お父さんはフェミニストだよ、と言える日のために|第17回|優生思想や植民地主義は「かわいい世界」にも存在している|張江浩司

第17回
優生思想や植民地主義は
「かわいい世界」にも存在している
張江浩司
優生思想や植民地主義は
犬とふれあう子どもは眼福の光景
例によって子はぐんぐん成長しており、最近のトピックとしては音楽に合わせてガンガン踊るようになった。ちょっとでもリズミカルな曲ならグッと腰を落として尻を振り、盛り上がってきたら両腕をブンブンと振り回してハードなモンキーダンス、もしくはサイコビリーのパンチ合戦といった感じになる。『どんぐりころころ』でも踊るし、テレビ東京の「シナプしゅ」で1月にパワープレイされていた『鬼になる』という曲では終わりそうになると人差し指を突き出して「もう一回!」と無限リピートを要求し無限踊り、ニュー・オーダーの『Blue Monday』でもノリに乗っており、その雑食ぶりはパーティーアニマル状態。
これ、忘我の境地でめちゃくちゃ踊ってる人のことを指して「パーティーアニマル」と表すことがしばしばあるけど、ざっと調べたところ、リズムに合わせてダンスする動物はかなり限られているらしい。意外にもリズムと同期して体を動かすのは、哺乳類では人間だけ。ダンスに漠然とプリミティブなイメージをもっていたが、このことを知ると、踊る子どもに「おお、人間満喫してるねえ」という感慨を抱くようになった。「おそらく楽しんでダンスしているであろう」とされているのはオウム目の一部とイルカ。すごい組み合わせだ。極彩色の鳥が舞い、デカい水槽にはイルカが泳ぐクラブ、行きたい。オウムとイルカといっしょに踊るうちの子ども、見たい。
子どもと動物の組み合わせはたいへん眼福で、先日犬カフェに行ったときはすごかった。豆柴、チワワ、トイプードルなど多様な小型犬たちと、それを追いかけたり、追いかけられたりする子ども。おそるおそる犬をなでて、うれしそうな表情を浮かべるに至っては拝みたくなるくらい尊い光景だったし、500円購入した「犬のおやつ」こと鶏ササミを子に渡したら、犬にあげるまえに自分でパクッと食べちゃった。私が節操のない育児系インフルエンサーだったら危うく大バズりするようなエピソードまでいただいてしまった。犬カフェ、なんと素晴らしいお店。子を連れて何度でも来たい。
しかし、1時間6000円くらいかかったんだよな。犬に目を輝かせて「わんわん!」と叫ぶ子どもの姿はプライスレスではあるけども、これはなかなかに厳しい出費。ならばいっそ飼ったほうが経済的かとも思うが、生体販売というもの自体に抵抗があるので(まったくの偏見ですが、『冷たい熱帯魚』を観て、そのベースになった「埼玉愛犬家連続殺人事件」のWikipediaを読んで以来、ペットショップの人がうっすら怖くなってしまったというのもある)、もしそうするなら保護犬を譲渡してもらう道を探すことになるが、そもそもわれわれの生活スタイルに「犬を飼う」ということが合致するのかどうか、よくよく熟考しなければならない。
動物を品種改良する人間もやがては⋯⋯
とりあえず、テレビを指して「わんわん!」と言う子どもの命を受け、YouTubeで犬に関する動画を見つづける毎日。アルゴリズムにリコメンドされるがままに「【超大型犬❤️人気ランキング2023】ムチムチのかわいい子犬が体重40kg越えに!性格や魅力も紹介!」という動画を再生すると、つぎからつぎへとめちゃくちゃデカくてモフモフした犬が登場する。グレートデーンなんか、思った以上にデカい。このサイズの犬を東京都内で飼うとしたらどんだけ大きな家に住まないといけないんだ、宝くじで5億円当てるしかないよな、と夢想していると、ニューファンドランドという耳なじみのない犬種が紹介されていた。
「ニューファンドランド島の漁村で漁師の手伝いをしていた作業犬。(中略)長く人と暮らしてきたため人の言うことをよく理解し、手助けできる賢さも備える」とのこと。なんだかすごく違和感がある記述だ。
これって、特定のわんちゃんの性格に関する説明じゃないんだよね? ニューファンドランドという犬種全体を指してるんだよね? それにしては個別具体的というか、これから生まれてくるニューファンドランドを含めて形容するにはあまりに限定的なように思える。アホで作業に向かず、人の指示をぜんぜん理解できないニューファンドランドも無数にいたはずだし、いまもいるんではないだろうか(それはそれでたいへんよいと思う)。
他の犬種に関しても似たような記述がほとんどで、性格や能力をその犬種が自然発生的に獲得した本質であるかのように紹介しているものばかりだが、犬種自体が19世紀以来の人為的なかけあわせによって生まれたものである以上、そこからは優生思想的なものが感じとれる。
