保護者の疑問にヤナギサワ事務主幹が答えます。|第6回|柔道着って何回使うの?|栁澤靖明

第6回
柔道着って何回使うの?
栁澤靖明
〈──Hidden Fee 意識したつもりでも見えにくい あれもこれも隠れ教育費〜♪〉
はい、歌手デビューしました。デビューシングルは、「隠れ教育費」研究室・公式テーマソング「隠れ教育費ファインダー」です。ぜひ音楽配信サイトからダウンロードよろしくお願いいたします!⋯⋯って、一度これやってみたかっただけで、歌ってはいません(笑)。でも、「隠れ教育費ファインダー」という曲は実在します。音楽事務検討委員会(RENさん&TERUさん、おふたりとも学校事務職員)というロックバンドがつくってくれました♪ ステキな曲をありがとうございます★
お気に入りのフレーズは
〈Hidden Fee リコーダー これも教育費 あれもこれも隠れ教育費 「義務教育はこれを無償とする」 その陰に隠れ リコーダー奏でる音色 fee あれもこれも隠れ教育費 見えにくいコストに耳澄ませ 子どもの権利保障と無償 School life with Rights & Smile〉
メロディーにのせて聞きたくなりましたよね? ぜひYouTubeでお聞きください♪ 「隠れ教育費ファインダー──Hidden Fee」(Words:REN・「隠れ教育費」研究室/Music:REN)
♪ Together──Let’s sing about it. ♪
BGM「隠れ教育費ファインダー」の準備はいいですか?
それでは、今月のお題「柔道着」について語りまくります。柔道といったら猪熊柔(通称:やわらちゃん)が主人公の漫画『YAWARA!』(浦沢直樹)、そのテレビアニメの主題歌は「ミラクル・ガール」(永井真理子)です。でも今回のはなしは、柔道公式ユニフォームである「柔道着」を主人公とします。
体育の授業で柔道をやる中学校は多いです。となると、「柔道着」が必要ですね。身につけるモノだから、体操着や制服のように私費負担で買ってもらうことが多くなっているようです。私費負担であれば、授業が終われば家に置くことになります。
家で柔道やりますか? やらないですよね。自宅における活用法はあるでしょうか。防寒着(生地厚いからどう?)、バスローブ(雰囲気似ていない?)、パジャマ(眠れないかな?)⋯⋯なかなか有効活用が難しいです。でも、一着4,000円~5,000円するんですよね。使わなくなった「柔道着」の活用術でも募集しましょうか。

もうひとつの問題は、使用期間です。体操着はメチャクチャ着ますよね。なぜか、中学生のアンダーウェア=体操着になっています。それくらい活用するなら別かもしれませんが、柔道の授業回数って、多くても二桁前半です。
柔道着、どう考えればいいんですかね~。
♪ Together──Let’s think about it. ♪
とりあえず柔道の授業について理解しておきましょう。柔道とは、中学校学習指導要領(平成29年告示)の保健体育で武道に属している単元です。武道は、1年生と2年生で必修とされ、3年生では球技or武道の選択となっています。武道の授業時数は「内容の習熟を図ることができるよう考慮して配当」(同要領)とあり、〇回以上やらなければならないとは書かれていませんし、標準的な時数も定められていません。そこで、ある教科書会社の年間指導計画(案)を調べてみたところ、年8回とされていました。
学習指導要領では、柔道のほかに剣道や相撲も代表的な武道となっています。柔道をやらなくてもいいけど、剣道か相撲はやってね! というわけです。1年生=柔道、2年生=剣道、3年生=相撲でもダメじゃないけど、「段階的な指導」が必要だからあんまりよくないよと書いてあります。また、日本「固有の伝統と文化」として、「空手道、なぎなた、弓道、合気道、少林寺拳法、銃剣道など」を履修してもよいともあります。
柔道なら「柔道着」が4,500円程度、剣道は防具までは買わないと仮定しても、「竹刀」購入で2,500円程度の費用がかかります。柔道には「畳」も必要ですね。相撲は土俵をつくるのがたいへんだし、相撲をやる学校って少ないですね。もちろん、校庭に土俵がある学校もないわけではありません(高額だけど、土俵のようなマットセットも商品としてはあります)。ほかに「まわし」が必要ですね──中学生サイズで4,000円程度でしょうか。短パンのような相撲専用パンツ(3,000円程度)の上から巻くことが推奨されているため、柔道着より高くなりますね。でも、それこそ体操着の上から巻けばいいし、どこまで相撲的雰囲気を出すのかは学校によりそうですが、「まわし」がないと相撲技の多くはできないから、やっぱり「まわし」は必須です。
文部科学省は、「学校で使われる(⋯)教材は、子どもたちの教育効果を高め、児童生徒の基礎的・基本的な学習理解を助ける上で極めて重要であり、その充実は不可欠」とし、「学習指導要領の趣旨等を踏まえ、『教材整備指針』」を定めています。さらに、その「教材整備のための経費は、各学校や各地方公共団体が(⋯)安定的・計画的な教材整備ができるよう、『義務教育諸学校における教材整備計画』を策定し、(⋯)単年度約800億円の地方交付税措置が講じられ」ていると説明しています。
前述したように、学習指導要領で定めている学習内容(=武道)を実施するため、文部科学省は必要な教材整備(=柔道着)のことも考えています。たとえば、中学校教材整備指針には、「柔道着」や「剣道防具セット」「竹刀」「簡易まわし」は、ひとりひとつ使えるように、「柔道畳、畳ずれ防止シート」はふたりでひとつ使えるようとリストアップしています。
