こんな授業があったんだ│第20回│一対一対応 具体物から「量」のイメージをとり出す│芳賀雅尋

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

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一対一対応
具体物から「量」のイメージをとり出す
芳賀雅尋
(1990年代 ・ 特別支援教室)

 まえにも、日本語の「同じ」にはいろいろな意味合いが含まれていることはすこし述べました。ここでは、数の学習で使う「同じ」という言葉の意味を子どもたちにわかってもらうのがねらいです。数の大きさとして「同じ」ということです。
 ところで、数がわかっているというのは、何がわかればいいのでしょうか。数字が読めて、数唱ができればいいのでしょうか。数というのはある集合(仲間)の大きさを表す一つの方法です。そのときには色や、大きさ、形で分けたとしても、数として表すときにはすべて抽象化されて2とか3で大きさを表すことになります。子象でもおとなの象でも1は1なのです。象という名称は残りますが、そのほかの要素は考える必要はありません。
 このレベルの学習は、二つの集合が同じかどうかの学習です。対応させて、同じであるかどうかということです。算数の学習というとどうしても数字や数唱を思ってしまいますが、その前に「数的に同じ」という理解が必要になります。
 ここでは両者を「数えて同じ」ではなく、操作をしながら「並べて同じ」という学習をします。「並べて同じ」は、のちのちタイルでの数の学習をするときの前提になることですから、ぜひやっておきたいものです。

ピッタリ――「並べて同じ」からの7ステップ

 対応で数の大きさが同じだとわかるには、量の4段階(直接比較⇒間接比較⇒個別単位⇒普遍単位)と同じようにやっぱり段階があると思います。
 これは東京の森誠治さんのアイデアをお借りしました。森誠治さんは、数学教育協議会(数教協)の特別支援分科会などで、「安曇野プラン」として数以前の学習プランなどを提案されている方です。特別支援の算数教育で、とくに数以前の学習分野においては第一人者ともいえる方で、わたしも数教協の全国大会で話を聞いて刺激を受けました。
 はじめに扱ったのは3個でした。2個だと何も考えずに両手で持ったら対応ができてしまいます。両手に余る量がいいと思いました。また、4だと小さい子どもにとっては、一目ではとらえにくい量になってしまうように思ったからです。操作では、一方は3個を用意しますが、対応させる方の物は5~6個のなかからとり出させます。最終的に過不足なく出せるようになってほしいからです。

1.密着型の段階

 犬の人形の上にウインナソーセージを載せて、ウインナソーセージが余らなければ「同じ」ということにしました。「同じ」を表すのには両手で囲むようにして「ピッタリ」と言うようにさせました。

犬の上にウインナソーセージを1個ずつ載せていく。
これが、数的に「同じ」ということ
2.並べて比べる

 今度は二つのものを並べて比べます。この段階のねらいは「対応」させることの操作を学ぶことです。多く出してしまったときには「あまりました」と言いながら入れ物に戻させました。逆に足りないときには「足りません」と言いながら入れ物から出します。

犬のそばにウインナソーセージを1個ずつ置いていく。
3.すこし離して比べる

 並べて比べることに慣れてきたら、すこしずつ二つの物の距離を離して並べます。

犬とソーセージの距離をすこしずつ広げていく。

 この段階は、視線の移動を使って「(ついの数が)同じ」がわかるところまでいくと大成功です。市販のプリントなどにある「どちらが多いか線でつないで比べましょう」という課題の意味は、ここの操作(視線対応)を経ないとよくわからないと思います。教科書やプリントの図は操作の結果だけが書いてあります。ですから操作抜きにそのことを教えてみても、子どもにとってはチンプンカンプンです。
 ナオト君は離れたところでも「ピッタリ」の動作をしましたが、自信はないようでした。操作のときに「ピッタリ」をしたあとに、犬に重ねて同じかどうか確かめていました。
 前にも述べましたが、完全にできるようになるまで次のレベルに進めないと思いこまないでください。子どもは、さまざまなことを経験することで「同じ」ということを広く理解していきます。ちょうどわたしたちが、一つの言葉にもいろいろな意味があることをすこしずつ理解していくように。

4.離れたところから持ってくる(1)

 同じ机の上での操作がある程度できるようになったら、もっと距離を置いていきます。子どもは「同じ」数を持ってくるためには、犬の数を記憶する必要があります。
 下の図は隣の机から持ってくるようにしたものですが、距離はだんだん離していきます。

