こんな授業があったんだ|第62回|1億タイルのうえでボール投げ〈後編〉|岡田進

こんな授業があったんだ 授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

授業って、教科書を学ぶためだけのもの? え、まさか。1980〜90年代の授業を中心に、発見に満ちた実践記録の数々を紹介します。

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1億タイルのうえでボール投げ
続・十進法と位取りの指導 〈後編〉
(小学3年生・1973年)
岡田進


〈前編〉から読む

3.一億タイルをつくって、みんなであそぶ
★一億タイルをつくる(7月13日)★

 1m×0.7mの1mm方眼紙がとどいたので、いよいよ一億タイルづくりだ。
T「このまえ、廊下にしいた、あのでかくて長いタイルはいくつのタイルだった?」
P(いっせいに)「千万」「一千万」
T「そうだね。じゃあ、一千万を10集めた数を知っているかな?」
P「一億でしょう」
T「そう。一億だね」
 「日本の人口は一億だぞ」という声もする。
T「一千万を10集めた数を一億というんだが、きょうはね、その一億のタイルをあの方眼紙でつくるんだ。大きさはどれだけあるかな?」
P「一千万のタイルを10集めたんだから、10mの正方形です」
T「そうだね。10mの正方形だね。教室でつくれるかな?」
P「つくれないよ」
T「じゃあ、廊下では?」
P「だめだよ」
P「運動場だよ、つくれるのは」
P「体育館(講堂兼用)ならつくれるよ」
P「はばがせまくてつくれないよ」
P「つくれるもん」
 〝つくれる〟〝つくれない〟で、さわがしくなる。
T「体育館だとつくれるんだ」
 「バンザイ」「ヤッタ」などの声で教室はわきかえる。
T「これから体育館にいって、一億タイルをつくろう」
 まえにつくった千万、百万のタイル、それと、1m×0.7mの方眼紙一束(150枚)、それに、のり、はさみ、セロテープをいれたダンボールの箱を子どもに持たせて体育館にのりこむ。いつもは体育の授業をやっている体育館も水泳指導でどのクラスも使用していない。
 各班の場所をきめ、全員がそれぞれ仕事を分担して作業にとりかかる。まず、どの班も百万タイルからつくりはじめた。方眼紙を切る子、のりづけする子、百万タイルをはこぶ子、百万タイルをつないで千万タイルをつくる子、38人の子どもがみんな忙しく働いている。
 やがて、千万タイルの大きく長い帯が7、8本並ぶ。一億タイルづくりにとりかかるしおどきだ。手のすいた子に千万タイルの一方ののりしろを切らせ、他方ののりしろにのりをつけさせる。これをはりあわせて、二千万タイル、三千万タイル⋯⋯とつくっていくのだ。何しろ、10mの長さの紙を切ったり、のりづけしたりするのだから、たいへんだ。はさみを使っていると、親指と人さし指が痛くなるし、のりづけすると、むこうのはしにいきつくあいだに、はじめにつけたのりがかわいてしまう。わたしもはさみを使っていたが、中腰の姿勢での作業のせいか腰がいたくなり、途中で子どもと交替した。4、5人がかりで四苦八苦のすえ、やっと二千万タイルができあがった。
 こんな調子で作業はすすみ、やがて、九千万タイルに一千万タイルをはりつけた。一億タイルの完成だ。さっそく全員を集めて、一千万が10で一億になること、1mmの正方形を1としたとき、一億の大きさはこんな大きさ10m×10m)になるのだと、タイルを目のまえにして確かめる。

