果があがる方法ではある。

 しかし、これは労力のわりに成果が少ないのはまちがいなく、よほど未知の新人やマイナーなグループを探したい人にしかおすすめができない。ふつうにYoutubeのおすすめ動画で出てきたアイドル動画を見ていったり、オタクがあげている自分の通っている現場の動画を見つけたら、現場が被っているということは好みが似ている可能性が高いので、その人のアカウントやチャンネルをチェックしていくといったやり方をとったほうが、より簡単に好みの傾向のグループを見つけることができるとは思う。

 ライブに行くにあたって、人によって事前に準備することはさまざまだ。しかし、事前に予約をすることはみんなやらなければならないことだろう。たとえ、当日券で入れるにしろ、予約すれば当日券より500円ほど安くなることがほとんどであるし、予約特典がついてくるのだから。逆にいえば、地下アイドルのライブにいくのに予約以外のことをする必要は必ずしもないということでもある。

 

ロマン優光(ろまん・ゆうこう)
1972年高知県生まれ。ソロパンクユニット「プンクボイ」で音楽デビューしたのち、友人であった掟ポルシェとともに、ニューウェイヴバンド「ロマンポルシェ。」を結成。ディレイ担当。WEBサイト「ブッチNEWS」でコラム「ロマン優光のさよなら、くまさん」を隔週連載中。
著書に『90年代サブカルの呪い』『SNSは権力に忠実なバカだらけ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』『日本人の99.9%はバカ』(いずれもコア新書)、『音楽家残酷物語』(ひよこ書房)。