こんな授業があったんだ│第11回│算数の授業づくりの急所中の急所〈後編〉│岡田 進│

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

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算数の授業づくりの急所中の急所
タイルのゲームで10進法と位どりを教えよう〈後編〉
岡田 進
(1981年・小学1年生)

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カードで三者関係を教える
──2位数の指導

 1位数のたし算・ひき算が終わったら、2位数にはいります。ここでは、タイルを使って十進法と位取りの原理をあつかい、2位数を読んだり書いたりできるようにしますが、一方では、その数の大きさが自由にタイルで表現できるようにすることもたいせつです。
 まず、10コ入りの卵パックを見せて、1パックに卵が10コずつはいっていることを確認し、2パックなら卵の数は<にじゅう>、3パックなら<さんじゅう>、2パックと6コなら<にじゅうろく>⋯⋯と卵の個数で2位数の数詞を軽くあつかいます。こうして、つぎに小箱に入れたタイルの数を調べさせます。

 A君は<いち><に><さん>⋯⋯と数えていましたが、途中でわからなくなったといって数えなおし、B君は卵パックのように5コずつ2列に並べて10をつくって数を調べ、C君は<に><し><ろく>⋯⋯と数え、10コずつのグループをつくって数を調べていました。

 そこで、10コずつ束にして数えたほうが数えやすく、まちがいもすくないことをおさえました。そして、バラバラのままいっしょにあわせたら、何個あるかわからなくなって、また最初から数えなおさなければならないので、まえに5の棒タイルをつくったように、ビニール・テープ(セロテープ)で10の棒タイルをつくったらどうかというふうに話を進め、下図のように5の棒タイルを2つあわせて、10の棒タイルをつくることにしました。


 こうして、10の棒タイルをつくらせてから、10の棒タイル3本と1のバラタイル7コで<さんじゅうしち>、10の棒タイル6本と1のバラタイルが4コで<ろくじゅうよん>であることをおさえました。また、キチンと整理して並べるために、画用紙に1のタイルを並べる場所、その左に10のタイルを並べる場所をきめて、それを台紙にして、その上でタイル並べをさせました。ここで位取りの登場というわけです。

37の位取り

 ところで、ビニールテープではった10の棒タイルは、ペタペタくっついたり、凹凸があったりして、それを使って作業するのには不向きです。そこで、10のかんづめタイルを使用することにしました。

 このような指導のあと、タイル・数詞・数字の三者関係、つまり、

三者関係


① タイルを見て、その数を言う。
② 数詞をきいて、タイルを並べたり、書いたりする。
③ タイルを見て、数字をかく。
④ 数字を見て、タイルを並べたり、書いたりする。
⑤ 数字を読む。
⑥ 数詞をきいたりみたりして、数字をかく。
という指導をしました。

 わたしは、この指導はカードを使って行なっています。下の図のようなタイルカード、数詞カード、数字カードの3種類のカードを作り、それらを使って、ほとんどを、ゲームか遊びでやらせています。

タイルカード 数詞カード 数字カード

 では、そのなかの一つ「手さぐり箱を使ってやるタイルとりゲーム」を紹介しましょう。

……………………………………
●手さぐり箱を使ったタイルとりゲーム

<準備>

*手さぐり箱、1コ。

*位取り台紙、1枚。

*みつ豆タイル、1⋯200コ、5⋯30本、10⋯100本。

*三者関係のカード(数字カード)、1セット。

<ゲームのやり方>……絵③

手さぐり箱で遊ぶ

*手さぐり箱のなかにタイルを全部いれる。そして、その横にタイルを並べる位取りの台紙をおき、数字カードはそのまえに裏にしてかさねる。

*読み手⋯数字カードを読む子。とり手⋯手さぐり箱のなかのタイルをとる子。点検係⋯まちがっていないかどうかを調べる子。これを1人3問(または5問)ずつ交替でやる。

*読み手は数字カードを、まをおいて2回、読む。

*とり手は手さぐり箱のなかに手をつっこんで、10のタイル3本、5のタイル1本、1のタイル2コを手さぐりでとって、位取りの台紙に並べる。

*点検係は、読み手が数字の詠み方をまちがえなかったかどうか、とり手がタイルの数をまちがいなくとって位取りの台紙に並べたかどうかを調べ、あっていれば、表の読み手・とり手の欄に○をつける。

*全員が読み手・とり手を1回ずつやったところでやめて、○の多い順に1等、2等⋯⋯をきめる。

 このゲームでは、読み手は、三者関係の⑤「数字を読む」をやり、とり手は②「数詞をきいてタイルを並べる」と④「数字を見てタイルを並べる」の両方をやっているわけです。また、点検係はその両方があっているかどうかを調べるのですから、1人も遊ばずにみんな学習します。そこがこのゲームのミソで、それに、触覚だけで2位数のタイルをとらえさせるようにした個所も、このゲームの工夫したところです。

 このゲームは、タイルをとっている本人にはまったく見えませんが、ほかの子には手さぐりでとっているようすが箱の窓からよく見えるので、子どもたちは、「それはちがうよ」「それだ、それだ」とかと言って、大はしゃぎ。授業はにぎやかなものとなります。
 ところで、カードはこのほかにもいろいろ使えてたいへん便利です。1種類ごとにも使えるし、2種類を組み合わせても使えます。また、3種類全部つかうこともできます。また、いろんなゲームもやることができますから、活用されるとよいでしょう。