★一億タイルは、でっかいなア★

  子どもたちの「でっかいなア」という感慨をこめた声、大きな仕事を完成した満足感にみちた目、うれしさにほころびた顔、これが38人の子の一億タイル誕生への祝福であった。
 つぎは、全員であとかたづけだ。紙くずをダンボールの箱に集め、床についた紙やのりをぞうきんでふきとるのだが、これがまた一仕事。広い体育館をフルに使って作業をしたため、紙やのりがあちこちにくっつき、それがなかなかとれない。一億タイルの下をきれいにするため、タイルを動かそうとすると、これも裏がところどころ床にはりついて動かない。困ったものだと思っているあいだに、男の子が数人タイルの下にもぐりこんで、のりをはがす。
 このとき、2、3か所が破れてしまった。この傷口は女の子がすぐにセロテープとのりで修理したが、さて、このタイルをどこにかたづけるかだ。保管する場所がない。体育館(講堂兼用)のステージのうえに置くよりほかに場所がない。いま、動かすより、のりが完全にかわくまでソッとしておいたほうがよいと考え、あとかたづけをして、ひとまず教室へ引きあげた。
 給食をたべ終わって、教室の掃除をしていたら、
「先生、たいへん、たいへん。タイルが破られている」
とAが息をきらしてかけこんできた。さっそく行ってみると、体育館の掃除当番がタイルの処置に困って、ステージのうえに折りたたんで上げたため、紙のはしが2、3か所裂けていたのである。たいしたことでなく、ホッとして教室へ帰ったが、子どもたちはあの破けたところを修繕するのだといってきかない。そこで、掃除をかんたんにすませ、また、セロテープを持って体育館に出かけた。
 ステージから降ろして広げるのだが、これがまた、ひと仕事だ。5人や6人の子では持ちあがらない。アリが餌にむらがるように、20人ぐらいの子がタイルを囲み、元気のいい子数人がタイルの下にもぐって、一、二の三の掛け声で持ちあげて、やっとステージからおろす。その光景は大きなイモ虫を小さなアリがよってたかって運ぶのとそっくりであった。
 体育館の中央に広げると、はしが数か所、中央部が2、3か所破けていた。さっそくセロテープで修理する。
 これから、また、ステージのうえに折りたたんで上げるのだ。一方のへりに十数人の子を配して紙のはしを持たせ、それを同時に頭の高さまで持ちあげさせて、からだごとかぶさるようにして折りたたみ、それを何回か繰り返して、やっとアンコ巻きにたたんだのである。
 そのタイルを折るときの眺めは、ちょうど白い波が浜辺に打ちよせてくだけるようで、ザ、ザ、ザー、バサッという紙の音をともなって、じつに壮観であった。子どもたちは、波だ、波だと大はしゃぎ。なかには、津波がきたといってとびはねる子もいた。やっとのことでステージにタイルを上げて教室へ引きあげたが、その帰り道、
T「よし。あしたは一億タイルを使ってドッジボールをやろう」
と口をすべらしたから、たまらない。子どもたちは「やろう」「やろう」とおおのり気で、「何時間めにするの?」「どこでやるの?」とついてまわられ、家に帰すのに一苦労であった。