5.犬を隠す
犬を一度見せたあと、布を掛けて見えなくする。ここへソーセージを並べさせる。

 犬を隠しておいてソーセージを並べさせました。犬を一度見せたあと、布をかぶせてしまいます。
「お昼寝が終わったら食べさせるから用意してね。」
というような場面設定がいいと思います。4.よりも一歩進んだ短期記憶が必要になります。対象物が見えなくなるので記憶だけが頼りです。

6.離れたところから持ってくる(2)〜仲立ちへ(間接比較)

 今度は間についたてを立てるなどして、いったん子どもの視野から犬が消える場面をつくります。前の場合はわからなくなったら、布をはずして犬の数を確認することができましたが、今度はそうはいきません。
 なかなかうまくできないときには、仲介するものとしてタイルを使いました。犬とタイルを対応させて、
「タイルと同じソーセージ持ってきて」
と声がけして、はじめはタイルとソーセージの対応を一緒にしました。そして机に戻って犬とソーセージの対応をしました。言ってみれば

犬=タイル、タイル=ソーセージ だから 犬=ソーセージ

の推移律をさせているのですが、子どもには言葉がわかりませんので、操作の中で感覚として覚えてもらいました。
 ここでは〝3〟で操作をさせていますが、まだまだ数の「3」の指導には入りません。あくまで対応の学習であって、数の指導ではないのです。ですから、ここで数えさせることは避けたいものです。

7.ピッタリをまとめて持ってくる

 これまでは1個ずつ持ってきて、あまったら戻すということでもよかったのですが、〝3〟を一度に持ってくることにしていきます。〝3〟という量を意識させていきます。
 はじめから「ピッタリ」持ってくることはできないかもしれませんが、だんだん慣れてきます。
 わたしはこの一連の学習を「犬とソーセージ」で通しました。ほかの物は一連の学習が終わってから、理解を深めるということで登場させました。はじめは、犬と食べ物のように「対応」がわかりやすいものにし、「エクレア」「クロワッサン」なども使いました。また、6.でタイルを使ったのは、ゆくゆくはタイルで「犬」「エクレア」「クロワッサン」⋯⋯の代用にしたいという思惑があったのです。これは次におこなう数の学習の布石のつもりです。

ずれても同じ――数の保存

 ここまで対応させて「ピッタリ」をしてきましたが、どれもずれないで並べる操作でした。

こんなとき、保存の概念ができていない子どもには、ピッタリかどうかわからなくなる。

 ところが、並べ方を変えると、多くなったり、少なくなったりする子が少なくありません。上の図は「犬」と「エクレア」です。これまでは並べ方も「ピッタリ」でした。じつは、子どもたちは犬の列の長さ、エクレアの列の長さなどで判断していたようです。保存性はまだ確立していないということになります。
 そんなときには、わざと列の長さが違うものや大きさの違うもの同士の対応をさせることにしました。子どもたちは同じように並べれば「ピッタリ」になることは学習しているので、並べ直せばいいわけです。その意味でも「同じ」とはどういう状態になったときかを学習しておけば対応できます。
 この「保存性」が確率するのは6歳前後といわれています。ちょうど小学校に入学する前後でしょうか。ですから通常学級では確認程度ですんでしまうのでしょう。しかし、特別支援教育対象といわれる子どもたちは、その段階になる前に入学する子が多いから目に付くのだと思います。
 しかし、その時期が来るのを漫然と待っているわけにはいきません。というのも、保存の概念は、教えてすぐにできるようになるものではないといわれているからです。
「実際、数の保存という概念を獲得するためには、数年間の経験が必要なのである。」(吉田甫『子どもは数をどのように理解しているのか』1991、p.13)
 わたしは「ピッタリ」などの学習を重ねていって、「習うより慣れろ」的に次の学習に入っています。そのなかで理解はだんだん深まっていくことを期待しながら。

出典:芳賀雅尋『特別支援 99までのたし算・ひき算』2010年、太郎次郎社エディタス

芳賀雅尋 (はが・まさひろ)

1949年生まれ。宮城教育大学養護学校教員養成課程卒業。
1973年より障害児教育にとりくむ。
1977年から11年間、通常学級を担任するかたわら「水道方式」にもとづく算数教育の実践プランを研究・発表。牛乳パックを使ったかけ算・わり算の教え方や、「5-2進法タイル」「パタパタタイル」を使ったプランなどが、多くの現場でとり入れられている。
1988年からはふたたび養護学校・特殊学級に勤務し、知的障害をもつ子どもを中心に算数の授業をしてきた。退職後の現在も宮城県内の特別支援学級で実践に携わっている。
数学教育協議会会員。全国障害者問題研究会 算数分科会・共同研究者。