他人と生きるための社会学キーワード|第8回|若者支援|小山田建太

リレー連載 他人と生きるための社会学キーワード 毎号、ひとつのキーワードから「問題を考えつづける」ための視点を伝えます。社会学者から若い人へのメッセージ

ひとつのキーワードから「問題を考えつづける」ための視点を伝えます。社会学者から若い人へのメッセージ。

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若者支援
地域若者サポートステーション

小山田建太

 多くのメディアが指摘するように、昨今の日本社会は情報化やグローバル化をはじめとしたさまざまな社会構造の著しい変容を経験しつづけてきており、今日の新型コロナウイルス感染症の感染拡大とはそのような事態にいっそうの拍車をかけるものとなっているといえよう。そしてこれらの社会変動の影響の下で懸念すべきこととは、個々人の社会生活の不安定化であり、とりわけこの不安定化のリスクは若年層に遍在する傾向にあることが、多数の先行研究によって明らかにされている。したがってこのような若者の生活やキャリアを優先的に支えていく必要があり、以上のような主旨からそれぞれの地域で営まれる豊かなサポートが、若者支援である。

 また各地域での若者支援の活動の充実化を目指し、今日では多くの公的な支援施策や事業が展開しているが、そのなかでもあらゆる若者にとっての「身近に相談できる機関」として存在しているのが、「地域若者サポートステーション」である。この地域若者サポートステーション(以下、サポステ)とは、働くことに悩みを抱えている15~49歳の人に対して、就労に向けた支援をおこなっている公的支援機関である。ただ一方で、このサポステの認知度が全国的に十分に高いとは言いがたく、ゆえにサポステの重要性が深く認識されるに至っていない現状もあるのではないだろうか。そこで以下では、公的な若者支援ならびにサポステの存在がいかに重要であるかについて、具体的な社会状況を参照しながら確認していきたい。

 はじめに現代の日本社会では、就業状態が不安定な若者が一定数存在している。2020年の総務省の「労働力調査」によれば、15~34歳の学校を卒業した若者のうち、パートやアルバイトで生計を立てる若者(いわゆる「フリーター」)の数は136万人であり、現在は失業状態にあって求職活動をおこなっている「完全失業者」の数は、同年齢層で72万人と推計される。

 加えて、そのような状況にあって就業機会から一定程度遠ざかっている若者もいる。具体的には、15~34歳の非労働力人口のうち家事も通学もしていない者を指す「若年無業者」(いわゆる「日本型ニート」)の数は、2020年の「労働力調査」において69万人となっており、そのほかに、15~39歳の若者のうち学校や仕事に行かず、家族以外との接点をほとんどもたない状態が6か月以上続いている「ひきこもり」の数も、2016年の内閣府による「若者の生活に関する調査」において54.1万人と推計されている。重ねて2018年の「生活状況に関する調査」によれば、40~64歳のひきこもりの数は61.3万人と推計されている。なお近年では、ひきこもりの当事者とその親の高年齢化が深刻化しつつあり、その生活がたちゆかなくなるようなケースも顕在化しはじめている。こうした事例は「80代の親と50代の子」を意味する「8050(はちまるごーまる)問題」と呼ばれ、その対応が急がれている(たとえば、毎日新聞の2019年3月29日の記事「ひきこもり、長期・高齢化顕著に、支援急務─「8050問題」深刻化も」などを参照)。

 上述のような日本社会の現況とは、個人と社会との側面から見て、大きな問題をはらむものである。まず、この問題を個人の側面からとらえれば、不安定な状態にある若者にとって、自身の悩みや不安を気軽に相談できる機会や、多様な社会参加が実現する環境が乏しいという問題を指摘することができる。すなわち、それぞれの事情のなかで自身の状況の変化を望みながらも、それらが叶う環境に恵まれず、不安定な社会生活を続けざるをえない若者が多く存在している可能性がある。