★一億タイルを運動場に広げる(7月14日)★

 1時間め、教室にはいると、とたんに、
P「先生、一億タイルでドッジボールするんでしょう」
P「早くやろうよ」
と矢のさいそく。
T「風がなくなったら外でやるからね」
とたしなめて、ほかの授業をやる。
 3時間め、ほとんど風がないようなので、
T「これから一億タイルを外に出して、ドッジボールをやるぞ。体育館に行こう」
と全員をつれて体育館に行き、タイルを運びだす。3階から運動場まで巨大なタイルの巻き物をかぶって階段を降りるのだ。足を踏みはずさないように、また、破らないようにと注意しながら、やっとのことで校庭に出る。一億タイルを広げて屋上から眺めて、その大きさを目の底に焼きつけさせ、石灰の白いラインでまわりを囲んで10mの正方形をつくり、そのなかでドッジボールをやらせようという腹づもりである。ほとんど風はない。
 屋上から見やすい位置に一億タイルをソーッと広げさせた。位置を修正していたとき、スーツと頬をなでるような風がとおった。すると、どうだろう。風をはらんだ一億タイルは魔法のじゅうたんのようにフワッと舞いあがるではないか。
「タイルをおさえろ」「おさえるんだ」
とどなって、やっと飛ばされずにすんだが、みんなが、あわてて力いっぱいひっぱったため、無残にもビリビリに裂けてしまったのである。
 これではドッジボールも何もあったものではない。捨てる気にもなれず、ひとまず、体育館に持ち帰ることにした。気落ちして重い足をひきずっていると、
 「先生、セロテープでなおそうよ」「修繕しようよ」
という。
「じゃあ、やるか」
と子どもにはげまされて、事務室にセロテープをとりにいく。体育館につくと、子どもたちは、すでにタイルの裂け口をあわせていた。部分的には引きちぎれたところもあったが、この復元作業は子どもたちの精力的な働きによって意外にはかどり、約1時間で完了したのである。
 わたしの浅慮のため、1日がかりでつくった苦心の結晶を無残にも引き裂く結果となったが、その代償として、子どもたちの自分たちの作品に対する愛情の強さを、この目ではっきりと確かめることができたことは、何にもまして得がたい収穫であった。

★一億タイルのうえでボール投げ(7月19日)★

 いよいよきょうで1学期の授業が終わりというこの日、かねて約束していた一億タイルのうえでボール投げをすることにした。まえの失敗にこりて、こんどは体育館の中央にタイルをしき、そのうえでボール投げをやろうという趣向である。
 まず、最初に38名の子のなかにわたしも加わって、両手を広げてタイルのまわりを囲んだのだが、どうしても手がとどかない。4、5mとどかないのだ。子どもたちも実際に手を広げてみて、その広さをあらためて見なおしたのではあるまいか。


 このあと、上ばきをぬがせてタイルのうえにあがらせ、外野と内野にわけて、方形ドッジボールをさせたが、反対側にいる子までパスのとどく子が数人しかいないので、ころがったボールでもあたれば、アウトということにして、たのしい1時間をすごさせた。子どもたちは、かけたり、すべったり、ころんだりして興じていたが、タイルはほとんど破れなかった。
 この子たちにとって、この一億タイルづくりは3年生の勉強の思い出として、いつまでも頭の片隅で生きつづけるのではあるまいか。わたし自身にとっても、一生忘れることのできない思い出の授業になるだろうと思う。

4.子どもの感想文から
■一億タイルを作ったこと

 わたしたちは一億のタイルを作りました。1ミリのほうがん紙で作りました。はじめ、1のタイルからじゅんじゅんに作っていきました。だんだん大きくなって、教室でできなくなったので、こうどうで作りました。
 わたしは、あんな小さな1のタイルを十万や百万にすると、ずいぶん大きくなるんだなあと思いました。
 千万のタイルをみんなで作って、10まいはりあわせると、一億のタイルができました。はりあわせて、じっと見ていると、すごく大きいなあと思いました。
 手を見たら、のりでガビガビになっていて、手と手をあわせてこすると、ザラザラしていました。それで、手をあらいました。水にぬらしてこすると、ヌルヌルしていて、へんなかんじがしました。
 教室に帰って、また、こうどうに行ったら、大きい人が一億タイルをゴチャゴチャにして台の上にのせたのでやぶけていました。せっかく作った一億タイルがやぶけてしまったので、ガッカリしました。
 セロテープを持っていって、先生とはりました。そして、こうどうの台の上にのせました。先生が一億タイルでドッジボールをしようといったのをきいて、うれしくなりました。(君代)

