保護者の疑問にヤナギサワ事務主幹が答えます。|第3回|運動会の費用はだれが出す?|栁澤靖明

保護者の疑問にヤナギサワ事務主幹が答えます。 栁澤靖明 学校にあふれる「それ、どうなの?」に現役学校事務職員がていねいに答えます。保護者を助けるいろいろな制度も紹介。

学校にあふれる「それ、どうなの?」に現役学校事務職員がていねいに答えます。保護者を助けるいろいろな制度も紹介。 

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第3回
運動会の費用はだれが出す?
栁澤靖明

 

 

 

 みなさま、ごきげんいかがでしょうか。「隠れ教育費」研究室チーフディレクターのヤナギサワでございます。隔月連載になったことで、時事ネタが偶数月のコトやモノしか扱えない雰囲気ですけど⋯⋯「そんなの関係ねぇー、そんなの関係ねぇー」と小島よしお氏のネタで勢いをつけて、該当月の前後もその範囲としちゃいます。

 さて、今月の順番は「コト」です。コトといったら行事。マイナビニュースの記事によれば、教員が楽しみにしている行事の第1位は卒業式(事務主幹エディション・第1回「どう考える? 卒業式の費用」で扱いました)、第2位は修学旅行(事務主査エディション・第20回「修学旅行っていくらかかるの?」で扱いました)、そして第3位は運動会・体育祭(以下、運動会)だそうです。ということで今回は、運動会にかかる費用を考えていきましょう。


 

♪ Together──Let’s think about it. ♪


 

 運動会では、校庭にラインを引いたり、椅子を出したり、大玉や引綱を用意したり、テントを張ったりなんかもします。たとえば、ラインを引くためのパウダーは、体育科の消耗品として授業と共用できます(もちろん、運動会用に買い足し必須)。椅子は、教室で使っている自分の椅子を持ち出せば、費用不要です(教室へもどすとき、椅子を拭くための雑巾は必要ですが、そのためにわざわざ買うこともない)。このあたりだと、そんなに費用がかかるイメージではありませんね。

 大玉や引綱などは、運動会用備品として買う必要がありますね(他校から借りたり、レンタルショップを利用したりすることもなくはありません)。さすがに私費負担で購入し、運動会が終わったら各家庭にも貸し出し可──としているような学校は聞いたことありませんから、公費負担が当然ですね。ちなみに大玉の価格、大きいものだと5万円を超えますし、引綱も長さによって違いますが同じくらいの価格です。それに付属して、空気を入れるためのコンプレッサー、引綱を巻いて保管するためのリールも必要となってきます。もちろんこれらも公費でしょう。

 テントについては、拙著『隠れ教育費』でも紹介しています。基本的には、公費で購入するべきものですが、寄贈品となっている場合もよくあります。それを促すような広告サイトがあるため、全国的な状況もそんな感じなんでしょうね。たとえば、PTAや後援会からの寄付が多くみられます。運動会に参加したとき、テントを確認してみましょう。「〇〇期・卒業記念品」や「〇〇学校後援会(PTA)」と書かれている場合は、寄贈されたものですね。テントもサイズや形状により価格は違いますが、地域の盆踊りや祭りなどでよく見るサイズだと10万円を超えていきます。

 さて、ここからが本番です。テント寄贈問題も扱うべきことですが、運動会用品で私費負担となりやすいモノの代表選手的プログラム⋯⋯それは、表現! です──といっても、なんのこっちゃですよね。おもに小学校の運動会では、走ったり投げたりとったりするような観戦種目だけではなく、踊ったりする鑑賞種目もあります。その踊りのことを表現ダンスといって、校内では「表現」と表現します(笑)。ダンスなので、リズムにのったパフォーマンスもさることながら、衣装や小道具もポイントになっていきます。

 たとえば、リストバンドやステッキ、ポンポン、フラッグ、はっぴ、鳴子などがよく使われます。演劇ではなく運動会種目なので、服装のベースは体操着です。そのため、ちょっとした衣装や小道具があると“映える”ってわけです。しかも教材販売業者などが運動会の時期にあわせてパンフレットを配ってくださいます。もちろんなんちゃって系なので、それが意外と安いんです。数百円くらいだと「映え」と「費用負担」を天秤にかけて「映え」が勝利するんですよね。小島よしお氏のネタを披露するダンスなら「海パン1枚」だし、水泳用の水着が転用可能です(冒頭ネタのフラグ回収。現代的な問題がいろいろと生じそうなので、これ以上はふれません)。

ハチマキは演出系小道具でしょうか(公費? 私費?)