 一方で、この問題を広く社会の側面からとらえれば、社会や政府がさまざまな不利を背負う全国の若者の実態をこれまで詳細に捕捉しきれてこなかったことや、そのような若者にとっての社会参加や自立を支えるための十全な公的支援施策が長いあいだ不足してきたということが挙げられる。したがって彼らを支えるための今日的な公的支援施策とは、一人ひとりの自信や自己肯定感を醸成するものとなり、また個々人にとっての社会参加の場や機会を創出するものとなることが望まれる。加えて2005年の内閣府による「若者の包括的な自立支援方策に関する検討会報告」でも明示されるように、今日の若者の自立を支えるためには、彼らが家庭・学校・仕事の領域において抱える「複合的な問題」への対処を図り、「教育・生涯学習・就労・社会保障・家族・健康医療等を包括する自立支援の仕組み」を構築していくことがきわめて重要である。

 サポステとは、上述のような問題認識を受けて2006年度からスタートした公的支援機関であり、その成立以降、あらゆる若者にとっての「身近に相談できる機関」として運営されている。またサポステは、厚生労働省が委託した全国の若者支援の実績やノウハウがあるNPO法人、株式会社などが実施しており、2021年度では全国に177か所が設置されている。重ねてサポステで提供されているおもな支援メニューとしては、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談、コミュニケーション訓練などによるステップアップ、協力企業への就労体験などが挙げられるが、合宿生活を含む中・長期のプログラムによって自信の回復や社会的スキルの獲得などを目指す「集中訓練プログラム」や、高校や自宅などを直接訪問して相談活動をおこなう「アウトリーチ(訪問支援)」を実施しているサポステも数多い。

 サポステは若年層においても十分に周知されているとはいえず、したがって数多くの若者に利用されるにはまだ至っていない現状があるが、ただこのような公的支援機関が成立している実態を受ければ、今日の若者支援について大きく以下の2点を考えることができるだろう。

 まず第1に、今日の日本社会には、学校から社会(または仕事)へと「移行」することに関して、さまざまな困難を抱える若者が多く存在している。その一例として、人口約3800人(調査当時)の秋田県藤里町では、ひきこもり状態にある18~55歳の町民が113人存在していたこと(町内の同年齢層の8.74%)が、その社会福祉協議会の戸別訪問調査によって明らかにされ、そのように把握された町民が地域で活躍できる場を提供する活動が多数展開してきたことが報告されている(たとえば、藤里町社会福祉協議会・秋田魁新報社編『ひきこもり町おこしに発つ』秋田魁新報社・2014年、などを参照)。私たちはこのような事実を、個別の地域における限られた個人の問題であるとはとらえずに、今日のあらゆる若者のキャリアやリスクにかかわる事象としてとらえる必要がある。またこのような認識の広がりが、あらゆる個々人にとってのリカレント(循環的)な学びの場や、セカンドチャンスを構想・創出することにもつながっていくはずである。

 そして第2に、多様な若者のキャリアをていねいに支える若者支援の活動やその現場にも、大きな社会的関心が向けられることを期待したい。サポステ事業は成立からまだ15年ていどの比較的新しい事業であるが、社会参加が実現していない子ども・若者の実態が昨今浮かび上がってくるにしたがって、そのような子ども・若者を対象とするさまざまな政策も多数結実している。その主要な動向としては、2010年に施行された「子ども・若者育成支援法」や、2015年に施行された「青少年の雇用の促進等に関する法律」(若者雇用促進法)などが挙げられるが、サポステをはじめとする多くの支援機関・施設が果たす役割も、これらの政策展開の下で殊に重要視されるものとなっている。学校などの既存の公的機関とは異なるオルタナティブな教育・学習・支援の場において、さまざまな子ども・若者を支えることの意義が高まりつつある。


■ブックガイド──その先を知りたい人へ
青砥恭・さいたまユースサポートネット編『若者の貧困・居場所・セカンドチャンス』太郎次郎社エディタス、2015年
宮本みち子編『すべての若者が生きられる未来を』岩波書店、2015年
宮本みち子・佐藤洋作・宮本太郎編著『アンダークラス化する若者たち』明石書店、2021年

 

小山田建太(おやまだ・けんた)
常磐大学人間科学部教育学科助教。筑波大学大学院博士課程人間総合科学研究科教育基礎学専攻在学中。専門分野:教育社会学、共生社会学、若者支援。
主要著作:
『教育社会学』共著、ミネルヴァ書房、2018年
「事業変遷下の地域若者サポートステーションの支援意義に関する考察」単著『福祉社会学研究』第15号、2018年
「準市場における事業評価の影響の検討」『日本教育政策学会年報』第26巻、2019年