他人と生きるための社会学キーワード|第18回(第4期)|共生社会──関心の変容を手がかりに、共に生きる制度を考える|岡本智周

リレー連載 他人と生きるための社会学キーワード 毎号、ひとつのキーワードから「問題を考えつづける」ための視点を伝えます。社会学者から若い人へのメッセージ

毎回、ひとつのキーワードから「問題を考えつづける」ための視点を伝えます。社会学者から若い人へのメッセージ。

これまでのキーワード一覧

共生社会
関心の変容を手がかりに、共に生きる制度を考える

岡本智周

 「共生社会」という言葉は、この連載でも折にふれて取り上げてきた。近ごろは、市民運動やNPOの活動はもちろん、自治体や政府・行政機関の施策から企業・団体の取り組み、マスメディアでの議論まで、じつに多様な場面で使われている。

 では、私たちは「共生社会」と聞いて、具体的にどのような事柄を思い浮かべているのだろうか。

 ここでは社会意識調査の結果をもとに、現在の日本で人びとが想定する「共生社会」の輪郭を、実感に近いかたちで紹介する。リレー連載全体の文脈ともつながる話である。

 早稲田大学・共生教育社会学研究室では、性別・年齢・地域(八地方区分)を人口比に沿って割り付けた全国2000人規模のインターネット調査を継続している。2025年2月にも「共生社会に関する意識調査」を実施し、ジェンダーや労働のあり方、性的多様性、外国人の受け入れ、教育格差や受験競争・学歴社会といった論点を幅広く尋ねた。目的は、現代日本における「共生」志向の実際と、その背景をとらえることにある(調査内容と集計結果の全体は、こちらのページにて公開している)。 

 注目したいのがQ16の質問である。

「共生社会」に関する問題としてあなたが思いうかべるのはどのようなことでしょうか。最もよくあてはまるものをこの中から4つまで選んでお答えください。(複数回答)

 この質問は2010年の調査以降くり返しおこなっており、2019年調査までは「13項目から3つまで」を選択することとしていたが、2023年調査以降は「15項目から4つまで」と質問の設計を改めた(そのため比較のさいはこの点にご留意いただきたい)。

 下の表が質問への回答結果である。時系列での回答分布を示しており、10%以上の回答者が選択した項目を黄色、20%以上を橙色、30%以上を赤色で示した。

「共生社会」に関する問題として思いうかべること【複数回答】(%)

 まず直近の2025年の特徴から見てみよう。「LGBTQ+などの性的少数者の社会生活」がもっとも多く挙げられ、「障害者の社会生活」「男性と女性の平等」が続いた。つまり、人びとが「共生社会」を思い描くとき、中核にあるのは〈性的多様性/障害/ジェンダー〉の三領域だということがわかる。

 通時的に見ると、2010年・2014年の「定番」は、「近所の人間関係」「若い世代と高齢者の関係」「男性と女性の平等」「障害者の社会生活」「仕事と家庭生活のバランス」「自然環境と人間の関係」であった。2018年には「日本にいる外国人の社会生活」と「日本と世界の国々の関係」が大きく伸び、国際的な関係や移動が「共生社会」を考えるさいの主要な連想に加わった。2023年には新たな項目として加えた「所得や社会的地位の相違」と「LGBTQ+などの性的少数者の社会生活」が上位となり、とくに後者は最多の選択項目になった。2025年はこの流れを基本的に引き継ぎつつ、「宗教的信条の相違」が10%を超え、逆に「所得や社会的地位の相違」や「仕事と家庭生活のバランス」が10%を下回るという入れ替わりが見えた。宗教的側面への関心の高まりは、今後の社会変化を占うシグナルかもしれない。

 こうして社会意識調査の結果を並べると、「共生社会」は単一の理想像というより、時代や社会の状況のなかで人びとが直面している“問題の束”と強く結びついて想定されていることがわかる。かつては「近所」や「世代」の身近な関係が主題だったのが、しだいにジェンダーや障害、外国人の社会生活、セクシュアリティへと、関心の地図が広がってきた。その広がりこそが、いま描かれている「共生社会」の実像である(詳しくは、研究室の報告書も参照されたい)。

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 関心の地図は、時とともに少しずつ描き替えられている。見えてくるのは、特定の理念よりも、日常で出会う“問題の束”としての「共生社会」である。だからこそ本連載は、一つひとつのキーワードから社会の「いま」を照らしてきた。別個に見える課題の背後では同じ回路が作動しており、ジェンダーの不均衡、障害と合理的配慮の課題、外国人の生活、学歴と選抜の仕組みなどの問題は、いずれもどのような社会制度で人びとのあいだの「違い」を支えるかという一つの論点でつながっている。

 共生社会の研究においては、この通底部を扱うことが不可欠である。2016年に刊行された『共生の社会学』は、ナショナリズム、ケア(ジェンダー/障害)、世代、社会意識という4つの窓から、「共生社会」の問題構造に迫った。そこでは「共生」を、「『あるもの』と『異なるもの』の関係性を対象化し、両者を隔てる社会的カテゴリ(社会現象を整序する枠組み)それ自体を、いまあるものとは別なるものへと組み直す現象」と定義し、「社会的カテゴリの更新」のための資源を指し示した。

 この議論をさらに押し広げる続編として、『多様性と凝集性の社会学──共生社会の考え方』が2025年10月に刊行された。本書では「多様性の尊重」と「社会的凝集性」の両立を、理論・歴史・制度設計・教育の諸側面から検討している。多様性の重要性が広く共有されるようになりつつも、その先にどのような社会のかたちを築くのかという議論が後景に退くと、理念が独り歩きしてシニシズム(冷笑主義)を呼び込んだり、わかりやすい“まとまり(凝集性)”としてのナショナリズムに回収されたりする危うさが生じる。本書はその2つの落とし穴を見据え、避けつつ、行政・学校・地域といった具体的な場での、今後不可欠となる社会制度の条件を考えるものである。

 社会意識調査が可視化してきた関心の変容は、私たちの“いま目の前にある問題”の入れ替わりを示している。同時に、それらの問題は相互に連なり、どの入り口から共生を語り、次にどの問題へ手を伸ばすべきかを示唆しているといえる。それはそのまま問題解決への経路でもある。本連載の「社会制度」の回でも示されたように、私たちには、日々の相互作用をとおして「規則」や「慣習」を、また明文化することで「法」を、すなわち社会制度を作り変えていくこともできる。「共生社会」とは、そのような実践を重ね、問題への対応を制度に織り込みながら、実体性を高めていく社会だといえるだろう。


■ブックガイド──その先を知りたい人へ
岡本智周・丹治恭子編『共生の社会学──ナショナリズム、ケア、世代、社会意識』太郎次郎社エディタス、2016年
岡本智周「「共生社会」の社会的認知の様態と背景、およびその経年変化」『共生学研究』第1号、2024年
岡本智周編『多様性と凝集性の社会学──共生社会の考え方』太郎次郎社エディタス、2025年

(リレー連載第4期・完)

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岡本智周(おかもと・ともちか)
早稲田大学文学学術院教授。早稲田大学大学院文学研究科社会学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。専門分野:教育社会学、共生社会学、ナショナリズム研究、社会意識研究。
主要著作:
『共生社会とナショナルヒストリー』勁草書房、2013年
『「ゆとり」批判はどうつくられたのか』共著、太郎次郎社エディタス、2014年
『教育と社会』共著、学文社、2021年
「どうして社会的凝集性を問うのか」『ソシオロジ』212号、2025年
『多様性と凝集性の社会学』編著、太郎次郎社エディタス、2025年

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