もちろん、現存する家畜や作物はほとんどそうやってつくられてきて、私もその恩恵を受けまくってるし、差別という概念やそれに対抗する言説は、基本的に人間を想定しているものだから「優生学的である」という批判を人間以外にも適用していいものかどうか、判断が難しい。昨年、来日したトランプ米大統領の横でぴょんぴょん飛び跳ねる高市首相を「アメリカの犬」と表現するSNSのポストに対して、「それは犬への種差別です」というリプライを見かけた。いやまあ、言いたいことはわかるけども⋯⋯。こういった考えを極端に拡大していくと、メンタリストDaiGoなる人物が2021年にYouTube上で言い放った「生活保護の人たちに食わせる金があるんだったら猫を救って欲しいと僕は思う」という最低最悪の妄言に接続されうる。
しかし一方で、ガザで未曾有の虐殺をおこなっているイスラエルの権力者と軍は「われわれは動物人間と戦っている」=「敵は動物だから人権は適用されないので、何やってもいい」というレトリックで自己正当化を図っている。このように「人間/動物」というラインが恣意的に決定されうる現実にあっては、犬種の特徴を語るときの薄気味悪さが、いつ人間に導入されるかわからない。動物愛護という保護者としての視点ではなく、自分の身に降りかかりうる問題として考えなくてはいけないかもしれない。ものすごくディストピアSFじみた話だけど。
子どもむけコンテンツに紛れこむ植民地主義
YouTubeは、今度はペンギンの動画を流している。子は『ピングー』にハマっているので、実際のペンギンにも興味津々だ。エンペラーペンギン、キングペンギン、アデリーペンギンと、つぎつぎに紹介されていく。
ペンギンは人の手によって交配させられたりしていないので、ひとまず安心。アフリカ大陸で唯一繁殖するというケープペンギンは、人間と生息地域が隣接しているそうで、街にも出てくるらしい。1499年にヴァスコ・ダ・ガマ率いる船団がインド航路を開拓する折にケープペンギンに遭遇した記録が残っており、「歴史上、人類と初めて出会ったペンギン」になるという。
ピピー! アウト! 植民地主義です! 心のホイッスルを思いっきり吹いて、レッドカードを胸ポケットから出しました。これは完全にアウトでしょう。
当然のことながら大航海時代以前からケープ地方には人びとが暮らしているわけで、どう考えてもその集落にケープペンギンはひょっこり顔を出していたはずなのに、それがまるっと無視されている。この「歴史上」というエクスキューズにしたって、「西洋人の記述したテキストのみを人類の歴史として採用します」という植民地主義ど真ん中ワードだし。
業務用冷蔵庫の老舗ホシザキが運営している「ペンギンライブラリー」というWebページにも「歴史的な記録上では、人間に最初に会ったのはケープペンギンとされている」と書かれているので、このYouTube動画はこれが元ネタかもしれない。
サンシャイン水族館が2025年1月に発行した「いきものディスカバリー通信vol.24」には「ケープペンギンは、遡ること1497年にバスコ・ダ・ガマの航海船によって発見され、西洋に知られることになりました」とあり、せめてこれくらいの表現が穏当だと思う。
うう、子ども向けの動物コンテンツ、ぜんぜん油断できない。おそらくこういった動画なんかをつくってる人たちには、優生思想や植民地主義を広める意思はないだろうと思う。でも、そういう気の抜けたところに滲み出るのが差別意識ってやつだよね。
5年後くらいに、すっかり動物博士キャラになったうちの子どもが、図鑑を片手に邪気0%で「秋田犬はドーベルマンやピットブルと並んでもっとも勇敢な犬種といわれているんだ!」なんて言いはじめたら、どんなに目が輝いていても気をつけなければならない。そのわりと近い延長線上に「日本人は勤勉で礼儀正しく、世界から尊敬されている」という言説がある気がする。そりゃそういう人もいるだろうし、そうじゃない人もいるだろうに。臆病な秋田犬もいるでしょうよ。
これはもう、漫才のときのナイツ土屋さんのように「まあ、犬種という分類は生物学的には存在しないんですけども。人種も同じくですし」とか「いや、絶対にヴァスコ・ダ・ガマより先に地元の人たちがケープペンギンに会ってるでしょ!」とかいちいちツッコんでいこうと思う。嫌だろうなあ、父親が隣でツッコんでくるの。なるべく短くサラッとしたツッコミができるように、いまから腕を磨かなければならない。一人でセルフツッコミできるようになるまでは我慢してほしい。

張江浩司(はりえ・こうじ)
1985年、北海道函館生まれ。ライター、司会、バンドマン、オルタナティブミュージック史研究者など多岐にわたり活動中。レコードレーベル「ハリエンタル」主宰。
ポッドキャスト「映画雑談」、「オルナタティブミュージックヒストリカルパースペクティヴ」、「しんどいエブリデイのためのソングス」。
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