くりさがりのあるひき算もゲームで

 わたしは、算数のポイントにあたる教材をみんなゲームや遊びでやれるようにならないものかと考えて、これまでいろんなゲームや遊びをやらせてみました。なかにはちっともおもしろくないものもありましたが、「これは大成功だ」というものもあります。

 その大成功ゲームのひとつが、つぎのタイルとりゲームです。夏休みの診断・治療教室のとき、このゲームをやらせていたら、2年生の女の子に、
「先生、きょうは算数の勉強しないの? 算数をしないで遊んでばかりいると、お母さんにしかられるから算数やろうよ」
と注意されました。くりあがりのたし算やくりさがりのひき算の計算練習をしているのに、彼女はそれを算数の学習と思わないで、遊びのように考えているのです。びっくりすると同時に、「シメタ。大成功だ!」とうれしくなりました。子どもには遊んでいるように思えて、内容が豊富で力のつく学習ゲームをつくるのが私の夢だったのですから、大成功というわけです。

 その後、ある出版社のかたがわたしの塾にきて、ゲームの算数のようすを見せてほしいと言われたので、このゲームを見せました。そのとき、2年生の男の子が、
「きょうはもうけた。ぜんぜん勉強やらなかった」
とニコニコして帰っていったのを見て、そのひとは、
「あんなに計算問題をやったのに、遊んだつもりでいるんですね。それに、どの子も暗算に強いですね」
と驚いておられました。

 わたしの塾では、みんながそろうまでの最初の10分くらいは、かならずといっていいほど算数のゲームや遊びをやらせるので、しぜんに暗算力がつくのでしょう。

 このタイルとりゲームは、4、5年生もやりたがります。大きい子たちにもけっこう楽しいらしいのです。

 では、どんなゲームか、つぎに紹介しましょう。

……………………………………
●くりさがりのあるひき算のタイルとりゲーム

<準備>

*みつ豆タイル、1⋯15コ、5⋯5本、10⋯10本を全員にくばる。
*計算カード⋯くりさがりのあるひき算の計算を全部かいたカードを3人〜5人のグループごとに1セットずつ配る。

くりさがりのあるひき算の計算カード
計算カード
くりさがりの型分け図
水道方式によるくりさがりの型分け図

<ゲームのやり方>……絵④

くりさがりタイルとりゲーム

*計算カードを裏にして2、3か所にわけて積む。

*計算カードを順番にめくって、たとえば、12−9のカードだったら「12ひく9は3」と大声で言って、全員から3コのタイルをもらう。この場合、答えがすぐに出ないときは、1本と2コのタイルを並べて、それから9コのタイルをとって答えを求め、「12ひく9は3」と答えてもよい。また、計算のプロセスをしゃべって答えを求めてもよい。たとえば、「2から9はとれないので、10から9をとると1。2と1で3だから、12ひく9は3」というように。

*積んだカードがなくなったらゲーム終了。手持ちのタイルの数の多い順に1位、2位⋯⋯をきめる。

 このゲームは、計算のスラスラできる子、計算のやり方を順にしゃべりながら答えを求める子、タイルを並べて答えを求める子など、それぞれの力に応じて答えを求めることができるので、ゲームそのものが1人1人の子にあった計算練習になります。しかも、カードをめくった子だけでなく、全員が計算して自分のタイルを渡すので、1人もゲームからはみだすことがありません。また、計算のできる子が勝つとはかぎらず、算数の不得手な子でも1位になれるので、計算に弱い子も劣等感をもたずにすみます。そのせいか、子どもたちの好きなゲームのひとつです。

 なお、全員がタイルを手にして、とったり、とられたりするので、数の大きさもハダで実感としてとらえられます。そして、カードをめくってやるので、まちがえた計算のカードは、またあとでやりなおすことにすれば、何回でも計算練習をさせることになり、計算の弱い子、落ちこぼされた子に計算力をつけるにはピッタリです。

 くりさがりのあるひき算の問題を1題ももらさずに全部やっても、算数の勉強をした気にならず、遊んだつもりで「勉強しなくて、もうかった」といって喜ぶのですから、天下一品のいいゲームだと思います。
 なお、このゲームはほかの計算にも使えます。小数の加減法でもやってみましたが、もちろん大成功。あとで計算練習をやらせたとき、3.54+2を、

小数の筆算

と計算する子はひとりもでませんでした。小数のタイルとりゲームで十分、遊ばせてから出題したので、小数の大きさがはっきりわかっていて、位取りで迷うことがなかったのでしょう。

 以上、タイルを使ってやるゲームの授業づくりを紹介しましたが、これらのゲームで使用したタイルは、プラスチック製の1cm3の立方体を1としたものです。色がきれいで、みつ豆みたいなせいか、1年生の子が飲みこんでしまったというエピソードもあるタイルです。

 これらのゲームを子どもが喜んでやるのも、このタイルに負うところが大きいと思います。こういうゲームで授業をすれば、かならずうまくいくことでしょう。なお、紙のタイルではたぶんうまくいかないと思われます。その点、おことわりしておきます。

[マンガ:佐々木ケン]

出典:『ひと』編集委員会編『ゲームの算数』、初出『ひと』1982年4月号、太郎次郎社

岡田 進 (おかだ・すすむ)
1926年生まれ。千葉県で小学校教員を経て、私塾を主宰。タイルを使ったさまざまな算数教育の実践で知られる。著書に『算数 つまずきの診断と治療』(明治図書)、『これなら楽しくできる 漢字の教え方』(太郎次郎社)、共著書・監修書に『親子で学ぶ算数教室』(日本書籍)、『らくらく算数ブック』1~『らくらく数学テキスト』中学1年(ともに太郎次郎社)などがある。