しかし、です。上で説明されている「地方交付税措置」というのは、その使途を特定した財源ではないため、教材整備に使わなくても問題ないんです。そのため、文部科学省のほうは「柔道着」や「竹刀」を購入する分のお金は自治体に渡っているといい、自治体ではそこに予算をつける余裕がなかった、ということが起こります。どうなんでしょうかね。これ。
とりあえず、ここでは「柔道着」の問題をフィーチャーしましょう。
じゅうぶんな公費が予算化されていれば、文部科学省の示すとおり、ひとりひとつ「柔道着」を買えます。でも、毎年の入学生に買っていくと相当な費用と量になりますし、個人所有では「その後の活用問題」が生じます。2025年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2025について」では、「学用品の学校備品化の取組周知を推進する」(p.46)と書かれました。毎年、入学生にプレゼントするんじゃなくて、「学校備品」にする方法を推奨しています。むしろ、そのほうが公費も効率的に使えますしね。「柔道着」をそろえたら、次は「竹刀」……のようにして、摩耗してくるタイミングでまた「柔道着」にお金を使えばいいんです。
水泳の授業も期間限定&回数少ない代表選手でありながら、「水着」や「ラッシュガード」が必要です(事務主査エディション・第19回「プールはけっこうお金がかかる?」)。でも、「水着」の学校備品化はちょっと難しそうですよね。でも、「柔道着」ならどうでしょうか? ワンシーズンは特定の子に貸し出し、洗濯して返してもらうような方法が考えられます。学校の洗濯機で洗ってもいいし、40着くらいなら学校予算でクリーニングしても、買うより安いでしょう。
買う以外にも、借りるという選択があります。大規模校になると40着では足りませんし、2クラス合同授業の場合は80着必要です。そうなると、保管場所にも困ることがあるかもしれません。いまのレンタル業界には学校備品もそろっていて、柔道着もあります。1か月使い放題で1枚1,000円前後からありました。保健体育の授業は週3回(標準)なので、うまく組むことができれば、1か月分の費用ですみますね。クリーニング代も含まれているので、お得かもしれません。その代金を公費で支出できればベストですね。私費負担で3回(1~3年)借りても、費用としてはトントンです。
選択肢をいくつか示しましたが、それを決めるのは学校です。そんななか、学校の貸し出し用を使うか、個人購入(or 個人レンタルなど)とするかという選択肢を用意している学校もあります。
結論としては、柔道の授業時間に「柔道着」があればいいんです。この基本原則をだいじにした検討が必要になります。もちろん保護者の意見も重要です。
そこで登場するのが、まさにいまごろ学校から連絡が来るであろう「保護者アンケート」です。主査エディション・第12回「保護者アンケートにどう答えたらいいの?」を参考にしてみてください。そのときにも書きましたが「年に数回しか使わない柔道着ですが、数千円しました。レンタルやリユースという方法も導入できないでしょうか?」などのひとことから変わることもあります。
率直なご意見──(少なくともボクは)お待ちしております。
Let’s think about it.
北海道のある地域では、アイスホッケーをやるそうです。「【保健体育編】中学校学習指導要領(平成29年告示)解説」では、巻末資料の「ゲーム、ボール運動、球技にみる『型』の特性と例」として、ゴール型にアイスホッケーが書かれています(p.264)。球技って「ゴール型・ネット型・ベースボール型」に分類されていて、アイスホッケーは「ゴール型」球技として紹介されています。むしろ、その巻末資料にしかアイスホッケーは登場しません。もちろん、地域の特性を考慮することは重要です。アイスホッケーのはなしを聞かせてくれたひといわく、ホッケーリンクは校庭につくるらしいですが、防具っていうんでしょうか、あの装備品一式は私費負担みたいなんです。しかも、柔道より少ない回数⋯⋯もっと高額⋯⋯隠れていますね、隠れ教育費。
これからも「隠れ教育費」研究室では、〈見えにくいコストに耳澄ませ 子どもの権利保障と無償 School life with Rights & Smile ──〉をかかげて活動していきます。
栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。埼玉県の小学校と中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究している。
おもな著書に『学校事務職員の実務マニュアル』(明治図書)、『学校徴収金は絶対に減らせます。』『事務だよりの教科書』(ともに学事出版)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)、『教師の自腹』(東洋館出版社)、編著に『学校事務職員の仕事大全』『学校財務がよくわかる本』(ともに学事出版)など。
![[Edit-us]](https://www.editus.jp/wp-content/uploads/2021/01/c04ff33146ebacd91127e25459d47089-1.png)