■一億のタイル

 みんなで一億のタイルを作りました。はじめに、百万のタイルを作りました。百万のタイルを作るには、ほうがん紙を2まいつかいます。ほうがん紙のかたほうを30cmに切って、もう一方のほうがん紙とはり合わせます。そうして、その百万タイルを10まい作ったら、10まいのタイルをじゅんじゅんにはり合わせます。百万タイルを10まいはり合わせると、千万タイルができます。千万タイルはたてが10m、横が1mです。そして、また千万タイルを10まいはり合わせると、一億のタイルができます。一億のタイルはたて・横10mもあります。大きくて、体育かんにおくと、体育かんのはばがせまく見えました。だから、体育かんにしまっておくときは、たたんで、台の上にのせました。たたむときは、みんなで紙のはしを頭の高さぐらいにもっておりまげましたが、そのとき、「わあ。つなみだ」とみんなでいいました。わたしは、「アーメン。ソーメン。生ラーメン」といいました。
 台にのせるときは、みんなで下から持ち上げて、やっとのことでのせました。(陽子)

■一億のタイルがやぶけたこと

 3年1組のみんなで一億のタイルをつくりました。一億のタイルを外に出したとき、すこしやぶけてしまいました。やぶけたところをセロテープではっていたら、風がふいてきてとびそうになりました。先生が「おさえろ。おさえろ」と大きなこえでどなりました。ぼくはタイルの下にはいって、なかから、とびそうになったタイルをつかまえてひっぱりました。そしたら、紙の下じきになってしまいました。
 外は風があるので、体育かんにかえりましたが、タイルはうすい紙なので、体育かんにつくまでにビリビリにやぶれてしまいました。(孝雄)

■一億タイルのこと

 千万タイルを10まい、のりでくっつけて一億タイルを作りました。一億タイルは、たて・よこ10mの正方形です。
「こうていで一億のタイルを使って、ドッジボールをやるから、タイルをもっていらっしゃい」
と先生がいいました。
 わたしたちは、さっそくこうどうからタイルをみんなのあたまの上にのせてはこびました。タイルはすこしやぶけてしまいました。
 こうていでタイルをひろげて、やぶけているところをセロテープではりました。
 はっていると風でタイルがスーッと空に上がりだしたので、先生が、
「タイルをおさえなさい」
といいました。みんな、いっしょうけんめいひっぱったり、おさえたりしました。そしたら、タイルはくしゃくしゃになり、だいぶやぶけました。
「こうていは、風があるから、こうどうに行こう」
と先生がいったので、みんなで、また、タイルをもってこうどうにいきました。もっていくとちゅう、タイルははんぶんにきれてしまいました。
 わたしは、はんぶんをひとりでもっていきました。紙だから、かるいと思っていましたが、もってみると、おもかったので、びっくりしました。それで、こうどうにいくまでに、つかれてしまいました。
 こうどうに行って、やぶけたところを、セロテープではりました。
 はりおわって、みんなで一億タイルをかこみました。38人でりょう手をひろげてまわりをかこんだけど、手をつなぐことはできませんでした。それがおわって、タイルをたたんで台の上にのせました。
 わたしは、あとで、きょうはたいへんだったけど、おもしろかったとおもいました。(恵子)

■さんすうがすきになった

 ぼくは2年のとき、さんすうは、あんまりすきじゃありませんでした。でも、3年になったら、すきになってきました。
 タイルをつくったときは、すごくたいへんでした。手にのりがべたべたついて、ようふくにもつきました。だけど、おもしろかった。タイルづくりをしてから、さんすうがすきになりました。(義人)

 (おわり)

出典:『ひと』1974年4月号、太郎次郎社

岡田 進 (おかだ・すすむ)
1926年生まれ。千葉県で小学校教員を経て、私塾を主宰。タイルを使ったさまざまな算数教育の実践で知られる。著書に『算数 つまずきの診断と治療』(明治図書)、『これなら楽しくできる 漢字の教え方』(太郎次郎社)、共著書・監修書に『親子で学ぶ算数教室』(日本書籍)、『らくらく算数ブック』1~『らくらく数学テキスト』中学1年(ともに太郎次郎社)などがある。