 じつはこの問題、深いんです。⋯⋯「海パン」の件ではなく、学校によっては伝統的な鑑賞種目もあります。その場合、高学年になるとアレが踊れる! っていうあこがれにもなるんですよね。「アレ」を批判したいわけじゃないので、「アレ」は想像してください。「アレ」は〈はっぴ〉がポイントであり、全員着用させるわけです。もちろん、そんなに高価ではなく(ポリエステルのサテン生地製品)1,000円弱ですね。それでも1,000円くらいはするわけです。あるイベントで聞いた話ですが、その学校も伝統的に「アレ」を踊るらしく、3人きょうだいで3着購入し、パジャマにも普段着にもならず、タンスで眠っているそうです。練習でボロボロになっても困るし、衣装を着るのは本番だけという場合も多いため、1,000円×3=3,000円の〈費用負担〉は当然のこと、それ以上に〈もったいない〉問題が表れてきます。

 そして、その学校ではひとつの解決策を生みだしました。タンスに眠っている〈はっぴ〉の寄附を募集したそうです。もちろん、それ自体は保護者に負担をお願いした費用から購入したものなので、使用後すぐに寄附というルーティン化ができるわけではありません。あくまでもタンスに眠っているものがあれば、というスタンスで募り、不足分は公費でそろえたそうです。まさに伝統を逆手にとった実践だと思います。

 運動会は、学校や保護者、子どもにとっても一大イベントでしょう。しかし、あくまでも教育活動です。学校行事全般にいえることですが、その行事の「ねらい」を再確認することが大切ですね。もちろん、行事を企画する学校だけではなく、保護者の立場でもそれを知っておくことが必要です。実施者も観覧者も、行事の主役である子どもたちを支えるアクターです。

 最後に、冒頭でも参照した学習指導要領(小学校)の「ねらい」を確認しておきましょう。「健康安全・体育的行事」のねらいとして、「心身の健全な発達や健康の保持増進、事件や事故、災害等から身を守る安全な行動や規律ある集団行動の体得、運動に親しむ態度の育成、責任感や連帯感の涵養かんよう、体力の向上などに資するようにすること」があげられています。その解説で、今回のテーマにかかわるところも紹介しておきましょう。ちょっと長くなるため、要約すると「実施に至るまでの指導の過程を大切にする」「体育科の学習内容と関連を図る」「学校の特色や伝統を生かすことも大切である」「児童以外の参加種目を設ける場合は、運動会の教育的意義を損なわない範囲にとどめるよう配慮する」ことが書かれています。


 

Let’s think about it.


 


 今回は、運動会を費用面という裏側からみてみました。ちょっとした疑問の解決につながったら幸いです。──もし、〈はっぴ〉に限らず、運動会の衣装や小道具でもったいないなぁ⋯⋯というものがございましたら、学校にお声がけくださいませ。途中で紹介した「アレ」を踊る伝統校も保護者の声がきっかけでリユースを始めたそうです。


 次回は、夏真っ盛りの8月にお会いいたしましょう。それではごきげんよう~。

 

栁澤靖明(やなぎさわ・やすあき)
「隠れ教育費」研究室・チーフディレクター。埼玉県の小学校と中学校に事務職員として勤務。「事務職員の仕事を事務室の外へ開き、教育社会問題の解決に教育事務領域から寄与する」をモットーに、教職員・保護者・子ども・地域、そして現代社会へ情報を発信。研究関心は、家庭の教育費負担・修学支援制度。具体的には、「教育の機会均等と無償性」「子どもの権利」「PTA活動」などを研究している。
おもな著書に『学校事務職員の実務マニュアル』(明治図書)、『学校徴収金は絶対に減らせます。』『事務だよりの教科書』(ともに学事出版)、『本当の学校事務の話をしよう』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「学術研究賞」)、共著に『隠れ教育費』(太郎次郎社エディタス、日本教育事務学会「研究奨励賞」)、『教師の自腹』(東洋館出版社)、編著に『学校事務職員の仕事大全』『学校財務がよくわかる本』(ともに学事出版)など。